【本編完結】嫌味な男と婚約させられた令嬢ですが、ある日その婚約者が猫になっていました

翠月 歩夢

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44.猫になった婚約者と帰り道

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 契約を終え、軽い雑談をした。そのあとは特に話すこともなかったので、私はお茶をライルはミルクを飲み帰ることにした。


「じゃあばいばーい! なんかあったら僕のところに来てね!」


 へクセはアンティークショップの前に立ち、手を大きく振っていた。

 私も小さく手を振り返す。ライルは腕の中で、片手を上げて応じていた。


「あの男、得体が知れんな」


 家へと歩いている最中、ライルが私を見ながら呟いた。


「……変わり者と言ったでしょう?」
「うむ。それはそうなんだが……基本的には無害そうな空気を纏っているが、突然圧が増すというか刺すような空気になるというか」
「ええ、確かに。今日のへクセは特にそうでしたわ」


 昔から、たまに雰囲気が変わることはあった。本当にごくたまにだけれど。怒っている時や何か危険が迫っていた時は、周りの空気が冷たくなるような黒い空気を纏っていた。

 今日特に雰囲気が変わっていたのは、魔女であることを明かしたからなのだろうか。今まで秘密にされていたくらいなのだ。秘密を話すことで警戒されていたのかもしれない。


「あの男……本音が分からん」
「ええ、まぁ。底が知れないですね」
「最初はへらへらした気の抜けた男だと思っていたのだ。こっちも間延びしてしまう男だと」
「ああ、へクセのペースに飲まれてましたもんね」
「うむ。俺の考えが読まれているような……全てあの男の手のひらで踊らされているような、そんな感じがする」


 見透かされている。そう感じることはよくある。それに、全てがへクセの思惑通りと思うことも。

 なんというか、私にとって予想外の事柄でもへクセは知っていたような気がするのだ。知っていて、敢えて楽しむために放置しておいた……というような。

 けれど、悪い人ではない。約束は必ず守り、相談すれば協力してくれ、一生懸命に解決策を考えてくれる。良い人だとは思う。


「……悪い奴ではない。むしろ、良い奴だとは思うがな……食えない奴だ」
「ええ、そうですわね。私もライル様と同意見です」
「カレンも同じ気持ちなのか?」


 目を丸くして、驚いた顔をされた。


「ええ。意外ですか?」
「む……お前の幼なじみと言っていたし、信頼しているようだったから……こんなこと言ったら怒られるかと思ったぞ」
「ふふ、怒られると思ったのに、言ったのですか?」
「いや……それはあれだ。あの……」


 もごもごとその先の言葉は、ちゃんとした言葉にはなっていなかった。つい言ってしまったあとで怒られると思ったのだろうか。


「あ、着きましたわ」
「もうか? 早いな」
「まぁ、すぐ近くですからね」
「そうか」


 家に着いた。へクセのアンティークショップと家との距離は近い。だからこそ、へクセはよく庭に忍び込んで私と遊んでいたのだが。

 今思えば、気がつかれたり追い出されたりせずに庭に入ってこれたのも、魔女の力だったのだろうか。それとも単にへクセが隠れ上手だっただけ?


「おい、なにぼーっとしてるのだ?」
「ああ、申し訳ありません」


 自室に戻るため、ライルを抱えたまま、庭を歩いていった。

 
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