【完結】君の記憶と過去の交錯

翠月 歩夢

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過ぎ行く日々

四話

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 初めて声をかけた日から既に数日が経過していた。今ではもう、放課後に彼に会えることを楽しみに学校に向かっていると言っても過言ではない。学校にいる間に、今日は何を話そうかと考えそわそわしてしまう。出会って間もないのに、早く放課後になりはしないかと気持ちが逸るばかりだ。


「おはよー!」

「あ、おはよう」


 挨拶をすれば彼は爽やかな笑顔を振り撒きながら木から降りてくる。そして、木の近くにあるベンチに座って会話をする。この流れがここ何日かのうちに日課と化していた。

 いつもは放課後に寄って話すだけなのだが今日は休日。それなのに例の如く公園に来てしまったのだった。彼は聞き上手で安心する。一緒にいる時の雰囲気が心地良くて、話すのが楽しくなってしまったのだ。


「ねぇ、あのさ」


 斜め上にある彼の横顔を見て、前置きなく彼に話しかける。すると彼は私へ視線を動かし、どうしたの、という風に首を傾げる。彼のこの動作は言葉の続きを促すものであるというのは会話を重ねる内に分かったことだ。


「あなたの名前って何ていうの?」


 何度も会話をしているのに、最初に聞くべきであろうことを聞いていなかったことを思い出した。私も彼も互いに名前を聞くという行為を何故だかしていなかったのだ。確か名前は覚えていると最初の時に言っていたから、答えてくれるだろう。

 そう思っていたのだが、名前を聞かれた彼は唇に手を当て考え込む仕草を見せた。宙を見たり、軽く首を傾げたりしていて何やら様子がおかしい。唇だけを動かし音を確認するかのような動作を繰り返す。

 彼を見ている内にある事が頭をよぎった。まさかとは思うが自分の名前を忘れてしまったのだろうか。勝手にハラハラしていると、彼はゆっくり口を開いた。

「俺の名前は……零、だよ」


 それを聞いて安堵すると同時に、なんとなくその名前に懐かしさを感じた。何処かで聞いたことのあるような……まるで昔から知っていたかのような……そう感じさせる名前だった。また、彼に似合っている名前だと変に納得してしまった。


「君は? 何ていうの?」


 冬の夜空の如く透き通った黒い双眼で私を見つめ微笑みを浮かべて尋ねてきた。その問いに、待ってましたとばかりに自慢げに答える。


「私はね、桜空《さら》!」


 桜吹雪の舞う春の日に生まれたからという理由で母が名付けたらしい。桜の空でサラと読むなんて珍しいとは思うが、私はこの名前をとても気に入っている。


「桜空か。いい名前だね」


 そう言って笑う彼に誇らしげに「そうでしょ」と返すと、柔らかく軽やかな笑い声が帰ってきた。いつの間にかこの緩やかで暖かな空気感に慣れっこになってしまった。
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