18 / 18
別れ
十八話
しおりを挟む
「でもっ……」
引き下がらない私の言葉を遮って、零は口を開く。表情は相変わらず、微笑みを保ったままだ。
「俺がしたくてやった事だから。ね?」
未だ泣き止まない私を宥めるように、柔らかな声で。そうだ、あの時も零は大丈夫だから、と。今と同じように優しい声で、愚図る私を送り出したんだ。
「……っ、零……」
「全くもう、桜空は今でも泣き虫なんだから」
呆れたように笑って見せる零の身体はもう後ろにある街の景色が透けて見える程、薄くなっていた。溢れている光の粒も、さっきとは比べ物にならないくらい多い。周りの光が増せば、それに比例して零の存在が希薄になっていく。
伸びてきたその手は、空を切る。行き場を失った片手は中途半端な所で止まって、どうすべきか悩んでいるようにも見える。
触れないもどかしさを誤魔化すためか、零はまた、笑った。困っている時も、苦しい時も、どんな時でも零は笑うのだ。宙に投げ出されたままだった手は、力なく降ろされた。
「最期、くらいはさ……笑って見送ってよ……」
そんな零が、ぽつりと弱々しく呟いた。その声は震えていて、目は潤んでいた。笑顔を繕おうとしてもいい上手くいかないのか、その顔は歪んでいた。
「二度も泣き顔でさよならなんてしたくないよ……」
そういう零の目からは今にも雫が落ちてしまいそうだ。だが、唇は綺麗に弧を描いている。あくまでも、笑顔でサヨナラを告げようとしてくれているのだ。
「……うん……っ……」
無理やり目を細めて口角を上げて、笑顔の形を作る。
零は泣いていたが、満足げでとても嬉しそうだった。
私はその姿を忘れたくなくて、目に焼き付けておきたくて……ぼやけた視界でも目を逸らすことはしなかった。
数十秒後。そこに、零の姿はなかった。代わりに星空に向かって昇っていく沢山の淡い光の粒だけが行く先を示していた。
引き下がらない私の言葉を遮って、零は口を開く。表情は相変わらず、微笑みを保ったままだ。
「俺がしたくてやった事だから。ね?」
未だ泣き止まない私を宥めるように、柔らかな声で。そうだ、あの時も零は大丈夫だから、と。今と同じように優しい声で、愚図る私を送り出したんだ。
「……っ、零……」
「全くもう、桜空は今でも泣き虫なんだから」
呆れたように笑って見せる零の身体はもう後ろにある街の景色が透けて見える程、薄くなっていた。溢れている光の粒も、さっきとは比べ物にならないくらい多い。周りの光が増せば、それに比例して零の存在が希薄になっていく。
伸びてきたその手は、空を切る。行き場を失った片手は中途半端な所で止まって、どうすべきか悩んでいるようにも見える。
触れないもどかしさを誤魔化すためか、零はまた、笑った。困っている時も、苦しい時も、どんな時でも零は笑うのだ。宙に投げ出されたままだった手は、力なく降ろされた。
「最期、くらいはさ……笑って見送ってよ……」
そんな零が、ぽつりと弱々しく呟いた。その声は震えていて、目は潤んでいた。笑顔を繕おうとしてもいい上手くいかないのか、その顔は歪んでいた。
「二度も泣き顔でさよならなんてしたくないよ……」
そういう零の目からは今にも雫が落ちてしまいそうだ。だが、唇は綺麗に弧を描いている。あくまでも、笑顔でサヨナラを告げようとしてくれているのだ。
「……うん……っ……」
無理やり目を細めて口角を上げて、笑顔の形を作る。
零は泣いていたが、満足げでとても嬉しそうだった。
私はその姿を忘れたくなくて、目に焼き付けておきたくて……ぼやけた視界でも目を逸らすことはしなかった。
数十秒後。そこに、零の姿はなかった。代わりに星空に向かって昇っていく沢山の淡い光の粒だけが行く先を示していた。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
投稿、おめでとうございます。
この出会い。非常に、きになりますね。
お二人が、どんな道を進んでゆくのか。最後まで、見守らせていただきます。
柚木ゆず 様
ありがとうございます。
この先、どんな関係になり、どんな道を歩むのか……見守っていただけると嬉しいです。