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不和との邂逅
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「何でしょう?」
訓練場へ移動する途中だったミナリアは、背後から掛けられた大声にさも面倒そうに振り返った。
視線の先には真族の男。
名をグトルフ=スルメイヤ。
真国領北方を任されるスルメイヤ辺境伯の三男である。
ミナリアは討伐実習の結果発表以降、この男にしつこく付き纏われていた。
「あーん? 貴族に向かってその態度はなんだ? 平民風情が」
ミナリアの態度を目敏く拾ったグトルフが、嬉々としてミナリアに突っかかる。
下手を打ったな、とミナリアは顔には出さずに反省し、こちらへ歩を進めるグトルフを迎えた。
スルメイヤ辺境伯は、カラザールが一目置く領主の一人である。
彼の一族は異能として魔物を従える、由緒ある家筋だ。
一側面から見れば脅威であるが、当代のスルメイヤ辺境伯はカラザールへの忠誠も厚く、ミナリアとも懇意である。
ミナリアの氏素性は、一部の貴族にしか伝えられていない秘匿事項であるが、スルメイヤ辺境伯を含めて忠臣や重臣の知るところではあった。
後継でない三男坊がミナリアを知らずとも不思議ではないが、素性が発覚した後の始末が面倒なことこの上ない。
ミナリアは当代真国王の養子であり、騎士団の役職者でもある。影響範囲が計り知れなかった。
「訓練に遅れてしまいますので、歩きながらでもよろしいでしょうか」
「俺様に指図すんのか!」
「いえ、グトルフ様とて遅刻するのは本意ではないでしょう?」
「そ、それはそうだな」
ミナリアはグトルフの戦意を軽く削いで、訓練場へと足を進めた。
三人が、やれやれ、と言った様子で肩をすくめる。
最初の頃こそミナリアを庇っていた面々は、今ではミナリア一人に任せて傍観を決め込んでいた。
これ以上事が大きくなることを恐れたミナリアが、自分一人で解決する、と頼み込んだからだ。
渋々引き下がった彼らは、困ったことがあれば何でも言ってくれ、とミナリアを見捨てることはしなかった。
良い、友を持ったと思う。
だからこそ、巻き込んではいけない、とミナリアは考えていた。
「グトルフ様!」
訓練場に到着すると、先に着いていたグトルフの取り巻きもとい、チームメイトが駆け寄ってきた。
彼らはうるさいだけで害はない。
ミナリアは無視を決め込んだ。
訓練が開始となると、各チームは各々散らばって、フォーメーションの確認や作戦立案、近くのチームと模擬戦を行う。
ひとまず訓練場の端に移動しようとしたミナリアを足止めしたのはまたもやグトルフだった。
「おい、平民。俺と試合しようぜ」
「試合? ですか? 模擬戦でなく」
チーム対チームで行われる模擬戦と違い、試合は一対一で行うのがルールである。
審判も付けて公平に行われる試合は、実戦とは関係がないが、己の力量を簡単に測るには打ってつけのため、訓練中でも禁止はされていない。
ついにグトルフがミナリアを力ずくで従わせようとしているのは明白だった。
そもそもグトルフの最初の接触は比較的友好的であった。
しかし、ミナリアを褒めるら傍らで、グトルフはミナリアを平民と誹り、人族の中では優秀だと貶め、更には自分の派閥へ入れと勧誘してくる始末。
当然のようにミナリアは派閥入りを拒絶した。
そもそもどこか一人の貴族へ肩入れすることは、ミナリアの立場上避けねばならない。
まさか断られると思っていなかったグトルフは、案の定ミナリアを敵視した。
「どうせ討伐数も不正を働いたんだろう。下賤な人族がやりそうなことだ。俺様がお前の実力が嘘だと言うことを証明してやる!」
「下賤な人族……?」
ミナリアは沸々と怒りを露わにした。
自分の実力を疑われるのは良い。ミナリアの討伐を実際に目撃したのはチームメンバーだけだ。
しかし、人族を下賤と一括りにされることは許されなかった。
なまじ、この学院は人真の友好のためのものだ。ミナリアはその友好を強化するためにここにいる。
「いいだろう、グトルフ=スルメイヤ。私が勝ったなら、その言葉、取り消してもらおう」
訓練場へ移動する途中だったミナリアは、背後から掛けられた大声にさも面倒そうに振り返った。
視線の先には真族の男。
名をグトルフ=スルメイヤ。
真国領北方を任されるスルメイヤ辺境伯の三男である。
ミナリアは討伐実習の結果発表以降、この男にしつこく付き纏われていた。
「あーん? 貴族に向かってその態度はなんだ? 平民風情が」
ミナリアの態度を目敏く拾ったグトルフが、嬉々としてミナリアに突っかかる。
下手を打ったな、とミナリアは顔には出さずに反省し、こちらへ歩を進めるグトルフを迎えた。
スルメイヤ辺境伯は、カラザールが一目置く領主の一人である。
彼の一族は異能として魔物を従える、由緒ある家筋だ。
一側面から見れば脅威であるが、当代のスルメイヤ辺境伯はカラザールへの忠誠も厚く、ミナリアとも懇意である。
ミナリアの氏素性は、一部の貴族にしか伝えられていない秘匿事項であるが、スルメイヤ辺境伯を含めて忠臣や重臣の知るところではあった。
後継でない三男坊がミナリアを知らずとも不思議ではないが、素性が発覚した後の始末が面倒なことこの上ない。
ミナリアは当代真国王の養子であり、騎士団の役職者でもある。影響範囲が計り知れなかった。
「訓練に遅れてしまいますので、歩きながらでもよろしいでしょうか」
「俺様に指図すんのか!」
「いえ、グトルフ様とて遅刻するのは本意ではないでしょう?」
「そ、それはそうだな」
ミナリアはグトルフの戦意を軽く削いで、訓練場へと足を進めた。
三人が、やれやれ、と言った様子で肩をすくめる。
最初の頃こそミナリアを庇っていた面々は、今ではミナリア一人に任せて傍観を決め込んでいた。
これ以上事が大きくなることを恐れたミナリアが、自分一人で解決する、と頼み込んだからだ。
渋々引き下がった彼らは、困ったことがあれば何でも言ってくれ、とミナリアを見捨てることはしなかった。
良い、友を持ったと思う。
だからこそ、巻き込んではいけない、とミナリアは考えていた。
「グトルフ様!」
訓練場に到着すると、先に着いていたグトルフの取り巻きもとい、チームメイトが駆け寄ってきた。
彼らはうるさいだけで害はない。
ミナリアは無視を決め込んだ。
訓練が開始となると、各チームは各々散らばって、フォーメーションの確認や作戦立案、近くのチームと模擬戦を行う。
ひとまず訓練場の端に移動しようとしたミナリアを足止めしたのはまたもやグトルフだった。
「おい、平民。俺と試合しようぜ」
「試合? ですか? 模擬戦でなく」
チーム対チームで行われる模擬戦と違い、試合は一対一で行うのがルールである。
審判も付けて公平に行われる試合は、実戦とは関係がないが、己の力量を簡単に測るには打ってつけのため、訓練中でも禁止はされていない。
ついにグトルフがミナリアを力ずくで従わせようとしているのは明白だった。
そもそもグトルフの最初の接触は比較的友好的であった。
しかし、ミナリアを褒めるら傍らで、グトルフはミナリアを平民と誹り、人族の中では優秀だと貶め、更には自分の派閥へ入れと勧誘してくる始末。
当然のようにミナリアは派閥入りを拒絶した。
そもそもどこか一人の貴族へ肩入れすることは、ミナリアの立場上避けねばならない。
まさか断られると思っていなかったグトルフは、案の定ミナリアを敵視した。
「どうせ討伐数も不正を働いたんだろう。下賤な人族がやりそうなことだ。俺様がお前の実力が嘘だと言うことを証明してやる!」
「下賤な人族……?」
ミナリアは沸々と怒りを露わにした。
自分の実力を疑われるのは良い。ミナリアの討伐を実際に目撃したのはチームメンバーだけだ。
しかし、人族を下賤と一括りにされることは許されなかった。
なまじ、この学院は人真の友好のためのものだ。ミナリアはその友好を強化するためにここにいる。
「いいだろう、グトルフ=スルメイヤ。私が勝ったなら、その言葉、取り消してもらおう」
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