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向けられた刃
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しおりを挟むユイセル=ヒュケンは、混血の村で生まれ育った。
この世界に人族と、真族の括りがあると知ったのは、つい先日のことだ。
村から出てはいけない、と言われて育ったユイセルは、十五年の人生において、初めてこの村の外に出ることを許された。
魔素を体内で練れないから、という理由だと聞いたが、正直自覚はあまりない。
いつも遊んでいる村の子供たちは、ユイセルと同じような者もいれば、体内で魔素を練れる者も同様にしていたばかりか、まったく魔素を扱えない者もいたからだ。
《村の外に出たら、絶対に鱗を見せては駄目》
実のところユイセルはこれが理由だと思っている。
一見にして普通の人族に見える見た目。
父は体表のほとんどが鱗に覆われていたが、ユイセルは僅かにしかその特徴を受け継いでいなかった。
人形に近い真族と混血は、真族の獣的特徴を隠してしまえば人族に紛れるのは簡単だった。
ユイセルの村が人族領にあるのもそれが所以である。
真族は体内で魔素を練るが故に、魔素に敏感だ。
体内の魔素を封じない限り、どんな真族でも相手が真族か否かを嗅ぎ分けることが出来る。
前腕の一部を覆った鱗をしっかりと布で巻いて隠して、ユイセルその日初めて、母について村の外に出た。
村の中と違って、街の中はどこを見ても人族とわかる見た目の者しかいなかった。
耳の生えた者も、尻尾の付いた者もいない。
街での滞在期間は三日。
行きと帰りは宿場町を経由して二日かかる。
街に足を踏み入れて数時間で、ユイセルは混血の異質さを理解していた。
昼を食べに入った酒場。
買い物で入った雑貨店。
通り過ぎた公園までも。
入り口には真族お断りの文字が踊っていた。
商売に来ていたうさぎの真族が、露店から蹴り出されている。
力の強い真族は人に近い形状をとるが、彼は体を体毛で覆い、頭頂から耳を生やした姿であった。
村では種族も何も関係なく皆が笑っていたのに、外の世界は、こんなにも生きにくいのか。
ユイセルは父の体を覆う鱗をかっこいいと思う。
母もユイセルや、弟妹の鱗を愛おしそうに撫でては、素敵だと褒めてくれた。
でも、それは、村の外では許されないことなのだと言う。
だったら、ユイセルは父と母と家族と、村全体が友人のように穏やかに過ごせるあの村にずっといたいと思った。
表向きに友好協定が結ばれてなお、色濃く残る差別に、ユイセルは切ない気持ちを抱いて、母の後を追った。
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