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向けられた刃
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しおりを挟むさまざまなものが混じり合って焼ける臭いは、まだユイセルの脳裏に文字通り焼き付いている。
宿場町を出て、村へ後一歩となったとき、最初に気がついたのはその臭いだった。
かすかに風に乗ってくる、焦げたような、異臭。
まだ気が付いていない母の手を引いて止めて、臭いの方向を確認して。
「まさか、村……?」
途中で何度も転びながらも辿り着いた村の入り口。
踏み荒らされて、焼け落ちて、跡形も無くなった家屋。
秋から冬に変わる季節だ。
乾燥した木造の家屋は、簡単に燃えたことだろう。
村の境界には、何人か村の衆が塊になって呆然としていた。
ユイセルはその中に隣人の姿を見つけて、家の方向に駆けていく母をそのままに、そちらに話しかけた。
「サーシャおばさん、何が、あったの……?」
「ああ、ユイセルちゃん……! 無事で……!」
涙を流してユイセルを抱きしめるサーシャは、猫耳を生やした真族だった。
自慢のヒゲは火に煽られたのか先端がくるくると巻いてしまっている。
サーシャには人族の夫と、五歳になる娘がいたはずだ。
その姿は傍にはない。
「魔物が、来たのよ……っそれで、人族の軍がきて……っ」
ユイセルはまさかと思い、サーシャの体を抱きしめた。
「魔物に食べられた人もいたわ、でも……っ家の中に隠れた人は……っ村ごと、焼かれてしまったの……っ」
人族の、軍に。
混血の、村だから。
ユイセルはそれを聞くと母を追って村の中へと入った。
道などあったものではないが、感覚を頼りに家への道をひた駆ける。
「お、かあさ……」
「ゆい、ユイセル……っ」
倒壊した家屋の前に頽れた母の姿を見て、ユイセルはゆっくりと震える足を踏み出した。
燻る木の臭いに混じる、焦げた血の臭い。
村にたどり着いてから麻痺していた嗅覚が、ここに来てはっきりとその匂いを嗅ぎ取った。
太い木の柱が、真っ黒に焦げていた。
その下から、覗く、くすんだ青緑の、鱗。
等間隔に並んだそれは、自分の腕にもあるもので。
「とう、さん……?」
母の叫ぶような鳴き声が、耳鳴りのように脳を揺らす。
弟は、妹は。
探すまでもなかった。
二人は父親が大好きで、父が家にいるときはいつもそばにくっ付いていたから。
「どうして……なんで……」
村の外に自分たちの平穏じゃなくても、この村だけは平穏があったのではなかったのか。
ユイセルは唇を噛んで渦巻く感情を無理に押し込めた。
真国騎士団が到着したのは、そんな最中だった。
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