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向けられた刃
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しおりを挟む村の中心に、空から降り立つ、黒の鎧。
亜龍に跨がって舞い降りた彼らは、真国騎士団を名乗った。
今更やってきて、何だと言うのだ。
魔物に蹂躙され、人族に殺されたばかりの、この村に。
ユイセルは握りしめた拳をそのままに、その集団に近付いた。
騎士の一人がユイセルに警戒して盾を構える。
「よい」
止めたのは、よく通る綺麗な声だった。
声に促されて騎士が構えを解く。
騎士団の中央からやってきたのは、銀色の、騎士。
その騎士は、ユイセルの前に、ゆっくりと跪いた。
周りの騎士たちが息を呑むのがわかる。
ユイセルも驚愕から身動き出来ずにいた。
銀の鎧に、銀の髪。
束ねられた髪が、滑らかな鎧の表面を滑って肩口から胸に垂れている。
「到着が遅れたことに謝罪を。そして、犠牲となった彼らに冥福を」
祈るような姿は、まるで一枚の絵画のようだった。
言葉の真摯さが胸を打ち、涙腺を緩ませる。
しかし、伏していた目が不意にユイセルに向けられて、その赤い双眸を目の当たりにした時、ユイセルの思考は怒りに塗り潰された。
「来るな! 魔物の手先か?!」
赤い目は、魔物の証。
その先入観だけで吐き出したのは、酷い暴言だった。
助けに来たと言ったその姿に、溜め込んだ怒りが爆発する。
「なんでもっと早く来てくれなかったんだ!」
そうすれば、村が焼き討ちに遭うなどなかったはずだ。
父も、弟も、妹も。
助かったかもしれなかったのに。
「俺たちは殺されて当然だって言うのか! 混血だと言うそれだけで! 焼き殺されるほどの罪なのかよ!」
溢れ出した涙もそのままに、ユイセルはただ慟哭を繰り返した。
止められなかった。
身に余る怒りの対処など、まだ十五のユイセルには難しかったのだ。
「……間に合わずに、すまなかった」
騎士の口から齎されたのは、再びの謝罪だった。
「守れずに、すまない」
ユイセルの言葉を受けてなお、その姿は凛々しく頭を垂れている。
ふと立ち上がった騎士が、ユイセルの正面に対峙した。
理不尽に嬲られるのかと思わず身構える。
次の瞬間、与えられたのは温もりだった。
「殺されて当然の命など、あるわけなかろう」
頭上に乗った重みが、騎士の手だと気が付いて、ユイセルは驚きと困惑からその涙を止めた。
「……生きよ。今は辛くとも、いずれこの地にも花が咲く」
その赤い目は、切なげに細められていた。
魔物の目などではない。
理性のある、誠実な、人の、目だった。
「今は泣いて、いつか笑顔で、その花を手向けてやれ」
宝石のように輝いた目の光をそのままに、騎士は悠然とその場の指揮を開始した。
ユイセルが気が付いたとき、すでにその騎士の姿はなく、胸の中に燻る感情だけを残して、その思い出は時と共に過ぎ去った。
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