【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる

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第1章

炎の心臓

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 風哭きの頂から拠点である塔へ戻る道のりは、驚くほど速かった。真の翼を得たリンドの飛行能力は、もはや以前の比ではない。風を捉え、流れに乗り、ほとんど羽ばたきをすることなく、滑るように遺跡の上空を駆け抜けていく。眼下に広がる広大な遺跡群の景色も、いつもとは違って見えた。

『素晴らしいだろう、主よ! この自由な感覚!』
 リンドの喜びと興奮に満ちたテレパシーが響く。彼の背に乗る俺とプルも、その安定した高速飛行に感嘆していた。
「ああ、すごいぞリンド! これなら騎士団の追跡も振り切れそうだ!」
「ぷるぷる!(速い! 風みたい!)」

 拠点に戻ると、エルミナが静かに出迎えてくれた。彼女は多くを語らなかったが、リンドの翼と、その纏う雰囲気の変化を一目見て、試練の達成を悟ったようだった。
「…よくぞ乗り越えた。竜の翼は、真の輝きを取り戻したようじゃな。見事だ、若き竜よ」
 その声には、厳しさの中に確かな賞賛の色が滲んでいた。

 俺はエルミナに、風哭きの頂での試練の様子を報告した。風との対峙、そしてそれを乗り越えたことでリンドが得た力について。エルミナは静かに聞き入り、時折頷いていた。

「それで、騎士団の動きは?」
 俺が尋ねると、エルミナは塔の窓から外…遺跡の外周部へと視線を向けた。
「奴らは、斥候部隊を退けた場所(闘技場跡)での戦闘と、その後の遺跡の鳴動、そして…おそらくは今のリンドの力の奔流を感じ取り、さらに警戒を強めておる。直接的な侵攻は控えておるが、包囲網は解いておらぬ。何かを待っておるのか…あるいは、別の策を講じておるのかもしれん」

 氷刃…そしてアルヴィンが、このまま引き下がるとは思えない。時間を稼がれている間に、より厄介な準備を進めている可能性が高い。

(やはり、リンドの完全な覚醒を急がなければ…!)

「エルミナさん、次の試練について教えてください。俺たちは、それに挑戦します」
 俺の言葉に、エルミナは静かに頷いた。
「覚悟はできているようじゃな。よかろう。次なる試練の場所は、この聖域の地下深くに存在する『炎の心臓』と呼ばれる場所じゃ」

 エルミナは語る。『炎の心臓』は、地核に近い灼熱のマグマが流れ込み、古代の竜がその身を焼いて炎の力を制御する術を学んだという、過酷な試練場であると。
「そこでリンドが向き合うのは、外なる炎だけではない。自身の内にある、制御不能な怒りや憎しみ…負の感情という名の『内なる炎』じゃ。それに打ち勝ち、破壊ではなく、創造と守護のための真なる炎をその身に宿すことができれば、試練は達成されるじゃろう」

 内なる炎との対峙…。それは、風の試練以上に、リンド自身の精神力が問われる、過酷な試練になりそうだ。俺はリンドを見た。彼はエルミナの言葉を静かに聞き、その黄金色の瞳には、恐れではなく、強い決意の光が宿っていた。

『主よ、我は行く。真の力を得るために。そして、主たちを守るために』
「……ああ、分かっている。俺もプルも、全力でお前を支える」

 俺はリンドを再び危険な試練に向かわせることに一瞬の躊躇いを覚えたが、彼の覚悟と、迫りくる脅威を前に、迷いは消えた。

 エルミナは、試練に備え、炎と熱に対する耐性を高める古代の護符や、精神を安定させる効果のある薬草について教えてくれた。俺は【収納∞】に必要なものを準備し、プルも回復魔法と補助魔法の準備を念入りに行う。リンドは、エルミナから教わった呼吸法で精神統一に励み、その身に宿る強大な炎の力を制御しようと努めていた。

 数日間の準備期間を経て、俺たちは再びエルミナの前に立った。リンドの瞳には揺るぎない覚悟が宿り、俺とプルも決意を固めている。
「準備はできたようじゃな」
 エルミナは頷くと、拠点近くにある、地下へと続く古びた階段を指し示した。
「この先が、『炎の心臓』へと続く道じゃ。途中、灼熱の罠や、炎に属する古代の守護者もおるやもしれん。そして、試練の間そのものは、私でも手出しできぬ。健闘を祈る」

「ありがとうございます、エルミナさん。必ず、乗り越えて戻ってきます」

 俺はエルミナに一礼し、プルとリンドに向き直った。
「今度の試練は、お前の内面との戦いになるかもしれん、リンド。だが、俺たちがそばにいる。絶対に乗り越えよう」

『無論だ、主よ!』
「ぷるっ!(プルも頑張る!)」

 俺たちは、エルミナに見送られ、遺跡の地下深くへと続く、暗く、そして熱気を帯びた階段へと足を踏み入れた。目指すは『炎の心臓』。リンドの真の覚醒を賭けた、次なる過酷な試練が、今、始まろうとしていた。
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