いつの日かの誰か。

瀬戸 朱音

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アリス

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「アリス。」
  家に帰ってからベッドにダイブしたまま、その名前を口にした。絶対、本名ではない。でも、なんで本名を教えてくれなかったのか。せっかく、見つけたあの時の子。なんで、引っかかったのか。謎のうえに謎が重なってモヤモヤが消えない。少なくとも本名がわからなければなんにも出来ない。明日、もう一度彼女に聞いてみよう。

  翌日。いつも通りの時間に学校へ登校した。昨日『アリス』と名乗った彼女はまだ来ていない。することが無く、隣の友達とたわいもない話をしていた。数分経つと廊下から「おはよー」という女子の声がした。その声は確実に『アリス』と名乗った彼女の声だった。彼女は操られるように自席に荷物を置いた。
「おはよう、水島くん」
  『アリス』と名乗った彼女は昨日と同じようにいたずらに笑った。
「ねぇ!名前!ほんとの名前は?」
「だから、アリスだよ。」
  もう一度聞こうとすると、タイミング悪く学校中にチャイムが鳴り響いた。
「あっ、ほらチャイム鳴ってる。席つかなきゃ!」
  彼女はニヤリと笑って僕の後ろの席に座った。ため息をついてから僕も席につく。
  きっと彼女はどれだけ聞いても『アリス』としか答えないであろう。ここは諦めてそう呼ぶしかない。そう思った。
  だけど、『アリス』なんて浮いた名前で呼ぶのも少しと言うより、かなり周りの目が気になるから、出来るだけ言わないように「お前」とか、「おい」とか言いながらその場を切り抜けた。彼女は、「名前で読んで!」と何度か言っていたが、丁重にお断りをした。それから、一ヶ月ほど経った。彼女はすごくフレンドリーだったこともあり、一気に距離が縮まっていった。
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