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二人の想い
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不思議な感覚が消えないまま家に帰った。あの言葉は僕の告白に対して「OK」という意味なのだろうか…。少なくとも、彼女と同じ感情をお互いに抱いているというのは確かである。
明日また会える。その時に聞こう。そして、もう一回、ちゃんと自分の気持ちを伝えるのだ。
彼女は学校を休んだ。担任が言うには、風邪をひいただけらしい。彼女の家に行こうとも思ったのだが、よく考えてみると、今彼女が住んでいる家を僕は知らない。すると、後ろから女子の声と共に肩を叩かれた。
「ねー、放課後、心葉のお見舞い行かない?」
僕を呼び止めた女子は心葉といつも一緒にいる友達だった。
「…えっ?なんで僕…?」
あたりを見回しながら、自分に言っていることを再確認した。ただ、タイムリーすぎてとても驚いている。自分の気持ちを読まれたみたいな変な感じ。
「君、水島…だよね?心葉がよく君の話してるんだよー。すごく楽しそうな顔でね。だから、君がお見舞いに行ったら喜ぶだろーなと思って。」
彼女も、心葉と同じようにイタズラに笑った
「それに、水島、心葉こと好きでしょ?」
ずいっと顔を近寄らせた。彼女はまたイタズラに笑う。僕は何も言い返せず、ただ棒立ちをしている。
「図星だ!見てればわかるよー。だってずっと心葉のこと目で追ってるじゃん!」
ニヤニヤ笑う彼女は「そうだ!」と何かを思い出したかのような仕草をして話を続けた。
「まだ私の名前言ってなかったね。私、如月 宙。呼び方は任せるよ。」
たくさんの事を一気に言い終えると、彼女はまた笑った。
「じゃあ、如月さん。その、最初の話に戻るけど、心葉の家に連れて行ってくれる?」
「うん。もちろんだよ!」
「ありがと。」
それから如月さんは仲のいい友達を見つけ、その子のところに走っていった。僕はペコッと一礼してから、自席に戻った。
いつも通りに授業は進み、放課後になった。
今日は掃除の担当がなかったので、如月さんの掃除をずっと教室で待っていた。
「おまたせー!ごめんね、長引いちゃったー!」
「いいえ、大丈夫です。お疲れ様でした。」
僕は周りの目も気にしつつ敬語を使った。同級生に使うのは久しぶりだ。
「んもー!堅苦しいなぁ!タメでいいよ。」
「あ、うん。わかった。」
そう言われて、少しホッとした。
今日は自転車で来ていたのだが、心葉の家か電車で行く距離だったため学校に置いく手続きをしてから如月さんを追いかけた。
最寄り駅まで、五分ちょっとかかる。そこまで僕らは一言も話さなかった。改札をぬけて、如月さんが僕らの沈黙を破った。
「そーいえば、心葉が言ってたけど、二人って小学校一緒だったんだよね?」
「あ、うん。たった二年間だけだったけどね。小学五年生の時、心葉が僕のいた小学校に転校してきたんだ。」
「へー、そうだったんだ。」
如月さんはそう相槌を打った。
「中学は別だったんだ?」
「うん。卒業式の次の日に引っ越しちゃったから、そこから今まで連絡すら取ってなかった。」
「それでも、両想いだなんて…」
そう言いながら如月さんはクスクスと笑った。
「なに…?」
「ううん、運命みたいですごいなって!」
「運命かぁ…。」
僕は呆れた顔をしながら首を振った。如月さんは目を輝かせながら子供のようにはしゃいでいた。
電車に乗ってから、僕はずっと外を眺めていた。彼女がどんなとこに住んでいるのか興味があった。なんら変わりのない住宅街が横切ってゆく。少し幅の広い川を渡ってすぐの駅に着く前で如月さんが肩を叩いた。
「ここ降りるよ。駅でて五分くらい歩いたら心葉の家だよ。」
「うん。わかった。」
如月さんのあとを追って駅を出た。知らない街を今日初めて話した女子と歩いている。とても不思議な感覚だ。途中コンビニにより、心葉の好きそうなお菓子を買った。
「そう言えば、如月さんって心葉と同じ中学なの?」
「え?違うよ。心葉に会ったのは去年。心葉ってすごくフレンドリーでさ、入学式終わってすぐクラスのみんなに声かけててさ。」
変わらないな。と僕は小さく笑った。
転校してきた時も、その日のうちに僕も含めたクラス全員に話しかけていた。まるで、ずっとこの学校にいたかのようにすごく馴染んでいて、転校生特有の浮いた感じが少しもなかった。
「ここだよ。」
如月さんが足を止め、指をさした。そこにはいたって普通の一軒家があった。表札には『もちづき』と英語の筆記体で書かれていた。如月さんは迷わずに表札の横にあるインターホンを押した。
「はーい。」
インターホン越しに心葉の声がした。その時、僕はなぜかホッとした。玄関のドアが開き、彼女が顔を出した。僕と目が合った瞬間、如月さんだけを一度家にいれた。顔が少し焦っているように見えた。
その場に立たされていた。数分後、ドアがゆっくりと開いた。
「ごめん。あがって。」
心葉はいつもより不安そうな顔をしていた。後ろにいた如月さんはニヤニヤ笑っていた。きっと、心葉に僕が来ることを伝えていなかったのだろう。昨日のことがあったせいで僕と心葉はかなり気まずい空気が漂っていた。それを察した如月さんは少し声を張って空気を変えた。
「さあ!心葉の好きそうなお菓子買ってきたよ!見た感じズル休みでしょ?テストも近いし、勉強しよ!」
確かにテストは二週間後に迫っていた。ただ、そんな早くから勉強をするほど真面目じゃない僕達は、すぐに如月さんが引き止めているのだと思った。心葉は呆れながら、はいはい、と答えて階段を上がっていった。如月さんがついて行ってるのを見てからその後を追った。
誘導されて入った部屋はほのかに心葉の香りがして、とても女子らしい内装だった。
「適当に座って。今お茶とお菓子持ってるく。」
そう言って心葉は部屋をあとにした。
真ん中に小さな机があったので、そこを中心にして2人は座った。
「ぎこちないなぁー、もっと自然にしてないと心葉も緊張しちゃうよー」
だめだなーと言うように如月さんは笑いながら僕の背中をバシバシと叩いた。
なんとなくそのセリフに、違和感がある気がした。まだ、会って半日も経っていない相手だけど、無理矢理この場を和ませようとするような感じだ。
「如月さん、心葉に何か言われた?」
僕がそう言うと。「ばれちゃったか」と言ってから話し始めた。
「二人が昨日の喧嘩した話をさっき心葉から聞いたの。」
喧嘩なのだろうか。心のなかでボソッ呟いた。如月さんは話を続ける。
「それで、仲直りして欲しいなぁって思って…。でも、もし迷惑だったらごめん。」
そういいながら下を向いた。
「迷惑じゃないよ!僕こそ、変な心配かけてごめん。」
そういいながら僕も下を向く。数秒間沈黙が続いた。
───ガチャ
心葉はお盆にジュースとお菓子を乗せて器用にドアを開けた。
「なんでこんな静かなの?もしや、悠真…宙になにかしたんでしょ!?」
心葉はギロリと僕を睨んだ。
「ち、違うって、誤解だよ!心葉!」
僕は必死に手と首を大きく振って否定した。すると斜め前にいた如月さんが口を押さえながら何かを堪えている。
「って、宙どうしたの?大丈夫!?」
すばやく机にお盆を置き、如月さんのせなかをさすりながら、心配そうに顔を覗かせていた。
「だ、大丈夫だよ。…ぷっはは、あははは!!」
気分が悪いのかと思っていたら、ただ笑いをこらえているだけだったようだ。
「私が、心配する必要なかったじゃん。」
そういいながら如月さんは笑い続けていた。
「心配…?なんのこと?」
心葉は、訳が分からないと首をかしげた。
「なんでもないよ、いつも通りの心葉が見れて良かった。ちょっと、お手洗い借りるねー」
如月さんは部屋を出る前に「上手くやれよ」と言うようにウィンクをして見せた。ドアが閉まった瞬間もう一度沈黙が訪れた。
ここは男として僕から声をかけるべきだ…
「あのさ、」
「ねぇ!」
ふたりの声が被ってしまった。つい、いつもの癖で「あ、先どうぞ」と譲ってしまった。
「昨日の話、なんだけど…。その、ごめん。せっかく勇気だしてくれたのに、あんな言い方して。」
「それは、僕のせいだし心葉は悪くないよ。僕こそ気づけなくてごめん。」
「ちょっと落ち着いてからもう一回ちゃんと話そうと思ったから今日休んだの。まさか、家に来ちゃうなんて思いもしなかったよ。」
「僕も今日会えるなんて思わなかったよ。」
二人は同時に小さく笑った。
「せっかく来てくれたんだし、話さないとだよね。」
心葉は一度大きく深呼吸をした。
「私、小学生の時六年に上がる頃にはもう悠真のこと好きだったの。でも、小学生だし、恋愛なんてわからないから隣で話してるだけで充分だと思ってた。そのまま、引っ越して中学離れちゃってから伝えおけばよかったってすごく後悔した。一度だけ同級生の男子と付き合ったことがあるの、だけど、全然ドキドキしないしワクワクもしないから、数ヶ月で別れた。きっと悠真じゃないと駄目なんだってそう思ったの。」
心葉の瞳は潤んで輝いて見えた。
「僕も同じだよ。引っ越すなんて聞いてなくて、今じゃなくても大丈夫って安心してて、いないって気づいた時にはもう遅くて。だから、心葉だってわかった時はすっごく驚いたし、すっごく嬉しかった。」
ちゃんと、「好きだ」って伝えるんだ。これを言わなきゃ帰れない。ただ、涙が止まらない。安堵の涙か、緊張が解けた涙か、心葉の涙につられたか。理由がたくさんありすぎてわからない。拭っても隙間から零れてしまう。伝えないと。伝えるんだ。喉から声を振り絞って言葉にする。
「す…好き…で…す。ずっ…と前か…ら…好きで…した。」
途切れ途切れでようやくでた言葉を心葉はゆっくり頷きながら受けとるように返事をした。
「わ…たしも。…好きで…す…。」
一度止まったと思った涙はまた勢いよく流れていく。
タイミング良くドアが開いた。如月さんは玄関の時と同じようにニヤニヤと笑いながら顔を覗かせた。が、心葉の泣き顔を見るなり血相を変えて駆け寄った。
「えっ!?なんで泣いてるの!?うまくいったんじゃないの?って、水島まで泣いてるじゃん!」
如月さんは目を丸くして僕と心葉を交互に見た。混乱しているので僕は今あったことを端的に報告する。
「うん。うまくいったよ。充分すぎるくらい。」
「な、ならいんだけど。」
無理やり自分を納得いかせるように、彼女はそう言った。
「ありがと、宙。宙のおかげだよ。ほんとにありがとう。」
そう言って心葉は如月さんに抱きついた。
「ま、まぁ、うまくいったんなら、問題ないか、ほら、涙拭いて!勉強するんでしょ!」
心葉の背中を揺すりながら、大きく声を上げた。
「僕からもありがとう。如月さん。」
如月さんがいなかったら、ここには来れてなかったし、勇気もだせなかった。本当に感謝しかない。
それから、如月さんの後押しによりデートの予定を立てた。
夏休み前には如月さんにも恋人ができ、心葉の提案によりダブルデートをすることになる。
隣に心葉がいること。それは、あの頃のようにただ、楽しいだけじゃなくて、安心することができる。
僕の目の前の景色は今までよりずっと輝き、鮮やかに色付いた。
~完~
明日また会える。その時に聞こう。そして、もう一回、ちゃんと自分の気持ちを伝えるのだ。
彼女は学校を休んだ。担任が言うには、風邪をひいただけらしい。彼女の家に行こうとも思ったのだが、よく考えてみると、今彼女が住んでいる家を僕は知らない。すると、後ろから女子の声と共に肩を叩かれた。
「ねー、放課後、心葉のお見舞い行かない?」
僕を呼び止めた女子は心葉といつも一緒にいる友達だった。
「…えっ?なんで僕…?」
あたりを見回しながら、自分に言っていることを再確認した。ただ、タイムリーすぎてとても驚いている。自分の気持ちを読まれたみたいな変な感じ。
「君、水島…だよね?心葉がよく君の話してるんだよー。すごく楽しそうな顔でね。だから、君がお見舞いに行ったら喜ぶだろーなと思って。」
彼女も、心葉と同じようにイタズラに笑った
「それに、水島、心葉こと好きでしょ?」
ずいっと顔を近寄らせた。彼女はまたイタズラに笑う。僕は何も言い返せず、ただ棒立ちをしている。
「図星だ!見てればわかるよー。だってずっと心葉のこと目で追ってるじゃん!」
ニヤニヤ笑う彼女は「そうだ!」と何かを思い出したかのような仕草をして話を続けた。
「まだ私の名前言ってなかったね。私、如月 宙。呼び方は任せるよ。」
たくさんの事を一気に言い終えると、彼女はまた笑った。
「じゃあ、如月さん。その、最初の話に戻るけど、心葉の家に連れて行ってくれる?」
「うん。もちろんだよ!」
「ありがと。」
それから如月さんは仲のいい友達を見つけ、その子のところに走っていった。僕はペコッと一礼してから、自席に戻った。
いつも通りに授業は進み、放課後になった。
今日は掃除の担当がなかったので、如月さんの掃除をずっと教室で待っていた。
「おまたせー!ごめんね、長引いちゃったー!」
「いいえ、大丈夫です。お疲れ様でした。」
僕は周りの目も気にしつつ敬語を使った。同級生に使うのは久しぶりだ。
「んもー!堅苦しいなぁ!タメでいいよ。」
「あ、うん。わかった。」
そう言われて、少しホッとした。
今日は自転車で来ていたのだが、心葉の家か電車で行く距離だったため学校に置いく手続きをしてから如月さんを追いかけた。
最寄り駅まで、五分ちょっとかかる。そこまで僕らは一言も話さなかった。改札をぬけて、如月さんが僕らの沈黙を破った。
「そーいえば、心葉が言ってたけど、二人って小学校一緒だったんだよね?」
「あ、うん。たった二年間だけだったけどね。小学五年生の時、心葉が僕のいた小学校に転校してきたんだ。」
「へー、そうだったんだ。」
如月さんはそう相槌を打った。
「中学は別だったんだ?」
「うん。卒業式の次の日に引っ越しちゃったから、そこから今まで連絡すら取ってなかった。」
「それでも、両想いだなんて…」
そう言いながら如月さんはクスクスと笑った。
「なに…?」
「ううん、運命みたいですごいなって!」
「運命かぁ…。」
僕は呆れた顔をしながら首を振った。如月さんは目を輝かせながら子供のようにはしゃいでいた。
電車に乗ってから、僕はずっと外を眺めていた。彼女がどんなとこに住んでいるのか興味があった。なんら変わりのない住宅街が横切ってゆく。少し幅の広い川を渡ってすぐの駅に着く前で如月さんが肩を叩いた。
「ここ降りるよ。駅でて五分くらい歩いたら心葉の家だよ。」
「うん。わかった。」
如月さんのあとを追って駅を出た。知らない街を今日初めて話した女子と歩いている。とても不思議な感覚だ。途中コンビニにより、心葉の好きそうなお菓子を買った。
「そう言えば、如月さんって心葉と同じ中学なの?」
「え?違うよ。心葉に会ったのは去年。心葉ってすごくフレンドリーでさ、入学式終わってすぐクラスのみんなに声かけててさ。」
変わらないな。と僕は小さく笑った。
転校してきた時も、その日のうちに僕も含めたクラス全員に話しかけていた。まるで、ずっとこの学校にいたかのようにすごく馴染んでいて、転校生特有の浮いた感じが少しもなかった。
「ここだよ。」
如月さんが足を止め、指をさした。そこにはいたって普通の一軒家があった。表札には『もちづき』と英語の筆記体で書かれていた。如月さんは迷わずに表札の横にあるインターホンを押した。
「はーい。」
インターホン越しに心葉の声がした。その時、僕はなぜかホッとした。玄関のドアが開き、彼女が顔を出した。僕と目が合った瞬間、如月さんだけを一度家にいれた。顔が少し焦っているように見えた。
その場に立たされていた。数分後、ドアがゆっくりと開いた。
「ごめん。あがって。」
心葉はいつもより不安そうな顔をしていた。後ろにいた如月さんはニヤニヤ笑っていた。きっと、心葉に僕が来ることを伝えていなかったのだろう。昨日のことがあったせいで僕と心葉はかなり気まずい空気が漂っていた。それを察した如月さんは少し声を張って空気を変えた。
「さあ!心葉の好きそうなお菓子買ってきたよ!見た感じズル休みでしょ?テストも近いし、勉強しよ!」
確かにテストは二週間後に迫っていた。ただ、そんな早くから勉強をするほど真面目じゃない僕達は、すぐに如月さんが引き止めているのだと思った。心葉は呆れながら、はいはい、と答えて階段を上がっていった。如月さんがついて行ってるのを見てからその後を追った。
誘導されて入った部屋はほのかに心葉の香りがして、とても女子らしい内装だった。
「適当に座って。今お茶とお菓子持ってるく。」
そう言って心葉は部屋をあとにした。
真ん中に小さな机があったので、そこを中心にして2人は座った。
「ぎこちないなぁー、もっと自然にしてないと心葉も緊張しちゃうよー」
だめだなーと言うように如月さんは笑いながら僕の背中をバシバシと叩いた。
なんとなくそのセリフに、違和感がある気がした。まだ、会って半日も経っていない相手だけど、無理矢理この場を和ませようとするような感じだ。
「如月さん、心葉に何か言われた?」
僕がそう言うと。「ばれちゃったか」と言ってから話し始めた。
「二人が昨日の喧嘩した話をさっき心葉から聞いたの。」
喧嘩なのだろうか。心のなかでボソッ呟いた。如月さんは話を続ける。
「それで、仲直りして欲しいなぁって思って…。でも、もし迷惑だったらごめん。」
そういいながら下を向いた。
「迷惑じゃないよ!僕こそ、変な心配かけてごめん。」
そういいながら僕も下を向く。数秒間沈黙が続いた。
───ガチャ
心葉はお盆にジュースとお菓子を乗せて器用にドアを開けた。
「なんでこんな静かなの?もしや、悠真…宙になにかしたんでしょ!?」
心葉はギロリと僕を睨んだ。
「ち、違うって、誤解だよ!心葉!」
僕は必死に手と首を大きく振って否定した。すると斜め前にいた如月さんが口を押さえながら何かを堪えている。
「って、宙どうしたの?大丈夫!?」
すばやく机にお盆を置き、如月さんのせなかをさすりながら、心配そうに顔を覗かせていた。
「だ、大丈夫だよ。…ぷっはは、あははは!!」
気分が悪いのかと思っていたら、ただ笑いをこらえているだけだったようだ。
「私が、心配する必要なかったじゃん。」
そういいながら如月さんは笑い続けていた。
「心配…?なんのこと?」
心葉は、訳が分からないと首をかしげた。
「なんでもないよ、いつも通りの心葉が見れて良かった。ちょっと、お手洗い借りるねー」
如月さんは部屋を出る前に「上手くやれよ」と言うようにウィンクをして見せた。ドアが閉まった瞬間もう一度沈黙が訪れた。
ここは男として僕から声をかけるべきだ…
「あのさ、」
「ねぇ!」
ふたりの声が被ってしまった。つい、いつもの癖で「あ、先どうぞ」と譲ってしまった。
「昨日の話、なんだけど…。その、ごめん。せっかく勇気だしてくれたのに、あんな言い方して。」
「それは、僕のせいだし心葉は悪くないよ。僕こそ気づけなくてごめん。」
「ちょっと落ち着いてからもう一回ちゃんと話そうと思ったから今日休んだの。まさか、家に来ちゃうなんて思いもしなかったよ。」
「僕も今日会えるなんて思わなかったよ。」
二人は同時に小さく笑った。
「せっかく来てくれたんだし、話さないとだよね。」
心葉は一度大きく深呼吸をした。
「私、小学生の時六年に上がる頃にはもう悠真のこと好きだったの。でも、小学生だし、恋愛なんてわからないから隣で話してるだけで充分だと思ってた。そのまま、引っ越して中学離れちゃってから伝えおけばよかったってすごく後悔した。一度だけ同級生の男子と付き合ったことがあるの、だけど、全然ドキドキしないしワクワクもしないから、数ヶ月で別れた。きっと悠真じゃないと駄目なんだってそう思ったの。」
心葉の瞳は潤んで輝いて見えた。
「僕も同じだよ。引っ越すなんて聞いてなくて、今じゃなくても大丈夫って安心してて、いないって気づいた時にはもう遅くて。だから、心葉だってわかった時はすっごく驚いたし、すっごく嬉しかった。」
ちゃんと、「好きだ」って伝えるんだ。これを言わなきゃ帰れない。ただ、涙が止まらない。安堵の涙か、緊張が解けた涙か、心葉の涙につられたか。理由がたくさんありすぎてわからない。拭っても隙間から零れてしまう。伝えないと。伝えるんだ。喉から声を振り絞って言葉にする。
「す…好き…で…す。ずっ…と前か…ら…好きで…した。」
途切れ途切れでようやくでた言葉を心葉はゆっくり頷きながら受けとるように返事をした。
「わ…たしも。…好きで…す…。」
一度止まったと思った涙はまた勢いよく流れていく。
タイミング良くドアが開いた。如月さんは玄関の時と同じようにニヤニヤと笑いながら顔を覗かせた。が、心葉の泣き顔を見るなり血相を変えて駆け寄った。
「えっ!?なんで泣いてるの!?うまくいったんじゃないの?って、水島まで泣いてるじゃん!」
如月さんは目を丸くして僕と心葉を交互に見た。混乱しているので僕は今あったことを端的に報告する。
「うん。うまくいったよ。充分すぎるくらい。」
「な、ならいんだけど。」
無理やり自分を納得いかせるように、彼女はそう言った。
「ありがと、宙。宙のおかげだよ。ほんとにありがとう。」
そう言って心葉は如月さんに抱きついた。
「ま、まぁ、うまくいったんなら、問題ないか、ほら、涙拭いて!勉強するんでしょ!」
心葉の背中を揺すりながら、大きく声を上げた。
「僕からもありがとう。如月さん。」
如月さんがいなかったら、ここには来れてなかったし、勇気もだせなかった。本当に感謝しかない。
それから、如月さんの後押しによりデートの予定を立てた。
夏休み前には如月さんにも恋人ができ、心葉の提案によりダブルデートをすることになる。
隣に心葉がいること。それは、あの頃のようにただ、楽しいだけじゃなくて、安心することができる。
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