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初依頼

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ヨウヘーが応援歌の仕上げに入った。
俺が口出しすることが無くなり、セイヤから初依頼について話したいと部活へ呼ばれた。


「みんな集まってくれてありがとう。今日は、僕等の初活動について話していきたいと思う」


カオル先生は保健室に待機で参加していない。
男子四人が部活に集まって思い思いの席に着く。


「ヨウヘー。応援歌の調子はどう?」


「9割は出来てる。だけど、あとの仕上げに向けて本番前の準備次第」


ヨウヘーは今もパソコンで最後の仕上げの打ち込みをしながら片耳だけヘッドホンを外してセイヤに返事をしていた。


「そう、ハヤト。仮入部から本入部する気になった」


「まっまぁ、入ってもいい。どんなことをするのか、本入部しなければわからないからな。そっそれに天宮さんがヨルと最近仲良く話しているのを見ると、どうやったのかも気になる」


手芸部に行ってからジュリが挨拶してくるようになった。
話題としては、服の調整が終わったとか、新しいアニメのコスプレ衣装を着てみてほしいと服のことばかりだ。


ハヤトは相変わらず、女子と話せていない。
今度、ハヤトも連れて手芸部に行けば女子と仲良くなれるのではないだろうか?


「うん。これで部員は4人だね。それじゃあ僕らの初活動……初任務について説明していくね。僕らが初めて応援するのは……」


「するのは?」


ハヤトが前のめりにに質問を投げかける。


「水泳部だよ」


セイヤの発言にハヤトが立ち上がる。
どうしたのかと見ればガッツポーズをしていた。


貞操概念逆転世界は草食系が多いと思っていたが、ハヤトは違うのかもしれない。



俺はふと【青柳悠奈】の顔が浮かぶ。
どうして、セイヤが水泳部を選んだのか気になった。


「どうして水泳部なんだ?運動部なら、たくさんあるだろ?」


「うん?一つはもちろん依頼があったからだよ。もう一つは大きな大会があるのが水泳部とテニス部だったんだ。テニス部の方にはチア部が行くみたいだからね。僕らは応援の来ない水泳部に行こうと思っただけだよ」


「……そうか」


「何か問題あった?」


セイヤの質問に俺は自分でもどうして、気になるのかわからなかった。


「いや、問題ない」


「なら今週末の大会で、水泳部に鼓舞する時間をもらってるから、みんなそのつもりでよろしく。あとは選手が登場したら応援かな?」


セイヤが指示を出し終わると本番で使う衣装合わせや、水泳部に向けた応援歌と振付の作成などそれぞれが動き始めた。


一日、二日と過ぎていく間に忙しさで忙殺されて、考えることをやめてしまった。


ユウナは応援団が来ることを知らないのか、夜のメッセージにも反応はなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


金曜日の放課後、いよいよ初依頼へ向けての準備が整い英気を養うためにそれぞれが早めに帰宅する中で、セイヤから部室に来てほしいと声をかけられた。


「明日はいよいよだね」


部室につくと冷蔵庫から炭酸飲料を渡される。


空調が付いているので暑くはないが、のどゴシがシュワシュワとして気持ちいい。


「く~」


「ふふ、ヨルは本当に美味しそうに飲むよね」


俺は炭酸飲料が結構好きだ。


「ああ、暑くなってきたからな。炭酸がノドを通るのが気持ちいいだろ」


「そうだね。僕はちょっと苦手だけど、嫌いじゃないよ」


「それで?どうしたんだ?俺だけ呼び出して」


「うん。ヨルに聞いておきたいことがあってね」


セイヤは少し話し辛そうに視線を逸らす。


「なんだなんだ。俺らは親友だろ。なんでも言えよ」


「ハァ~ヨルってそういうところあるよね。恥ずかしいことをサラッと」


「うん?」


セイヤが何を言いたのいのかわからない。


「いや、いいよ。じゃあ単刀直入に聞くね。ヨルにとって幼馴染ってどういう存在?【青柳悠奈】さんだっけ?水泳部に所属していたよね?僕が水泳部を応援するって言った時。ヨルは戸惑うような顔をしてたから、気になっちゃって」


セイヤから意外な名前が出て動揺してしまう。
飲んでいた炭酸がノドに詰まってムセてしまった。


「ゴホッホッ。なっなんだいきなり。ユウナはただの幼馴染だぞ」


「うん。だから、どういう存在か聞いたんだ。本当にただの幼馴染?それとも恋人とか?でも、恋人としてはあまり一緒にいる姿を見たこと無いから不思議でね」


俺にとってのユウナの存在……それは自分でも考えていなかった。


ヨルだった俺の側にユウナはずっといた。
幼稚園からずっと隣にユウナがいて、中学に上がるまでそれは続いた。


中学に入って初めて別々のクラスになった。
ユウナは小学校の頃からしていた水泳が中学になって才能を発揮して、大会などが忙しくなって夜に話すだけになった。


それもだんだんとメッセージだけのやり取りになって、今じゃおやすみの挨拶をするだけ。



でも、中学時代。



誰からも避けられて、妹からもキモイと言われていた俺に唯一話かけてくれた相手だった。ユウナがいたから、俺は中学に通い続けることが出来た。


ユウナが中学一年でヨルを男として見ていないことを知った。


そして、卒業式の少し前……ユウナもヨルのことをキモイと思っていることを知った。


「俺にとってユウナは……姉であり……友人であり……依存していた相手なのかもな」



「依存?」



「ああ、誰も相手してくれなくなった俺に唯一話しかけくれて。ずっと迷惑をかけ続けてきたんだと思う。ユウナは何度か俺に離れるためのサインを送っていたのに……俺はユウナ以外誰もいなくて、依存していたんだと思う」



これを好意だと呼ぶには図々しいように思えた。



もしも、俺がヨルだけだったなら、ユウナに依存してそのまま引きこもりになっていたと思う。


そうじゃなければ、ヨルの心は中学で死んでいた。


高校入試が決まった日に死のうと決断したヨルの心のスキマに俺は入り込んだ。


そして……ヨルの心にトドメが刺しのは……ユウナにキモイと言われたあのときだ。


その時に完全にヨルと俺は融合して入れ替わった。



「……そっか。ヨルも色々なことを抱えていたんだね」




誰にも話さないと思っていた。




誰も聞いてくれないと思っていた。




誰も理解してくれないと思っていた。





自然に涙が出て、ユウナ以外の人に悩みが相談できるようになったんだと心が暖かくなった。
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