巻き込まれ召喚になった私はまったりのんびりスローライフを目指します!

紅子

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家政婦

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カイゼスのひとり島の桟橋でそれ以上入ることを躊躇する私にヘルバーは、にっこりと有無を言わさぬ笑顔で私の背中を押し奥へと導いた。

「・・・・・・」

そして、見えた光景に絶句。ただっ広い庭は、一部がジャングルと化し、一部は雑草すら生えていない荒れ地で、至る所に腐って落ちた果物や木の実が散乱していた。あまりの酷さに立ち尽くす私の背中を再び押して、今度は家の中へ。

「汚屋敷だ。初めて見た」

汚部屋どころの騒ぎじゃない。家の中全体が、ある一定の場所を除き、足の踏み場もない。服が散乱し武器が無造作に放り出されている。

「ミーアに頼みたいのは、この家の掃除と食事作り、それから、庭の手入れなんだけど。僕が、10日ほど出張して帰ってきたら、この有様でね。この甥の面倒なんて見てたら、僕の悠々自適なひとり島生活がめちゃくちゃになっちゃいそうなんだ。毎日とは言わない。2回/7日でいいから、家政婦をしてもらえないかなぁ。一日中拘束しようなんて思ってないし。数時間でいいんだ。僕を助けると思って。ね?」

ていうか、こんなに生活能力のない人がひとり島にいるのが無理なんだと思うんだけど?

「今までやってこれたんだよね?」

「・・・・ミーアのひとり島に住んでたお婆さんに頼んで、1回/7日、家政婦をお願いしてた。いなくなっちゃって、僕だけじゃ廻らないんだよぉ」

「カイゼスがひとり島で暮らすのをやめるか、お世話してくれる人と一緒に住むとか」

「嫌だ!やっと、気儘にひとり島でのんびり出来るのに、気を張るような奴らと一緒の生活なんて無理だ」

「じゃあ、生活能力を上げるとか?」

「もう試したよ。壊滅的だった。肉を焼くだけなのに、皿を取るために一瞬フライパンから目を離したら、肉が炭になってた。オーブンならと思って肉を放り込ませたら、焼き始めて10秒もせずにオーブンが爆発。何の冗談かと思ったさ。洗濯は、雑巾にもならないほどの細切れだったよ。掃除は、もう怖すぎてさせてない。家が潰れるほうが問題だ」

何の冗談かとヘルバーを見ると、説明するだけで、当時の状態を思い出したのか、疲れ切って肩を落としていた。カイゼスは、明後日の方を向いている。どうやら冗談でも何でもないようだ。

「私でなくても、募集すればいくらでもやりたい人はいると思うよ?」

「それがねぇ。無理なんだよ。カイゼスの外見の問題なんだけどねぇ。女性はいろいろ理由をつけて居座ろうとするし、男性は女性の気を引きたくて引き入れようとする。年配の方を雇っても自分の子や姪だったり孫だったりを連れてくるんだ。で、その子達を桟橋に置いて帰っちゃうとかね。お婆さんはその辺心得てたから有り難かったなぁ。ミーア、君、カイゼスに興味ないでしょう?」

まあ、ないね。

「会って2回目の人をどうこう思わないでしょ?」

「だから、君に頼みたいんだよ。ね?僕を助けると思って。1月金貨1枚」

チラッとカイゼスを見ると項垂れて何やらモゴモゴと言っている。

「でも、変態のお世話は・・・・」

「変態なのは認めるよ。でも、さすがに見境なくはないから!ミーアに手を出そうものなら、即刻この島を取り上げの上、出入り禁止にする」

変態なのを認めた上で、そこまで懇願されたら断りにくい。

「ルールを決めてそれだけは守ってもらうけどいい?私に触れるの禁止。邪魔しない。他にも細かなことが沢山」

私は兎に角、生活破綻者に最低限の約束をさせた。それに対して、ブンブンと首を縦に振るカイゼス。ついでに尻尾まで振っている幻が見えた気がする。

「うん。じゃ、卵と乳製品の契約書と一緒に今の条件を文書にしてお昼には持ってくよ」

さすがに仕事が早いよね。「じゃ!」といい笑顔で帰って行ったヘルバー。残された私は、この汚屋敷をこのままにするのもどうかと、ざっと掃除をして、洗濯物を抱えて、自分のひとり島に帰った。その間、鬱陶しいほどにちょろちょろと後ろをくっついて廻るカイゼスに武器を仕舞わせ、洗濯物を置く場所を決め、食べ終わった食器や鍋を水に浸すことをコンコンと言い聞かせた。何事も初めが肝心。特に片付けられない人には、決めたことを守らせる。これが1番効果的。自分のひとり島でのんびりとお昼ご飯を用意して、3人分をアイテムバッグに詰め込むとカイゼスのひとり島へと戻ることにした。お昼ご飯は、目の下に隈を作っていたヘルバーへのご苦労様の気持ちだ。

「ああ。胃に染み渡る。美味しい。ここのところ、まともに食べれなかったから、嬉しすぎる」

「うまい」

幸せそうに食べるヘルバーとは反対に黙々と食べるカイゼス。一息ついて気になることを聞いてみた。

「今まで食事はどうしてたの?」

「朝と昼は、船で出来合を買って、夜は島の飯屋だ」

飯屋があるのか。その辺も開拓しないとね。

「その割に、食べこぼしとかなかったよね?」

「ヘルバーに叱られてから外で食べてたからな」

ナイス!ヘルバー。あれで食べこぼしまであったら、汚臭に塗れた汚屋敷になってたと思うよ。

「じゃあ、これからも外で?」

「勘弁してくれぇ。たまにならいいけど、ご飯は家の中で食いたい」

それが普通の感覚か。

「さあ。ミーア。これが契約書ね。確認してサインしてね。こっちは魔法契約書だから、注意して」

うん。どっちも不備なし。

「さて、このパンなんだけど、作り方を商業ギルドに登録しない?」

「なんで?」

「美味しいから」

随分ストレートな理由だった。

「いいけど、作るのは難しいと思うよ?」

「じゃあ、早速商業ギルドに行こうね?」

私はヘルバーに連行されるように商業ギルドに連れて行かれた。仕事が早いのも考えのだ。折角、ヘルバーが迅速に仕事をしたにもかかわらず、私の登録した柔らかな食パンは、それから10年は誰も再現が出来ず、ヘルバーに再び泣きつかれることになるとは、この時は考えもしなかった。
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