20 / 28
家政婦
しおりを挟む
カイゼスのひとり島の桟橋でそれ以上入ることを躊躇する私にヘルバーは、にっこりと有無を言わさぬ笑顔で私の背中を押し奥へと導いた。
「・・・・・・」
そして、見えた光景に絶句。ただっ広い庭は、一部がジャングルと化し、一部は雑草すら生えていない荒れ地で、至る所に腐って落ちた果物や木の実が散乱していた。あまりの酷さに立ち尽くす私の背中を再び押して、今度は家の中へ。
「汚屋敷だ。初めて見た」
汚部屋どころの騒ぎじゃない。家の中全体が、ある一定の場所を除き、足の踏み場もない。服が散乱し武器が無造作に放り出されている。
「ミーアに頼みたいのは、この家の掃除と食事作り、それから、庭の手入れなんだけど。僕が、10日ほど出張して帰ってきたら、この有様でね。この甥の面倒なんて見てたら、僕の悠々自適なひとり島生活がめちゃくちゃになっちゃいそうなんだ。毎日とは言わない。2回/7日でいいから、家政婦をしてもらえないかなぁ。一日中拘束しようなんて思ってないし。数時間でいいんだ。僕を助けると思って。ね?」
ていうか、こんなに生活能力のない人がひとり島にいるのが無理なんだと思うんだけど?
「今までやってこれたんだよね?」
「・・・・ミーアのひとり島に住んでたお婆さんに頼んで、1回/7日、家政婦をお願いしてた。いなくなっちゃって、僕だけじゃ廻らないんだよぉ」
「カイゼスがひとり島で暮らすのをやめるか、お世話してくれる人と一緒に住むとか」
「嫌だ!やっと、気儘にひとり島でのんびり出来るのに、気を張るような奴らと一緒の生活なんて無理だ」
「じゃあ、生活能力を上げるとか?」
「もう試したよ。壊滅的だった。肉を焼くだけなのに、皿を取るために一瞬フライパンから目を離したら、肉が炭になってた。オーブンならと思って肉を放り込ませたら、焼き始めて10秒もせずにオーブンが爆発。何の冗談かと思ったさ。洗濯は、雑巾にもならないほどの細切れだったよ。掃除は、もう怖すぎてさせてない。家が潰れるほうが問題だ」
何の冗談かとヘルバーを見ると、説明するだけで、当時の状態を思い出したのか、疲れ切って肩を落としていた。カイゼスは、明後日の方を向いている。どうやら冗談でも何でもないようだ。
「私でなくても、募集すればいくらでもやりたい人はいると思うよ?」
「それがねぇ。無理なんだよ。カイゼスの外見の問題なんだけどねぇ。女性はいろいろ理由をつけて居座ろうとするし、男性は女性の気を引きたくて引き入れようとする。年配の方を雇っても自分の子や姪だったり孫だったりを連れてくるんだ。で、その子達を桟橋に置いて帰っちゃうとかね。お婆さんはその辺心得てたから有り難かったなぁ。ミーア、君、カイゼスに興味ないでしょう?」
まあ、ないね。
「会って2回目の人をどうこう思わないでしょ?」
「だから、君に頼みたいんだよ。ね?僕を助けると思って。1月金貨1枚」
チラッとカイゼスを見ると項垂れて何やらモゴモゴと言っている。
「でも、変態のお世話は・・・・」
「変態なのは認めるよ。でも、さすがに見境なくはないから!ミーアに手を出そうものなら、即刻この島を取り上げの上、出入り禁止にする」
変態なのを認めた上で、そこまで懇願されたら断りにくい。
「ルールを決めてそれだけは守ってもらうけどいい?私に触れるの禁止。邪魔しない。他にも細かなことが沢山」
私は兎に角、生活破綻者に最低限の約束をさせた。それに対して、ブンブンと首を縦に振るカイゼス。ついでに尻尾まで振っている幻が見えた気がする。
「うん。じゃ、卵と乳製品の契約書と一緒に今の条件を文書にしてお昼には持ってくよ」
さすがに仕事が早いよね。「じゃ!」といい笑顔で帰って行ったヘルバー。残された私は、この汚屋敷をこのままにするのもどうかと、ざっと掃除をして、洗濯物を抱えて、自分のひとり島に帰った。その間、鬱陶しいほどにちょろちょろと後ろをくっついて廻るカイゼスに武器を仕舞わせ、洗濯物を置く場所を決め、食べ終わった食器や鍋を水に浸すことをコンコンと言い聞かせた。何事も初めが肝心。特に片付けられない人には、決めたことを守らせる。これが1番効果的。自分のひとり島でのんびりとお昼ご飯を用意して、3人分をアイテムバッグに詰め込むとカイゼスのひとり島へと戻ることにした。お昼ご飯は、目の下に隈を作っていたヘルバーへのご苦労様の気持ちだ。
「ああ。胃に染み渡る。美味しい。ここのところ、まともに食べれなかったから、嬉しすぎる」
「うまい」
幸せそうに食べるヘルバーとは反対に黙々と食べるカイゼス。一息ついて気になることを聞いてみた。
「今まで食事はどうしてたの?」
「朝と昼は、船で出来合を買って、夜は島の飯屋だ」
飯屋があるのか。その辺も開拓しないとね。
「その割に、食べこぼしとかなかったよね?」
「ヘルバーに叱られてから外で食べてたからな」
ナイス!ヘルバー。あれで食べこぼしまであったら、汚臭に塗れた汚屋敷になってたと思うよ。
「じゃあ、これからも外で?」
「勘弁してくれぇ。たまにならいいけど、ご飯は家の中で食いたい」
それが普通の感覚か。
「さあ。ミーア。これが契約書ね。確認してサインしてね。こっちは魔法契約書だから、注意して」
うん。どっちも不備なし。
「さて、このパンなんだけど、作り方を商業ギルドに登録しない?」
「なんで?」
「美味しいから」
随分ストレートな理由だった。
「いいけど、作るのは難しいと思うよ?」
「じゃあ、早速商業ギルドに行こうね?」
私はヘルバーに連行されるように商業ギルドに連れて行かれた。仕事が早いのも考えのだ。折角、ヘルバーが迅速に仕事をしたにもかかわらず、私の登録した柔らかな食パンは、それから10年は誰も再現が出来ず、ヘルバーに再び泣きつかれることになるとは、この時は考えもしなかった。
「・・・・・・」
そして、見えた光景に絶句。ただっ広い庭は、一部がジャングルと化し、一部は雑草すら生えていない荒れ地で、至る所に腐って落ちた果物や木の実が散乱していた。あまりの酷さに立ち尽くす私の背中を再び押して、今度は家の中へ。
「汚屋敷だ。初めて見た」
汚部屋どころの騒ぎじゃない。家の中全体が、ある一定の場所を除き、足の踏み場もない。服が散乱し武器が無造作に放り出されている。
「ミーアに頼みたいのは、この家の掃除と食事作り、それから、庭の手入れなんだけど。僕が、10日ほど出張して帰ってきたら、この有様でね。この甥の面倒なんて見てたら、僕の悠々自適なひとり島生活がめちゃくちゃになっちゃいそうなんだ。毎日とは言わない。2回/7日でいいから、家政婦をしてもらえないかなぁ。一日中拘束しようなんて思ってないし。数時間でいいんだ。僕を助けると思って。ね?」
ていうか、こんなに生活能力のない人がひとり島にいるのが無理なんだと思うんだけど?
「今までやってこれたんだよね?」
「・・・・ミーアのひとり島に住んでたお婆さんに頼んで、1回/7日、家政婦をお願いしてた。いなくなっちゃって、僕だけじゃ廻らないんだよぉ」
「カイゼスがひとり島で暮らすのをやめるか、お世話してくれる人と一緒に住むとか」
「嫌だ!やっと、気儘にひとり島でのんびり出来るのに、気を張るような奴らと一緒の生活なんて無理だ」
「じゃあ、生活能力を上げるとか?」
「もう試したよ。壊滅的だった。肉を焼くだけなのに、皿を取るために一瞬フライパンから目を離したら、肉が炭になってた。オーブンならと思って肉を放り込ませたら、焼き始めて10秒もせずにオーブンが爆発。何の冗談かと思ったさ。洗濯は、雑巾にもならないほどの細切れだったよ。掃除は、もう怖すぎてさせてない。家が潰れるほうが問題だ」
何の冗談かとヘルバーを見ると、説明するだけで、当時の状態を思い出したのか、疲れ切って肩を落としていた。カイゼスは、明後日の方を向いている。どうやら冗談でも何でもないようだ。
「私でなくても、募集すればいくらでもやりたい人はいると思うよ?」
「それがねぇ。無理なんだよ。カイゼスの外見の問題なんだけどねぇ。女性はいろいろ理由をつけて居座ろうとするし、男性は女性の気を引きたくて引き入れようとする。年配の方を雇っても自分の子や姪だったり孫だったりを連れてくるんだ。で、その子達を桟橋に置いて帰っちゃうとかね。お婆さんはその辺心得てたから有り難かったなぁ。ミーア、君、カイゼスに興味ないでしょう?」
まあ、ないね。
「会って2回目の人をどうこう思わないでしょ?」
「だから、君に頼みたいんだよ。ね?僕を助けると思って。1月金貨1枚」
チラッとカイゼスを見ると項垂れて何やらモゴモゴと言っている。
「でも、変態のお世話は・・・・」
「変態なのは認めるよ。でも、さすがに見境なくはないから!ミーアに手を出そうものなら、即刻この島を取り上げの上、出入り禁止にする」
変態なのを認めた上で、そこまで懇願されたら断りにくい。
「ルールを決めてそれだけは守ってもらうけどいい?私に触れるの禁止。邪魔しない。他にも細かなことが沢山」
私は兎に角、生活破綻者に最低限の約束をさせた。それに対して、ブンブンと首を縦に振るカイゼス。ついでに尻尾まで振っている幻が見えた気がする。
「うん。じゃ、卵と乳製品の契約書と一緒に今の条件を文書にしてお昼には持ってくよ」
さすがに仕事が早いよね。「じゃ!」といい笑顔で帰って行ったヘルバー。残された私は、この汚屋敷をこのままにするのもどうかと、ざっと掃除をして、洗濯物を抱えて、自分のひとり島に帰った。その間、鬱陶しいほどにちょろちょろと後ろをくっついて廻るカイゼスに武器を仕舞わせ、洗濯物を置く場所を決め、食べ終わった食器や鍋を水に浸すことをコンコンと言い聞かせた。何事も初めが肝心。特に片付けられない人には、決めたことを守らせる。これが1番効果的。自分のひとり島でのんびりとお昼ご飯を用意して、3人分をアイテムバッグに詰め込むとカイゼスのひとり島へと戻ることにした。お昼ご飯は、目の下に隈を作っていたヘルバーへのご苦労様の気持ちだ。
「ああ。胃に染み渡る。美味しい。ここのところ、まともに食べれなかったから、嬉しすぎる」
「うまい」
幸せそうに食べるヘルバーとは反対に黙々と食べるカイゼス。一息ついて気になることを聞いてみた。
「今まで食事はどうしてたの?」
「朝と昼は、船で出来合を買って、夜は島の飯屋だ」
飯屋があるのか。その辺も開拓しないとね。
「その割に、食べこぼしとかなかったよね?」
「ヘルバーに叱られてから外で食べてたからな」
ナイス!ヘルバー。あれで食べこぼしまであったら、汚臭に塗れた汚屋敷になってたと思うよ。
「じゃあ、これからも外で?」
「勘弁してくれぇ。たまにならいいけど、ご飯は家の中で食いたい」
それが普通の感覚か。
「さあ。ミーア。これが契約書ね。確認してサインしてね。こっちは魔法契約書だから、注意して」
うん。どっちも不備なし。
「さて、このパンなんだけど、作り方を商業ギルドに登録しない?」
「なんで?」
「美味しいから」
随分ストレートな理由だった。
「いいけど、作るのは難しいと思うよ?」
「じゃあ、早速商業ギルドに行こうね?」
私はヘルバーに連行されるように商業ギルドに連れて行かれた。仕事が早いのも考えのだ。折角、ヘルバーが迅速に仕事をしたにもかかわらず、私の登録した柔らかな食パンは、それから10年は誰も再現が出来ず、ヘルバーに再び泣きつかれることになるとは、この時は考えもしなかった。
91
あなたにおすすめの小説
慈愛と復讐の間
レクフル
ファンタジー
とある国に二人の赤子が生まれた。
一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。
慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。
これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。
だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。
大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。
そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。
そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。
慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。
想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……
平民に転落した元令嬢、拾ってくれた騎士がまさかの王族でした
タマ マコト
ファンタジー
没落した公爵令嬢アメリアは、婚約者の裏切りによって家も名も失い、雨の夜に倒れたところを一人の騎士カイルに救われる。
身分を隠し「ミリア」と名乗る彼女は、静かな村で小さな幸せを見つけ、少しずつ心を取り戻していく。
だが、優しくも謎めいたカイルには、王族にしか持ちえない気品と秘密があり――
それが、二人の運命を大きく動かす始まりとなるのであった。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
猛獣のお世話係
しろねこ。
恋愛
「猛獣のお世話係、ですか?」
父は頷き、王家からの手紙を寄越す。
国王が大事にしている猛獣の世話をしてくれる令嬢を探している。
条件は結婚適齢期の女性で未婚のもの。
猛獣のお世話係になった者にはとある領地をあげるので、そこで住み込みで働いてもらいたい。
猛獣が満足したら充分な謝礼を渡す……など
「なぜ、私が?私は家督を継ぐものではなかったのですか?万が一選ばれたらしばらく戻ってこれませんが」
「その必要がなくなったからよ、お義姉さま。私とユミル様の婚約が決まったのよ」
婚約者候補も家督も義妹に取られ、猛獣のお世話係になるべくメイドと二人、王宮へ向かったが…ふさふさの猛獣は超好み!
いつまでもモフっていたい。
動物好き令嬢のまったりお世話ライフ。
もふもふはいいなぁ。
イヤな家族も仕事もない、幸せブラッシング生活が始まった。
完全自己満、ハピエン、ご都合主義です!
甘々です。
同名キャラで色んな作品を書いています。
一部キャラの台詞回しを誤字ではなく個性として受け止めて貰えればありがたいです。
他サイトさんでも投稿してます。
私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい
あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。
誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。
それが私の最後の記憶。
※わかっている、これはご都合主義!
※設定はゆるんゆるん
※実在しない
※全五話
【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。
まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」
そう、第二王子に言われました。
そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…!
でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!?
☆★☆★
全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。
追放即死と思ったら転生して最強薬師、元家族に天罰を
タマ マコト
ファンタジー
名門薬師一族に生まれたエリシアは、才能なしと蔑まれ、家名を守るために追放される。
だがそれは建前で、彼女の異質な才能を恐れた家族による処刑だった。
雨の夜、毒を盛られ十七歳で命を落とした彼女は、同じ世界の片隅で赤子として転生する。
血の繋がらない治療師たちに拾われ、前世の記憶と復讐心を胸に抱いたまま、
“最強薬師”としての二度目の人生が静かに始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる