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絆されて
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「サイカ。済まなかった。本当にごめん」
アダベルトは、ソファーから立ち上がり、私に頭を下げた。
「何に対しての謝罪?」
「半身なんだから、一緒にいるのは当然だと、サイカの意思を無視して離宮に閉じ込めた。兄上たちの妃に叱られたんだ。半身を言い訳にするな、と。グレイモールにも呆れられた。話し合えと言っただろう!って凄い剣幕で怒鳴られた」
しゅんとしている姿に騙されてしまう。だって、全身でごめんなさいって訴えてくるんだよ。泣くのを堪えてるのがまた、ねぇ。図体のデカい幼児に見えてくる。グレイモールがアダベルトに怒鳴ったというのは、ちょっと意外だったけど。だって、私のこと、使える駒としか見てないふうだったし。
「反省した?」
「した。サイカと連絡が取れなかった半年で、騎士団を辞めて、シーアーバンスに引っ越した。今は、魔法ギルドに登録して、依頼を受けながら暮らしてる」
え?今なんて?
「シーアーバンスに住んでるの?あなた、王族よね?」
「権力者、嫌いなんだろう?だから、王族は辞めさせてもらえなかったけど、騎士団長は、すぐ上の兄上に引き継ぎしてきた」
絶句。よくそんなことが許されたと思う。
「えええ・・・・」
ちょっと、何を言っていいか、言葉が出てこない。
「ちゃんとサイカに好きになってもらえるように頑張るから、だから、だから、棄てないでくれぇ」
アダベルトの目からとうとう堪えていた涙がぽろぽろと零れ落ちた。「ひぐっひぐっぐずぐず」と人目も憚らず泣き出す始末。ペションとへたった耳と力なく垂れた尻尾が私の心を抉る。
「分かった、分かったから、泣き止んで。私が泣かせたみたいじゃない」
ここがホテルの部屋でよかったと心から思う。
「ごめん。かっ、勝手に出てくるんだ。止めようと思っても止まらなくて」
情緒不安定か。まあ、私のせいではあるんだよね。通信の魔道具を渡しておいて、音信不通とか、普通に考えても鬼畜な所業だったわ。半身にそれをされたら、まあ、情緒不安定にもなるか。
「通信に応えなかったのは、ごめん。すっかり存在を忘れててね。悪気はなかったんだけど、ごめんね?」
「忘れて・・・・。うっうううひぐっ」
ええ~!さっきより涙が多くなったんだけどぉ?!何か抉っちゃったの?
「ううう。もう、絶対、ひっくは離れない!サイカにくっついて、ひぐっ、はなれない!」
取っていた距離はあっという間に詰められて、またも抱き込まれてしまった。それが、子供が母親に縋るのと同じに思えて、突き放すことは戸惑われる。黙って立っていれば、もの凄~い美丈夫なんだけど、残念感が拭えない。その残念さが可愛く思えるのは、このへたった耳のせい?
ぐう~ぐるぐる
お腹が鳴った。私のではない。
「ご飯食べに行こう。私もお腹減った」
その前に、アダベルトのぐちゃぐちゃの顔と汗ばんだ不快さを何とかしようと洗浄の魔法陣に魔力を流した。さっぱり!つくづく便利だよね、魔法も魔法陣も。
「魔法か?」
ここで漸くアダベルトが顔を上げた。
「魔法陣だね。その方が安定してキレイになるし、魔力も節約できる」
「初めてだ。いつも魔法を使ってたから」
「目的を果たせるなら、どっちでもいいんじゃない。そんなことより、ご飯に行こう。あなたのお腹も限界でしょう?」
「あなたじゃなくてルトと呼んでほしい」
「分かった、ルト」
それだけで、花が開いたように笑顔になった。耳もピン!と立ち、尻尾はブンブンと音を立てている。
「手、繋いでいい?」
「いいよ」
「抱き上げるのは?」
「ダメ」
この半年の間に、アダベルトは成長していた。私の意思を確認してくるのだ。まるで、躾がされた犬のよう。抱き上げたいのを我慢して、手を繋いでくる。それはそれは嬉しそうに。くぅっ!まだ、まだ、騙されてなんてあげないんだからぁ!
仲良く手を繋いで、ここ一週間ほどで見つけた食堂の中でもボリューミーなところを選んだ。特に魚介類が絶品だが、肉も美味しい。
「ここは、お値段はちょっと張るけど、どれも美味しくて量もあるんだ」
店内はかなり混んでいるけど、テーブルの空きはまだあった。そのひとつに腰掛ける。
「・・・・なんで隣にすわるのかな?向かいに座ってもらえる?それとも、私がそっちに座った方がいい?」
「膝・・・・」
巫山戯たことを言いだしたアダベルトに、にっこりと笑みを向けると、渋々席を移動した。2人なんだから、テーブルに隣り合って座るのは勘弁してほしい。落ち着かない。握った手を離さないのはこの際見逃すことにした。
「美味し~い。この牡蠣、プルプル」
「この塩焼きもうまいな」
「ちょっとこの牡蠣、食べてみてよ」
自分の使っているフォークに牡蠣を刺してアダベルトの口元に運んだ。
「あ、ああ」
戸惑いながらもアダベルトは、牡蠣に食いついた。
「美味いな」
「でしょう?フライもいいけど、牡蠣はやっぱり生だよね」
「こっちも食べてみろ」
アダベルトは、自分のフォークに貝柱を刺して私に差し出した。私は、躊躇いもせずそれに食いつく。
「北も美味しかったけど南も美味しい。美味しいものが食べられるって幸せ」
私は、今、ちょっと浮かれているらしい。ずっとお一人様でこんなふうに会話をしながらの食事は久し振りだ。ヴィーグの食事は私の魔力で、会話は出来ても食べ物の美味しさを分かち合うことは出来なかった。
「そうだな。ほら、これも食べろ」
こちらも美味しいものを食べてご機嫌なのか、自分が食べて美味しかったものを私に差し出してくる。
「ああ。それ、大きくて食べきれそうにもなかったから諦めてたやつ。う~ん。美味しいねぇ」
「そうか」
私たちは端から見ればバカップルそのものなんだけど、そもそも、カップルの自覚が全くない私は、周りから生温い視線を向けられていることすら気づかなかった。一方、アダベルトは、もちろんそれも織り込み済みで、周りへの牽制も兼ねて私に「あ~ん」を敢行していたのだった。
アダベルトは、ソファーから立ち上がり、私に頭を下げた。
「何に対しての謝罪?」
「半身なんだから、一緒にいるのは当然だと、サイカの意思を無視して離宮に閉じ込めた。兄上たちの妃に叱られたんだ。半身を言い訳にするな、と。グレイモールにも呆れられた。話し合えと言っただろう!って凄い剣幕で怒鳴られた」
しゅんとしている姿に騙されてしまう。だって、全身でごめんなさいって訴えてくるんだよ。泣くのを堪えてるのがまた、ねぇ。図体のデカい幼児に見えてくる。グレイモールがアダベルトに怒鳴ったというのは、ちょっと意外だったけど。だって、私のこと、使える駒としか見てないふうだったし。
「反省した?」
「した。サイカと連絡が取れなかった半年で、騎士団を辞めて、シーアーバンスに引っ越した。今は、魔法ギルドに登録して、依頼を受けながら暮らしてる」
え?今なんて?
「シーアーバンスに住んでるの?あなた、王族よね?」
「権力者、嫌いなんだろう?だから、王族は辞めさせてもらえなかったけど、騎士団長は、すぐ上の兄上に引き継ぎしてきた」
絶句。よくそんなことが許されたと思う。
「えええ・・・・」
ちょっと、何を言っていいか、言葉が出てこない。
「ちゃんとサイカに好きになってもらえるように頑張るから、だから、だから、棄てないでくれぇ」
アダベルトの目からとうとう堪えていた涙がぽろぽろと零れ落ちた。「ひぐっひぐっぐずぐず」と人目も憚らず泣き出す始末。ペションとへたった耳と力なく垂れた尻尾が私の心を抉る。
「分かった、分かったから、泣き止んで。私が泣かせたみたいじゃない」
ここがホテルの部屋でよかったと心から思う。
「ごめん。かっ、勝手に出てくるんだ。止めようと思っても止まらなくて」
情緒不安定か。まあ、私のせいではあるんだよね。通信の魔道具を渡しておいて、音信不通とか、普通に考えても鬼畜な所業だったわ。半身にそれをされたら、まあ、情緒不安定にもなるか。
「通信に応えなかったのは、ごめん。すっかり存在を忘れててね。悪気はなかったんだけど、ごめんね?」
「忘れて・・・・。うっうううひぐっ」
ええ~!さっきより涙が多くなったんだけどぉ?!何か抉っちゃったの?
「ううう。もう、絶対、ひっくは離れない!サイカにくっついて、ひぐっ、はなれない!」
取っていた距離はあっという間に詰められて、またも抱き込まれてしまった。それが、子供が母親に縋るのと同じに思えて、突き放すことは戸惑われる。黙って立っていれば、もの凄~い美丈夫なんだけど、残念感が拭えない。その残念さが可愛く思えるのは、このへたった耳のせい?
ぐう~ぐるぐる
お腹が鳴った。私のではない。
「ご飯食べに行こう。私もお腹減った」
その前に、アダベルトのぐちゃぐちゃの顔と汗ばんだ不快さを何とかしようと洗浄の魔法陣に魔力を流した。さっぱり!つくづく便利だよね、魔法も魔法陣も。
「魔法か?」
ここで漸くアダベルトが顔を上げた。
「魔法陣だね。その方が安定してキレイになるし、魔力も節約できる」
「初めてだ。いつも魔法を使ってたから」
「目的を果たせるなら、どっちでもいいんじゃない。そんなことより、ご飯に行こう。あなたのお腹も限界でしょう?」
「あなたじゃなくてルトと呼んでほしい」
「分かった、ルト」
それだけで、花が開いたように笑顔になった。耳もピン!と立ち、尻尾はブンブンと音を立てている。
「手、繋いでいい?」
「いいよ」
「抱き上げるのは?」
「ダメ」
この半年の間に、アダベルトは成長していた。私の意思を確認してくるのだ。まるで、躾がされた犬のよう。抱き上げたいのを我慢して、手を繋いでくる。それはそれは嬉しそうに。くぅっ!まだ、まだ、騙されてなんてあげないんだからぁ!
仲良く手を繋いで、ここ一週間ほどで見つけた食堂の中でもボリューミーなところを選んだ。特に魚介類が絶品だが、肉も美味しい。
「ここは、お値段はちょっと張るけど、どれも美味しくて量もあるんだ」
店内はかなり混んでいるけど、テーブルの空きはまだあった。そのひとつに腰掛ける。
「・・・・なんで隣にすわるのかな?向かいに座ってもらえる?それとも、私がそっちに座った方がいい?」
「膝・・・・」
巫山戯たことを言いだしたアダベルトに、にっこりと笑みを向けると、渋々席を移動した。2人なんだから、テーブルに隣り合って座るのは勘弁してほしい。落ち着かない。握った手を離さないのはこの際見逃すことにした。
「美味し~い。この牡蠣、プルプル」
「この塩焼きもうまいな」
「ちょっとこの牡蠣、食べてみてよ」
自分の使っているフォークに牡蠣を刺してアダベルトの口元に運んだ。
「あ、ああ」
戸惑いながらもアダベルトは、牡蠣に食いついた。
「美味いな」
「でしょう?フライもいいけど、牡蠣はやっぱり生だよね」
「こっちも食べてみろ」
アダベルトは、自分のフォークに貝柱を刺して私に差し出した。私は、躊躇いもせずそれに食いつく。
「北も美味しかったけど南も美味しい。美味しいものが食べられるって幸せ」
私は、今、ちょっと浮かれているらしい。ずっとお一人様でこんなふうに会話をしながらの食事は久し振りだ。ヴィーグの食事は私の魔力で、会話は出来ても食べ物の美味しさを分かち合うことは出来なかった。
「そうだな。ほら、これも食べろ」
こちらも美味しいものを食べてご機嫌なのか、自分が食べて美味しかったものを私に差し出してくる。
「ああ。それ、大きくて食べきれそうにもなかったから諦めてたやつ。う~ん。美味しいねぇ」
「そうか」
私たちは端から見ればバカップルそのものなんだけど、そもそも、カップルの自覚が全くない私は、周りから生温い視線を向けられていることすら気づかなかった。一方、アダベルトは、もちろんそれも織り込み済みで、周りへの牽制も兼ねて私に「あ~ん」を敢行していたのだった。
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