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パーティー

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私はお兄様にエスコートされて、パーティー会場に入りました。お祖父様たちやお父様、お母様は一足先に会場に行き、お客様をもてなしています。私たちが会場に着くとお父様から皆様にお礼の言葉が述べられました。それを皮切りに挨拶の方々が順番にやって来ます。

これ、いつ終わるのかしら?

笑顔の顔が引き攣り始めた頃、漸く挨拶から解放され・・・・。ほっとした時、庭の外からざわざわとした気配がしてきました。家令のレイモンドがお父様の元へときてヒソヒソと何か囁いた後、お父様はお母様を伴い庭を出ていきます。

一体何があったのでしょう?

「お父様たちに任せておけば大丈夫だよ。さあ、挨拶も終わったし、何か食べる?お腹すいたでしょう?」

不安そうな顔の私を気遣ったお兄様が私の手を引き、料理のある方へと導こうとしたその時、お父様とお母様が後ろの誰かを先導して戻ってきました。そして、私とお兄様の元へと真っ直ぐにやって来ます。

「シャルロット。こちらは、第1王子のクレイグ殿下と第2王子のフィリップス殿下だよ。シャルロットのお祝いに来てくださった。アレックスは、お城で会っているから知っているね?さあ、シャルロット、アレックスもご挨拶を」

「はい。お初にお目にかかります。フォンテーヌ公爵が息女シャルロット・フォンテーヌでございます。本日はわたくしのパーティーへおいでくださり、有難うございます」

「この度は、妹のためにご足労頂き、有難うございます。どうぞ、楽しんでいってください」

第1王子殿下は、お兄様と同じ8歳。銀蒼色の髪に蜂蜜色の瞳を持つスラッとした美少年です。皆さんがうっとりと見惚れるのも仕方ありませんね。

「シャルロット嬢、5歳おめでとう。私のことはクレイグと呼んでね?アレクが話していた通りだね。アレクがなかなか城に来ないわけだ。クスクス」

お兄様!第1王子殿下に何をお話しされたのですか!

「ふん!アレックスの話しと全然違うじゃないか!」

クレイグ殿下とお話の最中に、第2王子のフィリップス殿下が喚き散らしました。

なんなのでしょう、この方は?
王族なのにこれでいいのでしょうか?
王族だからこれでいいのでしょうか?

まだ、貴族社会という身分制度がよくわかりません。

「フィル!お前は挨拶もできないの!シャルロット嬢と同じ5歳とは思えないよ。だから、城で待っていろと言ったんだ」

クレイグ殿下は、フィリップス殿下をたしなめながらも、その目には軽蔑の色がちらほらと見え隠れしています。あまり仲が宜しくないのでしょうか?

「はっ!兄上だって思っているくせに!こんなデブ、どこが可愛い天使だ!」

フィリップス殿下は、プイッと行ってしまいました。クレイグ殿下と似たような銀青色の髪とブルーベリー色の瞳を持つ可愛らしい男の子ですが、どうやら、私のことはお気に召さなかったようです。

こちらを注視していた私やお兄様と同じくらいの歳のご令息やご令嬢はクスクスと声を殺して嗤っているのがわかります。保護者の方々は流石に嗤ってはいませんが、一部の方は第2王子殿下の発言に同意を示すような表情をしています。

まあ、確かにここに招かれているご令嬢に比べてポッチャリであることは否めませんが、5歳ならこのくらいはむしろ健康的と言ってほしいところです。健康な身体、美味しいごはん、魅惑的なお菓子の数々。何て素敵な響きでしょう。私がポッチャリから脱する日はないでしょうね。

それよりも、お兄様、天使ってなんですか!!!

「シャルロット嬢、フォンテーヌ公爵、愚弟が申し訳ない」

「謝罪は不要です。わたくしがポッチャリなのは事実ですし、別になんとも思っておりません」

本当に何とも思いませんでしたから、ちゃんと笑顔ですよ?

「ありがとう。シャルロット嬢はポッチャリじゃないよ。健康的で可愛らしいと思う。アレクが溺愛するのがよく分かるよ」

「シャルロットは僕のてんしです。あげませんよ?」

笑いながら話をするふたりは、スポットライトがあたっているかの如く、キラキラと眩しくて目が引き寄せられてしまいます。

ああ、ここに天使がふたりいます。福眼です。

他のご令嬢方も同じように感じたのでしょう。ほうっとうっとりした顔でふたり見つめています。そして、ジリジリとこちらに近づいてくるではありませんか!その様子に私は身の危険をひしひしと感じます。

「殿下、シャルロットもこう申しておりますし、本日のパーティーを楽しんでいってください」

お父様はそう言うとお母様を連れて私たちから離れていきました。

不味いです。本格的に身の危険を感じます。このままここに居てはいけないと私の本能が告げています。ここから離れなくては!

「お兄様、わたくしヒャッ・・・・」

凄いです。小さくても女です。あの細い身体のどこにこんな力があるのでしょう。私はお兄様の隣から弾き飛ばされてしまいました。

あれ?痛くない?

「大丈夫?」

「え?」

声が下から聞こえてきた気がします。恐る恐る振り返ると、私より少し年上に見える男の子が地面に横たわるような状態で私を見上げています。転んだ拍子に彼を巻き込み、下敷きにしたために痛くなかったのです!

「ごめんなさい!怪我はありませんか?」

私は慌てて彼の上から退こうとあわあわしていると、誰かが私の脇に手を入れてひょいっと抱き上げてくれました。

「お兄様。ありがとう」

お兄様の後ろには冷めた目で取り巻いている令嬢たちを見るクレイグ殿下と青褪めた顔の令嬢たちがこちらを見ています。

「レオナルド、妹を助けてくれてありがとう」

「いいえ。たまたま・・・・後ろを通りがかっただけです」

「シャルロット、紹介するよ。彼は、レオナルド・バーデンテール公爵子息。ロッテと同じ5歳だよ」

「お初にお目にかかります。バーデンテール公爵が子息、レオナルドと申します。お怪我はありませんでしたか?」

「シャルロット・フォンテーヌと申します。先ほどはありがとうございました。貴方が代わりに転んでくれたので、擦り傷ひとつありませんわ」

レオナルド様は、私より頭ひとつ分くらい大きくてお兄様と同じくらいの背丈です。お顔立ちは整っておいでですが、可愛らしいというよりは精悍な感じのする男の子です。黒髪黒目で私には懐かしく落ち着く色合いです。

ところで、レオナルド様、そろそろ私の手を離してくださいませんか?

実は、転んだときからずっと私の手をにぎにぎしているのです。

「あの、レオナルド様。手を・・・・」

「あっ!ごめん!」

レオナルド様は、顔を赤くして、慌ててぱっと私の手を離しました。無意識だったようです。

それからほどなくして、両殿下はお帰りになり、私はお兄様とお兄様の仮婚約者のシルビアお姉様と、何故か私たちについてくるレオナルド様と私の誕生日のために用意されたお料理を存分に頂き、楽しい時間を過ごしました。あの猛獣のような令嬢たちは、私たちを窺うように視線を寄越しはするものの近づいてくることはありませんでした。後にシルビアお姉様から聞いたところによると、お兄様とレオナルド様がふたりがかりで威嚇しておられたのだとか。そりゃあ、誰も近づいて来れませんよね。ハァ。

その後も、レオナルド様は時折、おそらくは無意識に私の手をにぎにぎしては、気づくと赤い顔で慌てて離すという奇行を繰り返していました。その度に私は笑いを噛み殺すのに必死です。お兄様は、呆れたように何も言いません。私もレオナルド様ににぎにぎされるのは嫌ではありませんでしたから、咎めることはしませんでした。

そんなちょっと不思議なパーティーは和やかに終わりを告げ、思ったよりも印象深い誕生日となりました。
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