マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜

潟湖

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第56話 果てしなき困惑

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 ラグナロッツァの冒険者ギルド総本部直営食堂で、初めて晩御飯を食べたその日。
 ライトは帰路に就く間、ずっと困惑していた。
 その原因は、あの場でライトだけが強烈に感じていた、職業に関する決定的な齟齬である。

 何故、ライトのいう『職業』が龍虎双星の彼らに通じなかったのか。
 何故、ライトは彼らの言う『ジョブ』を知らなかったのか。
 何故、何故、どうして、何故、何故―――

 今まで、ライトを含めてこの世界の誰もが当然のこととして捉えていた存在『冒険者』。
 よくよく思い起こせばライト、いや、ライトの前世である橘 光が知るブレイブクライムオンラインには『冒険者』という職業は存在しなかった。
 そもそもゲームユーザーは『勇者候補生』という名目で勇者育成機関という組織に所属し、冒険や討伐、クエストなど様々な試練を経て仲間とともに立派な勇者を目指しながら成長していく、という物語ストーリーだったのだ。


 どうして今まで気づかなかったんだろう。

 冒険者は冒険者であって、勇者ではない。

 ならば、勇者はどこにいる?

 この世界に、勇者と呼ばれる者は存在するのか?


 考えれば考えるほど、更なる疑問が湧き続けるばかりでライトは心底途方に暮れる。
 それはまるで、迷宮に迷い込んだライトを何者かが嘲笑っているかのような―――そんな錯覚さえ覚えるほどの、全く出口の見えない強烈な混迷だった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ディーノ村の冒険者ギルドの転移門から、カタポレンの森の家に帰る道すがら、ライトはレオニスに聞いてみた。

「……レオ兄ちゃんの職業も、やっぱり『冒険者』?」
「ああ、そうだ。それがどうかしたのか?」
「そしたら、レオ兄ちゃんのジョブって、何?」
「俺のジョブか?【魔法剣闘士】だ」
「魔法、剣、闘士……」

 ライトは愕然とした。

 知らない……魔法剣闘士って何だ……俺は知らないぞ、そんな職業。
 そんな名前の職業、ブレイブクライムオンラインで見たことも聞いたこともない。
 初級職に相当する1次職はもちろんのこと、中級の2次職や上級の3次職、最上級の4次職だってライトは全て覚えていて完全に網羅している。
 そのライトですら【魔法剣闘士】なる職業は、今まで一度として見たことも聞いたこともない代物だった。

 一体何が、何がどうなってるんだ……
 ここは本当に、俺の知るブレイブクライムオンラインの世界なのか?
 あまりの意味の分からなさに、吐き気すら催してくる……
 本気で目が回りそうだ……

 放心しているライトの顔を、レオニスが心配そうに覗き込む。

「ライト、お前、ものすごく顔色が悪いぞ……今日もあちこち歩き回ったから、疲れが溜まり過ぎたか?」

 ライトは我にかえり、慌ててレオニスに言い募る。

「……あっ、いや、その……今日はとっても楽しかったよ?」
「ラグーン学園の制服や教科書の準備も、レオ兄ちゃんのおかげで全部揃ったし」
「ラウル特製のアップルパイとお茶も、すごく美味しかったし」
「ギルドの直営食堂での晩御飯も、本当に美味しいものをたくさん食べて楽しかったし」
「先輩冒険者さん達の話も、ものすごく興味深くてためになる話だったし」

 レオニスはまだ心配そうに、ライトの顔を覗き込む。

「ならいいが……」
「お前、直営食堂でジョブの話を聞いた辺りから、何かおかしかったよな?」
「あの時、俺達には分からない何かがあったのか?」

 どうにもこういう時の、レオニス特有の野生の勘?は、やたらと的を射ているから困る。
 この手の勘が鋭い人相手には、嘘や誤魔化しが通じにくく効かないからだ。
 ライトは呼吸を整えながら、慎重に答える。

「んー……ぼくが想像してた職……ジョブとは、ちょっと違ってたから」
「それに、全部初めて聞くジョブだったし、しかももっとたくさんの種類があるようだし」
「だってぼく、レオ兄ちゃんが【魔法剣闘士】だなんて、今日初めて知ったよ!」
「ぼくの知らないことばかりで、本当にびっくりしてただけなんだ」
「………………」

 レオニスは、真剣な眼差しでライトを見つめ続ける。
 それは決してライトを責め立てるようなものではなく、その真意を汲み取ろうとするような、いつになく真っ直ぐで真面目な視線。

「……そうだな。俺もお前に自分のジョブのこととか、今まで事細かに詳しく話したことは一度もなかったしな」

 小さくため息をつきながら、伏し目がちに肯定する。
 ライトも、嘘は言っていない。何しろ『本当に知らないことばかり』で、内心ではずっと『びっくりしていた』のだから。

「ジョブってのは、本人が何かしらの職や特技を得たい時に、神殿で行うんだ」
「その年齢は10歳を過ぎてから、ということ以外は特に決まってはいない。時期は人それぞれで、自分が得たいと思った時に受けられる。だいたい15歳までにはほとんどの人が受ける」
「10歳になってすぐに受けるのは、俺達のように冒険者志望のやつとか、代々続く家業を継ぐ必要がある跡取りとかだな」
「そうでなければすぐに適性判断をする必要はないが、それでも15歳くらいまでには自分の将来、進路を決めるために受けなきゃならなくなる。自分の適性が分からんことには、進路の決めようもないからな」
「神殿で適性判断を受けて、その結果次第で自分に最も適したジョブを選んでスクロールを授与される、てのはさっきクルトが説明していた通りだ」
「お前はもうすぐ8歳になるが、ジョブの適性判断はまだ受けられない。まずは10歳になってからだな」

 レオニスは、ざっとではあるがジョブについての追加説明を行った。
 それまで静かに聞いていたライトは、レオニスに質問した。

「レオ兄ちゃんは、冒険者になったばかりの頃から、ずっと【魔法剣闘士】なの?」
「ああ。俺はHPもMPも攻撃力も魔力も、ほぼ全般において生まれつき割と高い資質を持っていたようだから」
「それら全てを余すことなく活かせる【魔法剣闘士】を選んだんだ」

【魔法剣闘士】、文字通り魔法と剣と格闘に秀でたジョブなのだろう。物魔両方に秀でているオールラウンダーとなれば、冒険者としてかなり早いうちから頭角を現していたに違いない。

「じゃあさ……例えば、もしレオ兄ちゃんが今から【魔法剣闘士】以外のジョブに就きたいって思ったら、別のジョブに変えることはできるの……?」

 ライトは思いきって、今自分が一番知りたいことをダイレクトに聞いてみた。
 もう地雷を踏みたくない云々などと悠長なことを言ってはいられない、この際知りたいことは聞いておくべきだ。ライトの本能が、そう叫びながら全身を駆け巡っていた。
 職業ではない、ジョブというシステム。ライトが全く知らないそのシステムは、任意による変更が可能か否か。これはライトにとってかなり―――いや、最も重要なことであった。

「ジョブの変更?…………いや、そういう例があるって話は聞いたことはないな」
「そもそも神殿で行われるジョブのスクロール授与は、一生に一度きりだ」
「人一人が何度も種類の違うジョブのスクロールを授与した、授与された、なんて話は―――」
「少なくとも俺は、今まで一度も聞いたことがない」

 ライトは目の前が真っ暗になった。




====================

 二回目のラグナロッツァお出かけ。

 ここでもまた一日の出来事に11話も食ってしまいました!うひょーい、遅筆もいいとこ(以下同文

 ま、ライトに重大な試練が発生することが発覚した日ということで、ここはひとつゴニョゴニョモニョモニョ。

 ちなみにライトがレオニスのジョブを知らなかったのは、ある意味仕方のないことです。
 現代で例えますと、小さな子供が自分のお父さんがおまわりさん、警察官だということは知っていてもどこの所属かまでは知らないようなもんです。
 お父さんとて10歳にも満たない我が子に、パパはおまわりさんだということを教えても、所属はマル暴だの刑事課だの生活安全課だのまでは教え込まないでしょう、的なイメージですね。
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