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3章 再交する道
6 . デート②
しおりを挟む《珠稀視点》
──このような所で天代宮様にお会いするなんて思っておりませんでしたわ。 天代宮様だけでなく、半身様にもお会い出来るなんて……
先程まで私は地上での視察を終え、雲上眩界に戻るために神力の回復を待っている最中でした。着物の新調をしながら。
その時に天代宮様の気を感じ、ご挨拶をと赴いた私が目にしたのは、前回お会いした時よりもさらに柔らかいお顔をした天代宮様。
天代宮様は傍らに人間の少女を伴っておりましたわ。
前回天代宮様にお会いした時より、『あの天代宮様をあのように変えたのはどのような人間なのか』という疑問がありましたけれど……清らかな魂をもった愛らしい娘でしたわ。
そして半身様は、神族の頂点にある天代宮様の半身であるだけでなく、神の加護を受けた尊い身の上でした。感情を感じない私でさえも、己の内で何かがざわめいているような……今までにない感覚を感じましたわ。
……あの気に気が付かない神族がいるなんて、考えられませんわ。天代宮様の様子から察するに何か事情がおありの様子でしたが……
普通の神族である私を、人間である半身様は不気味に思われたでしょう……。にも関わらず、翠玉を治したことに対する感謝の気持ちを向けられました。翠玉の声をお伝えした時には、それはそれは嬉しそうなお顔をなさって……私達神族はあのような笑顔を護るために存在しているのかしら?
そして先程、半身様の笑顔を同じく嬉しそうに見つめる天代宮様の様子を見て、古くから神族の間で語り継がれる文言を思い出しましたわ。
──“半身に出会うことが出来た者は、幸福に包まれた生を送ることが出来る”──
半身を得た先達が必ずのように残していく言葉。
……私には理解不能ですわ。
私が現在の任に就いて五百年。きっと、私は今後も先達が残した言葉の意味を理解するとこなく、自分の任を終えることでしょう。
「……」
──ですが、
もし…もしも、己の半身と出会っていたら私もまた、今とは違った生き方をしていたのでしょうか……?
「……考えても仕方ありませんわね」
それにしても、半身様は可愛らしい方でしたわ。私が感情をもっていたら、あの時の私はどのように感じてしたのかしら?
またお会いしたいですわ………
* * *
《咲空視点》
「珠稀さんにお会いできてよかったです」
「ずっと礼を言いたいと言っておったから、近い内に会わせようと思っていたが……良い機会であったな」
「はい」
珠稀さんが去っていった方を見ながら、先程までのことを思い出す。
珠稀さんにエメラルドを直してもったお礼を言うことができてよかった。次に会った時にはもう少し色々なことを聞いてみたい。エメラルドを指して『その子も喜んでいる』って言っていたけど、鉱物の声というのがどんな感じで聴こえるのかとか。
「──さぁ、我らも店内を見て回ろう」
麗叶さんと話をしながらお店の中の服を見ていく。
どの服も綺麗。
麗叶さんにはどんな服がいいかな……
そう考えながら歩いていると、一つ疑問が湧いた。
「このお店は神族が利用すると言っていましたけど、人間の前に顕現する以前からなんですか?」
「いや、この店が出来るまではそれぞれの式神に着物を作らせておった。しかし、神力の強さによっては創り出せる式神の数が限られていて、式神に着物を織らせていては支障をきたすという者もおってな……顕現するのを機に、神族が利用できる店を用意してもらったのだ」
「式神が……式神ってどんな存在なんですか?」
桃さんや葵さん、大和さん……麗叶さんの式神は全員で十四人いるらしいけど、私が会ったことがあるのはその三人だけ。式神ってどんなことをしているんだろう?
「それぞれが何をするかと問われると一概には言えないが、式神は神族の職務を支える存在だ。複数の式神をもつ神族は自分は雲上眩界に身を置き、地上での職務は式神に任せるというものが多いな……しかし、ほとんどの神族は珠稀のように定期的に地上に降り、自らの目でも視察をする。……まぁ、己の任を全て式神に任せきりにしている者もいるが……」
「……それって「あれなど、そなたに似合うのではないか?」
「えっ?」
麗叶さんが示す方向にあるマネキンが着ていたのは、雪のような白が基調となった膝下丈のワンピース。
麗叶さんはそのマネキンの近くに掛けられていた色違い──水色のものを取って眺めている。春の日の青空を思わせる優しい色。
「そなたの心を色で表すとすれば、このような色であろうな」
「心の色……?」
心の色というのはよく分からないけど、こんなに綺麗な色に例えてもらえるのは嬉しい。
大人っぽいけど可愛いさを感じさる雰囲気のワンピース。
今までにもらった服は、洋服だと丈の長いワンピースが多いけど、普段は和服を着て過ごすことが多いから和服ほど数は多くない。
改めてワンピースをよく見ると、裾の方に銀糸で葉や花の刺繍が入れられている。首元はスッキリとしたVネックで、腰の辺りは幅が広めのゴム素材で締められていて、袖は裾の方少し広がっていて長さは肘くらいまで。……ファッションに詳しい人は襟の形とか袖の形とかをもっと上手く表現できるんだと思うけど、私にはこれが限界みたい……
でも、見ている程に惹かれていくように感じる。……これが直感っていうものなのかな?
「──どうだ?」
「落ち着いているけど可愛いくて、いいと思います」
「……ふむ、一度試してみるか……咲空、これを着てみてくれないか?」
「はい」
麗叶さんがそう言って近くにいたお店の人に目を向けると、それに気が付いた店員さんが私達の方に来てくれた。
「──ご試着なさいますか?」
「あぁ、頼もう。……自身が気に入るか実際に試してみるといい。着たら我にも見せてくれるか?」
「もちろんです」
「──では、試着室にご案内いたします」
* * *
着てみたけど、どうなんだろう……?
鏡に映った自分を見る限り、変ではないはず……客観的に見たときにどう見えるのかはわからないけど、悪くはないと思う。実際に着てみて、私自身はすごく気に入った。
それと……以前は鏡を見られなかったけど、普通に見られるようになってる。私も変われたのかな……
……さぁ、麗叶さんに見てもらう約束だけど、試着室から出るのは緊張する。
「──麗叶さん、着られました」
「そうか。出てこられるか?」
「はい……」
そっと試着室から出る。
本当に、他の人からはどう見えるんだろう……?
「どう、でしょうか……?」
「あぁ……本当に愛らしい……我は洋装には詳しくないが、愛しい者が自分の選んだ服を着るというのは何やらこそばゆいものを感じるな……よく似合っている」
「本当ですか?」
「あぁ。先程まで着ていた服も似合っていたが 、こちらの方がそなたの雰囲気に合っているように思う」
麗叶さんの優しい笑顔を見て安心した。
「そう言っていただけて嬉しいです。私もこの服を気に入ったので……」
「ではまずはこれにしよう。そなたも気に入ったようだが、これは我が選んでしまったから他にも見てみて、今度は自分が着たいというものを選ぶといい」
「ありがとうございます」
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