暗黒家族の令嬢は悪役ではないので、婿入り復讐計画を受け付けません

星琴千咲

文字の大きさ
19 / 145
【名演技篇】第四章 シンデレラ物語ではない

0402 CEOの小細工にご注意

しおりを挟む
リカの忘れ物は楽器ゲーツのような白いケースだった。

サイズはいつも持っているサーブルのカバンよりちょっと大きい。

イズルは中身を聞いたら、答えは「サーブル」だった。

リカは外出する時に、必ずサーブルのカバンを持っている。

イズルはずっとそれに気になる。カバンの中身は確かにサーブルだと青野翼が言ったけど、やはりおかしいと思う。

「パーティーでもサーブルを持ち歩きですか?」

「そう。役に立つとは限らないけど、持っていないと、いざとなったら困る」

どこの理論だ。

プロのサーブル選手でもしないだろ。

中身はやはりサーブルなんかじゃないとイズルは疑ったけど、リカの顔色を伺ったら、問い詰めを止めた。



先ほど、リカからまた二つの大幅減点を送信された。

一つ、マイナス6000点、コメント:服装にナンセンス

もう一つ、マイナス12000点、コメント:幼稚な報復



派手な登場はイズルに強く断られたので、三人は普通にパーティー会場の扉から入ることになった。

パーティー会場は一階にある戸外ガーデン。イズル三人は室内で待機して、司会を務める博司の紹介を待っていた。

顎も頭もピカピカの博司は、まずイズルの家族の不幸を悼む話をした。それから調子を一転して、嬉しそうにイズルの復帰を宣言する。

「……我が神農グループの希望、CEOイズル様のご回復に心からお喜びを申し上げます。それでは、CEO、どうぞご登場を――」

「リカさん、腕を貸して」

イズルは紳士のようにリードポーズを決めて、リカに腕組みを促した。

リカはイズルと腕を組む気がないと気付いたら、青野翼はさっそく助言を入れる。

「リカさんの身分について、CEOの命の恩人と外に発表しました。これは恩人に対する礼儀です。ご協力をお願いします」

「冷酷非情なCEOの素質があるから付き添いの教育係に雇われた」というふざけたことは公表できないから、青野翼は別の嘘を用意した。

――リカはイズルをあの爆発事件から救った恩人。

そして、彼女は犯人の手がかりを持っている。彼女をイズルの傍に置くのは証人を守るためだ。

ベタなドラマパターンたけど……いいえ、ベタだから合理的に見えて、疑いの深い親戚たちも納得できそうな話だ。



リカは少し躊躇ったけど、やはりニコニコで自分を待っているイズルに腕を任せた。



もう夜になったが、スポットライトに囲まれるパーティー会場は昼間のように明るい。

神農グループの中で、イズルの家と血縁関係のある親戚は大体十家族。グループの重要な関係者は十組ほど。その人たちに招待された重要な客人も含めて、会場に大よそ百人がいる。

パーティー会場に足を踏み入れた瞬間、イズルとリカは百人の視線を浴びた。



まもなく、その百人は分流し始める。

約三分の一の参加者はイズルにお祝いと挨拶をする。

また三分の一の参加者は、食事と状況観察を選ぶ。

残った三分の一の参加者は、とある50代の男を中心に群れる。

リカは人と人の間の隙間からあの男を覗いた。

たくましい体格をしている頑丈そうなおじさん。四角の顎に黒い髭、全身がかなり硬い雰囲気。青野翼の言ったイズルに一番敵意を持つ卓三だ。



卓三の悪い顔色に全く気にせず、イズルは好青年の顔で参加者たちと社交辞令を交わした。

わざとだろうか、時々に、輝かしい笑顔で卓三のほうに向ける。

(こういう時の演技はわりと上手だね。加点すべきかも。)

とても幼稚な報復をするよう人に見えない。

上手くやっているイズルを見ると、リカはかえって慣れないと感じた。



でも今はイズルを評価する場合ではない、もっと重要なことがある。

リカはざっと会場を見まわした。万代家の人らしい人はいないようだ。

(彼女は来たはず。探しに行こう。)

リカは歩き出そうとしたら、誰かが話をかけてきた。

「お嬢さんはイズルお坊ちゃま、いいえ、CEOを救った恩人さんですね!」

「犯人を見ましたか?一体誰がうちの要人にあんなことを……」

「……」

イズルの恩人ではないけど、リカは犯人の心あたりがある。

でもここでは言えないし、言うつもりもない。

「すみません、この件に関して、もう警察に頼みました。リカさんも被害者です。プレッシャーをかけないでください」

イズルはリカの前にでて、彼女の代わりに質問者たちに対応した。

そして、優しい眼差しでリカの顔を見つめる。

「?」

リカは異様な気配を感じたが、彼女が反応する前に、イズルは両手で彼女の顔を優しく包んで、春風のような笑顔で言った。

「睫毛にがパウダーがついていますよ」

そして、皆の注目の中で、イズルはキッスすると思わせる距離までリカの顔に近寄って、睫毛に軽く息を吹いた。

「?!」

リカはイズルの意外な行動にあっけにとられた。



周りの人は、よほど間抜けなものでなければ、イズルの行動の意味が分かる。

つまり、よくあるドラマチックなパターンだ。

――遭難した王子様は命の恩人の少女に恋をした。



イズルの期待通り、彼の結婚に余計な興味を持っているおじさんおばさんたちはざわざわし始めた。

「なにがあると思ったわ。恩人ならお金をやればいい、証人なら警察に任せばいいのに。パーティーに連れてくる必要はないでしょ」

「本当に恩人だとしても、うちのイズルに変な企みがあったら困るわ」

「ほら、何を背負っているの?パーティーのマナーも知らない田舎の子じゃない?」



周りの人たちはリカを見る視線が一気に変わった。

いろんな視線に刺されて、リカは少々気まずさを感じたけど、隣のイズルは心の中でこっそりと笑った。

イズルはリカの耳元で自慢そうに囁いた。

「言ったでしょ?わたしと一緒にいる女性は標的になるって。でも大丈夫ですよ。ちゃんと守ってあげるから」

「!」

イズルの言葉と共にリカの耳元に小さな電流が走って、針に刺されたような痛みがした。

なるほど、こういうことか……

リカはイズルの妙な行動の意味が分かった。

本来なら、イズルはパーティーの中心で、参加者たちの標的だ。彼はわざと周りに二人の関係を誤解させ、参加者の注目点を自分に向かせた。



ほんの小さな行動だけど、リカの心の中の警戒線は点された。

――腕を組んだところで、イズルは自分の仲間ではない。

自分は彼を探るように、彼もまた自分を利用しようとしている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎ 清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。 膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。 さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。 社交は上品に、恋心は必死に隠したい。 なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——! むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。 清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。

夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!

佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。 「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」 冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。 さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。 優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...