上 下
42 / 77
【名演技編】第九章 嚙み合わない二人

0901 罪状:人殺し

しおりを挟む
「入族のことを承諾する。条件と儀式は後で話そう。今すぐここから出してくれ。神農しんのうグループの商品に何があったら、オレの価値も下がる」
青野翼の電話を切って、イズルはリカに要求した。
イズルの表情からリカは厳重性を理解して、多く言わず洞窟を開放した。
外へ走ったら、二人とも電話を掛けた。
リカはあかりへ、イズルは軌跡へ。
軌跡きせき、皆を連れて、オレが今から送る場所に向かってくれ。着いたら現場の状況を送ってくれ。どんな事があってもまず待機だ。オレはすぐ行く」
桟橋まで来て、子供向けなデザインの白鳥ボートを見て、さらにそのゆるゆるな速さを考えたら、イズルは頭痛した。
湖の岸辺を走った方か早いかも。
その時、リカは木と草の間に隠された一本の細い道を指さした。
「その道を抜けたら小型車が走れる道路がある。そこに立ち乗りの電動スクーターがある。あかりに用意を頼んだ」
「じゃ馬鹿馬鹿しい白鳥ボートで来る必要はどこにある?!」
本気に焦っていて、イズルは思わずリカに大声を上げた。
それは八つ当たりだと分かって、リカも強い態度で返した。
「その知力で電気スクーターを使えないと思ったから」
「……」
イズルは黙った。
焦っても解決できないことだと分かる。
急いでリカについて、隠れ道に入った。

道を抜けたら、そこにあかりと電気スクーターが道辺で待っている。
「お兄ちゃんの家に何があったの? まさか、あいつらはわざと……」
「わからない。とにかく帰らせてあげるの」
リカは目でイズルに行っていいの合図をした。
イズルはさっそく電気スクーターに乗ったけど、また振り向いてリカを呼んだ。
「お前も一緒に来い」
「?」
「オレの力が欲しいなら、まずオレはどんな人なのかしっかり見届けてもらおう。バカを見るような目で見られるのはもううんざりだ!」
「……」
リカはちょっとびっくしりた。その言い方だと、さっきの承諾は本当のようだ。
「あたしは自分で帰れる。お姉ちゃんたちは早く行って!」
あかりは手を振って、二人の背中を押した。
電気スクーターはギリギリ二人で乗れるサイズ。リカはイズルの後ろに立っていて、しっかりと彼を掴んだ。
イズルはスピードを最大に上げて、駐車場の方に飛んで行った。

包囲されたところは、神農グループ所属の製薬工場。
町の離れにあり、高霊こうれい山から車で40分で着ける。
イズルは携帯電話を車のナビの隣にあるスタンダードにセットして、電話をかけながら車を飛ばした。
「スピード……」
 イズルの険しい横顔を見たら、リカは「違反」の二文字を呑んだ。
よほどやばいことのようだ。
リカは自分の携帯を出して、途中でイズルから聞いた目的地の情報を調べ始める。

工場の付近に着いたのはちょうど正午。太陽はまぶしく大地を照らしている。
工場の外は高い壁に囲まれていて、その中に、数多いの建物がある。周りに高い建物や樹などがないので、その付近の状況は遠いところからもはっきり見える。

最初にリカとイズルの視線に入った異変は、数台のパトカーと工場を囲んだ黄色い警戒線だ。
「隊長、そこの止まってください」
イズルの携帯から、軌跡の声が響いた。
「俺たちは工場の真正面のカフェにいる。さっき、警察の服を着ている人たちが何人も来て、お店の人と雑談していた。工場の消防設備に問題があるとか言って……全員拳銃を携帯しているようだ」
「拳銃を持って製薬工場の消防を点検する? 笑えない冗談だな」
イズルは鼻で笑った。
ちゃんとした言い訳も用意しないとは、かなり傲慢な相手のようだ。
「あなたの表に出せない産業のABCDとかを狙ってきたのでしょう。本当の警察かどうか分からないけど」
リカは横から会話に入った。
「本物でも偽物でも、オレのものに指一本触れさせない」
イズルはそう言い張って、また電話に向けて命令を出した。
「軌跡、オレは車で突入する。お前たちの方は『蜃気楼』を頼む」
「了解だ」
軌跡はそれ以上聞かずに電話を切った。
リカは「蜃気楼」の意味が分からないが、イズルとその仲間たちの呼吸がぴったり合っていることが分かった。

イズルは車を工場の入り口の斜め向こうの道路に止めて、しばらく待機した。
この位置は目立たない。しかも工場の入り口の状況をよく見える。
まもなく、たけしは工場の入り口に走って、何かを叫びながら、自分の体重を利用して一人の警察を押し倒した。警察たちが健に気を取られた間、軌跡と守が突入し、それぞれ一人の警察を掴んで、工場の外へ引っ張り出そうとした。
ほかの警察は混乱になって、三人を止めようと飛びかかって、入り口はあっという間に混戦になった。

それを見ると、イズルは車を動かして、工場の入り口に向けた。
そしてドアのロックとシーベルトを解除して、リカにも言った。
「シーベルトを外そう。オレが動く前に勝手に何もするな」
 リカは黙ってシーベルトを外した。
イズルはエンジンをかけ、工場の入り口に向けて車を飛ばした。

「だから! もう間に合わないって!!」
「お願い、助けてくれ――!!」
「早く!!」
軌跡、健、まもる三人はわけの分からないことを叫びながら、警察たちと乱闘している。
車のホーンを聞いたら、三人はたちまちあちこち逃げ出した。
警察たちもついに異様に気付いて、間一髪で逃げた。

入り口を突破したら、イズルは車を止めることはなく、運転席から立ち上がった。
助手席のリカを腕の中に囲んで、助手席の扉を開いた。
車が走ったまま、イズルはリカを抱いて車から飛び出した。
二人は床で数回転がって、安全着陸した。
車は入り口の真正面にある花壇にぶつかって、石台を砕け、それから数回三百六十度を回し、工事中の倉庫に飛び込んだ。

リカは車から出された一瞬でなんとかサーブルのカバンを引っ張り出した。人も荷物も無傷だった。
イズルの体に数か所のかすり傷があったけど、彼は何もなかったように、早速立ち上がって、合流しに来た軌跡三人に向けた。

一歩遅れで来た警察たちは相当な距離を取って、イズル一行を警戒している。
「すみません。車のブレーキが壊れたみたい。わたしを殺そうとする人の仕業でしょう」
イズルは挑発的な笑顔を警察たちに見せた。
「皆さんの身の安全のために、わたしともっと距離を取った方がいいと思います」
車事故で脅かされた上、また軽蔑そうな目で見られて、何人の警察は悔しそうに歯を食いしばった。
その時、工場のオフィスの方から何人が走ってきた。
先頭に走る黒いスーツの中年男性は一直線にイズルに向かった。
「CEO! 待っていました!」 
はぎさん、ご苦労様です」
イズルは軽く男性にうなずいたら、萩さんという男性は低い声で状況を説明する。
「CEOが電話で指示した通りに、『問題ない』ところから消防設備の点検をゆっくりと案内してやりました。奴らはなんの点検道具も持っていません。消防設備より、ほかの何かを探しているようです」
「時間稼ぎありがとう。後はオレに任せるがいい」
男に下がる合図をして、イズルは一度リカに振り返る。
いたずらっぽくにこっと笑った。
「この事件をよく処理できたら、加点してくれよ」
「……」
リカは少し躊躇ってから、採点スマホを出して、加点のメロディーを数回鳴らした。
半分冗談で言ったので、どこが評価されたのかイズルは気にしなかった。

イズルは警察たちの先頭に立っている、リーダーっぽい人物に向けて視線を上げた。
「わたしはこの製薬工場の責任者です。ここの消防設備は一体どんな問題があって、こんなたくさんの警察さんに苦労を掛けましたか。教えてくれませんか?」
そのリーダーは二十代の若い男性。白い肌に尖った顎、片寄りの前髪は目を隠せるほど長い。耳にピアスとイアリングの穴が残っている。
警察より、売れないホストと言った方がふさわしい感じだ。
とにかく、イズルの心の中でその人をホスト風リーダーで呼ぶことにした。
「もちろん、それほどの問題がありますから……」 
ホスト風リーダーは口を開いたら、警察の中からある私服の中年女性が飛び出した。
女性はイズルたちに向けて大声で叫んだ。
「人殺し——!!」
「?!」
イズルたちはびっくりして、女の怒りの目線を辿った。
その目線の先にいるのはリカだ。
女はまた一歩を出て、リカに指さして叫んだ。
「この人殺し! やっぱりここに隠れたのね!」
女はリカに飛びかかろうとする勢いに気付いて、イズルは一歩先にリカの前に出た。
細い中年女性はイズルに怯えたように更に前進しなった。
ただ悔しそうに叫び続ける。
「お金持ちを釣って庇ってもらうつもり?! 笑わせるなよ! あんたが犯した罪は一生も償えないものだ! 一生も消えない大恥だ! あんたは継承人なんかじゃない、卑劣な人殺しのことは、皆も知っているんだ!」
女の眉と目じりは黒色に描かれていて、目は充血している。深紅に塗られたの唇から歯が突き出る。まさに怒りの鬼だ。
確かにリカを憎んでいるように見える。
リカはただ自分を罵る女をまっすぐ見つめていて、何も言わなかった。
でも、その複雑な目と強張った顔からイズルは彼女の動揺を感じた。
「あんたは私の息子と姪を殺した! 自分一人で生き延びるために、継承人の地位のために…部下も先輩も先生も同僚も殺した! あんたこそ裏切り者なのよ! 卑劣な人殺しなんだ!」
イズルは喚く女を放っといて、ホスト風リーダーに冷笑した。
「なるほど、警察さんは異常者を掴むために来たのですね。仕方がありません。ここは製薬工場、治療が必要な人を引き寄せてもおかしくないですね」
「……」
狂っている女を見て、ホスト風リーダーも眉をひそめる。
彼女の役目はすでに終わった。ここに残させても自分側に恥をかかせるだけだ。
ホスト風リーダーはほかの人に目配せをして、二人の警察は女を抑えた。
「おばさん! 落ち着いて!」
「俺たちは処理するからしばらく休んでください!」
「リカ! あんたは不幸になる! この世界から消え去れ! この世界にあんたの居場所がないんだ! あんたの罪をばらしてやる! この人殺し!! ……」
女は絶叫しながら二人の警察に強引的に連れて行かれた。
しおりを挟む

処理中です...