【完結】シャングリラ【R18】

有喜多亜里

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4 飲んで飲まれて*

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 そのときから、口も行為に加わった。
 男は手と舌とで、彼の性感帯を一つ一つ探り出し、入念に責めた。女のように胸を揉まれながら、勃った乳首を舌で嬲られると、それだけで爆発しそうになった。
 何度絶頂を迎えても満足することがない。いや、回数を重ねれば重ねるほど、この飢餓感はひどくなる。

「あぁ! いいッ! いいッ! もっと! もっと!」

 声に出して、さらに興奮をかき立てることも覚えた。

「ゆるい! 締めろ!」

 男の叱咤に応えて、自在に締めつける術も身につけた。
 男と体をつなげるたび、彼の内から常識や理性といったものが抜け落ちていく。
 今や彼は、男の従順な性奴せいどと化していた。

「くわえろよ」

 あるとき、便器に腰かけた男の前に跪かされて、目の前にあれを突きつけられた。
 間近で見ると、それの存在感は圧倒的だった。彼は思わずゴクリと生唾を飲みこんだ。

「歯なんて立てたら承知しないぞ。おまえを悦ばせられるのは、これだけなんだからな」

 言われるまま、彼は緩慢にうなずいた。男の背中も好きだったが、背中は彼を体の芯から熱くしない。
 だが、これだけの大きさのモノを一気に口腔内に収めることは、さすがに彼の鈍った頭でも無理だと思われた。
 彼はまず、味見するように先端を舐めた。ピクンと男が反応する。それにそそられて、血管が浮き上がってごつごつとした男の肉棒に両手を添えると、余さず丹念に舐め上げた。
 これは男に予想以上の快感を与えたようで、男は深く喘いだ。彼はいよいよ高ぶって、男を含もうと唾液まみれの口を大きく開けた。
 と、男が彼の頭をつかみ、力まかせに自分のほうへと引き寄せた。男のモノが喉の奥を塞ぎ、吐き気がこみ上げる。

「んぐ……んん……!」

 抗議しようにも口がきけない。苦しさのあまり目が潤む。何とかして酸素を得ようと、彼は必死で鼻をひくつかせた。しかし、男は彼の頭を両手でしっかり固定すると、下の口を犯すときと同じように、腰を前後に動かしだした。
 苦しさに耐えあぐねて、彼は男の膝頭をつかんだ。が、そのせいで男の股が開き、かえって男を奥に侵入させてしまった。あまりの太さに舌を使うどころではない。口から涎がボタボタと雨垂れのように落ちる。彼は焦点の合わない目で、波打つ男の腹だけを見ていた。
 ――男が短い喘ぎを上げたのは、彼の喉の最奥に進んだときだった。
 生温かい液体が喉にあふれた。その味は、以前男の指についた自分のそれを舐めさせられたときに知っていたが、今はそれを感じる間もなく、食道を下り落ちていった。
 男が彼の口から少し萎えた自分自身を抜き取る。同時に彼は激しく咳きこんだが、男は彼の頭と顎を押さえつけて、強引に口を閉じさせた。

「吐き出すな。全部飲め」

 すでにあらかた胃のほうに行っていたが、彼は言われたとおり、自分の唾液ごと男が放ったものを飲み下した。男に逆らうことなどもう考えられなかった。それを満足そうに眺めてから、男は立ち上がった。

「座れよ。今度は俺がやってやる」

 男の口の中はアヌスよりもずっと広かったが、その熱さとぬめり具合は比べようもなかった。舌先で亀頭の裏をなぞられただけで、もういきそうになってしまう。だが、以前のこともあるので、彼はぐっとこらえた。

「はぁ…はぁ…」

 息を弾ませながら、彼は自分のこわばった太ももに手をかけて、さらに大きく広げた。すべての感覚が、男にくわえられた一点に集中していた。そこだけが熱くて、熱くて、蕩け落ちてしまいそうだった。
 頬張るだけでせいいっぱいだった彼とは違い、さすがに男は巧みだった。彼を転がし、扱き、吸い上げた。そのたび、彼は敏感に反応して、よがり声を上げた。
 男が軽く歯を立てた。ぎりぎりまで張りつめられていたものがそれで切れて、男の口の中に発射された。

「あっ……あぁ……」

 弛緩して、便器の蓋にもたれかかる。男は自分が彼にさせたように、口の中にあるものを飲み下したばかりか、まだ物足りないように口をすぼめて啜った。

 ――まるで牛の乳首に食いついてるみたいだ。

 そう思いながら、彼は鼻を鳴らして、一滴残さず〝搾乳〟させた。

   *

 気が向くと、男は最初のときのように、実に気安く彼に尻を貸した。前からだと男のあれが邪魔になるので、たいてい後ろからだった。
 自分のモノで男を喘がせるのは、彼を異常に興奮させた。それが男がいつも感じている征服欲なのだろう。だが、いつもしまいには、犯されているのは男ではなく、自分のような錯覚にとらわれる。
 男は彼を内側からペニスでかき回す代わりに、外側から絶妙に締め上げた。いずれにしろ、翻弄されているのは常に彼のほうで、男ではなかった。
 それなら、やはり男には、ペニスでアヌスを突かれたい。彼がいちばん好きな体位は、最初に犯されたときのそれだった。このときも、彼は男に背中を向けて、男の往復ピストン運動に身を任せていた。

「あぁ、あぁん、はぁ、はぁ……」

 いつものように、男の指が袋ごと彼を揉みしだき、男の口が彼の首筋を愛撫する。彼は男の太ももに爪を立ててのけぞった。頭が真っ白になって、何の音も耳に入らないはずだった。だが、その音は彼の耳に届いた。
 最初は自分か男の鼓動かと思った。それほどそれはよく似ていた。しかし、その音はだんだん大きくなり、ついには壁全体が揺れはじめた。まるで壁の向こう側で、誰かが力いっぱい叩いているかのように。

「な……に?」
「時間切れだな」

 腰も手も休めずに男が言った。

「時間切れ……って、何……が?」
「時間切れは時間切れだ。おまえ、眠いだろ?」

 そのとおりだった。音が大きくなるのにつれて、彼はかつてないほどの強い眠気に襲われていた。

「いや……だ……!」

 閉じようとする瞼を、彼は必死で持ち上げた。

「俺……戻りたく……ない……ずっと、ずっとあんたとここにいる……!」

 なぜか、彼は理解していた。この睡魔に負けて目を閉じたとき、自分はここではないどこかに戻り――二度と男に会えなくなるのだ。

「気持ちはありがたいがな」

 そう言いながら、男は彼を握りしめた。

「あうッ」
「来ようと思えば、いつでもおまえはに来れる」

 男の手は壁を叩く音に合わせて巧みに彼を扱き、男のモノは彼の中を滑るように行き来した。快感と眠気がないまぜになって、意識が遠のきそうになる。耳元で男が低く囁いた。

「どこでもいいから、トイレに行くんだ。忘れるなよ、――――」

 その瞬間――
 彼は思い出した。
 今まで、男の顔は見られなかったのではない。無意識のうちに、見ないようにしていたのだ。
 見れば、わかってしまう。この男の顔が、見るたび変わっていることを。

「……嫌だ……嫌だ……嫌だ……」

 駄々をこねるように彼は身をよじらせた。耳を塞いでも、壁の音は彼に戻れと迫ってくる。うるさい、うるさい、うるさい。俺はこれで幸せなんだ。放っておいてくれ――

「嫌だ……戻りたくなんかない……あそこには、あんたはいないのに……!」

 そして、彼は達した。
 悦楽のためだけではない涙が、流れて落ちた。
 壁の音は大きくなり――
 彼は眠りの海に呑まれた。
 男の顔は最後まで、見ることはできなかった。
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