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第一部
第三章:灰色の肌に赤い水
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眠りは唐突に破られた。
けたたましいサイレンが鳴り、白い部屋は赤く点滅するライトで視界は真っ赤だ。カイはパニックになりそうな頭を必死に働かせてベッドから片足を下ろした。それは激痛と呼ぶにふさわしい痛みだった。ベッドは羽のように柔らかいので理解できていなかった。高圧にさらされたカイの身体は細胞レベルで破壊され、床に足をつく、立ち上がる、歩くという普通の動作さえ困難にしていた。
「カイ!」
声をやや張り上げてシオンが部屋へと入ってきた。その胸へ手折りこんでしまい、カイは申し訳なさで眉を寄せた。だが足は痛み縋りつく腕も力が入らない状態ではどうすることもかなわない。シオンは何も言わずにカイを何でもないように抱き上げた。
「少し、センサーが誤作動を起こしたようです。驚かせてしまいましたね」
揺らぐ青灰色のひとみがやんわりと笑む。その瞳を見るだけでカイは心が癒されていくのを感じた。
『センサー?』
空へと指で文字を書いてみると、シオンはそれを読み取りかすかに三県へしわを寄せて答えた。
「はい、地下にはとある実験の……養殖魚が多くいます。それらのうちの一匹が水槽から跳ねて飛び出してしまったようです。危険があると誤解したセンサーが反応してこの有様です」
苦笑する顔が美しいなとカイは見とれた。そして、きちんとした男性の骨格を持つこの男にあまり性別を感じないのはなぜなのかとふと疑問に思った。だが、そんな失礼なことを本人に聞くわけにはいかない。カイはあいまいに笑うと、『大変だね』と指で会話した。
その日も黄金のスープを腹いっぱい平らげて、カイはシオンに抱き上げられて浴室へ連れていかれた。広く清潔な浴室内にはかすかに石鹼の匂いが漂っていた。何より、湯舟いっぱいにたたえられた透明な湯にカイは目を丸くして思わずシオンの背中を叩いていた。
『お湯だ! 海水?』
「いいえ、真水ですよ。地下数百メートルから汲み上げています。お湯は珍しいですか?」
カイはぶんぶんと首を縦に振る。地上は凍てつく氷にはバレて、水道設備は凍り付き使い物にならなかった。身k図は配給制でそのほとんどが飲み水に使われていた。海上民でさえ、月に数回シャワーを浴びられれば良いほうだった。
カイは浴室内の椅子に腰かけて、シオンにより丸裸にされた。肌は長いワーカーの暮らしのせいで、ひび割れ、垢や皮脂がこびりついていた。全身が灰色の油膜でおおわれているようなものだった。髪も艶がなくパサついている。
特に気にしたことなどなかった自分の汚れが、気になる。目の前にいる男が一分の隙もないほど整っていることが原因だと気づくとカイは羞恥で赤くなった。
けれどシオンはそんなことは気にならないようで、カイを抱き上げるとさっさと湯舟に沈めてしまう。手で湯をかけながら片手でポンプ式のカートリッジから液体石鹸を押し出す。湯はすぐさま泡立ち真っ白になった。そこにカイの身体から流れ出た赤茶けた汚れが浮き上がる。
柔らかな海綿のようなものでシオンはごく丁寧にカイの体を洗い始めた。こんなに体ねに身体を扱われたことはなかった。良い香りのする石鹸にふいに妹を思い出す。
(この石鹸を持ち帰れたなら……いや、妹をここへ呼ぶことができたら……)
無駄な希望だということは分かっていた。だが、自分だけがこんな良い目を見ていることに後ろめたさが小さなとげになり皮膚に刺さる。今頃妹はどうしているだろうか。薬は、ドロップは手に入っただろうか。考え始めると胸が熱くなり思わず涙g踏んでいた。
(ここに来てから俺は弱くなった)
カイはそっと手で目元を擦った。泡が目に染みるとでもいうようにごまかす。シオンはそんなカイの背を流し続ける。静かな染みるような暖かさが手のひらからカイに流れ込んできた。
けたたましいサイレンが鳴り、白い部屋は赤く点滅するライトで視界は真っ赤だ。カイはパニックになりそうな頭を必死に働かせてベッドから片足を下ろした。それは激痛と呼ぶにふさわしい痛みだった。ベッドは羽のように柔らかいので理解できていなかった。高圧にさらされたカイの身体は細胞レベルで破壊され、床に足をつく、立ち上がる、歩くという普通の動作さえ困難にしていた。
「カイ!」
声をやや張り上げてシオンが部屋へと入ってきた。その胸へ手折りこんでしまい、カイは申し訳なさで眉を寄せた。だが足は痛み縋りつく腕も力が入らない状態ではどうすることもかなわない。シオンは何も言わずにカイを何でもないように抱き上げた。
「少し、センサーが誤作動を起こしたようです。驚かせてしまいましたね」
揺らぐ青灰色のひとみがやんわりと笑む。その瞳を見るだけでカイは心が癒されていくのを感じた。
『センサー?』
空へと指で文字を書いてみると、シオンはそれを読み取りかすかに三県へしわを寄せて答えた。
「はい、地下にはとある実験の……養殖魚が多くいます。それらのうちの一匹が水槽から跳ねて飛び出してしまったようです。危険があると誤解したセンサーが反応してこの有様です」
苦笑する顔が美しいなとカイは見とれた。そして、きちんとした男性の骨格を持つこの男にあまり性別を感じないのはなぜなのかとふと疑問に思った。だが、そんな失礼なことを本人に聞くわけにはいかない。カイはあいまいに笑うと、『大変だね』と指で会話した。
その日も黄金のスープを腹いっぱい平らげて、カイはシオンに抱き上げられて浴室へ連れていかれた。広く清潔な浴室内にはかすかに石鹼の匂いが漂っていた。何より、湯舟いっぱいにたたえられた透明な湯にカイは目を丸くして思わずシオンの背中を叩いていた。
『お湯だ! 海水?』
「いいえ、真水ですよ。地下数百メートルから汲み上げています。お湯は珍しいですか?」
カイはぶんぶんと首を縦に振る。地上は凍てつく氷にはバレて、水道設備は凍り付き使い物にならなかった。身k図は配給制でそのほとんどが飲み水に使われていた。海上民でさえ、月に数回シャワーを浴びられれば良いほうだった。
カイは浴室内の椅子に腰かけて、シオンにより丸裸にされた。肌は長いワーカーの暮らしのせいで、ひび割れ、垢や皮脂がこびりついていた。全身が灰色の油膜でおおわれているようなものだった。髪も艶がなくパサついている。
特に気にしたことなどなかった自分の汚れが、気になる。目の前にいる男が一分の隙もないほど整っていることが原因だと気づくとカイは羞恥で赤くなった。
けれどシオンはそんなことは気にならないようで、カイを抱き上げるとさっさと湯舟に沈めてしまう。手で湯をかけながら片手でポンプ式のカートリッジから液体石鹸を押し出す。湯はすぐさま泡立ち真っ白になった。そこにカイの身体から流れ出た赤茶けた汚れが浮き上がる。
柔らかな海綿のようなものでシオンはごく丁寧にカイの体を洗い始めた。こんなに体ねに身体を扱われたことはなかった。良い香りのする石鹸にふいに妹を思い出す。
(この石鹸を持ち帰れたなら……いや、妹をここへ呼ぶことができたら……)
無駄な希望だということは分かっていた。だが、自分だけがこんな良い目を見ていることに後ろめたさが小さなとげになり皮膚に刺さる。今頃妹はどうしているだろうか。薬は、ドロップは手に入っただろうか。考え始めると胸が熱くなり思わず涙g踏んでいた。
(ここに来てから俺は弱くなった)
カイはそっと手で目元を擦った。泡が目に染みるとでもいうようにごまかす。シオンはそんなカイの背を流し続ける。静かな染みるような暖かさが手のひらからカイに流れ込んできた。
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