勘違いって恐ろしい

りりん

文字の大きさ
2 / 19

2

しおりを挟む
  走ってきたアンナがユリアーナにドンッとぶつかると転んだ
  顔を上げてウルウルと大きな目に涙を溜めると

 「お義姉様、酷いですっ」

  そう言って蜂蜜色の髪を揺らしながらグスグスと泣き始めた
  ユリアーナは、大袈裟なアンナの態度に冷めた目を向けながら、内心うんざりとして扇で口元を隠すと、盛大に溜め息を漏らす

  「わたくしは、貴女のお義姉様ではありません。それに、ぶつかってきたのは貴女の方じゃありませんの」

  「酷いっ、そうやって全部私が悪いみたいにっ……いつまでも私の事を認めてくれないんですねっ」

  グスグスと泣きながら周囲に聞かせるように言葉を発するアンナを無表情に見つめるとニコリと微笑みを湛えて

  「認めないのではありませんわ。貴女はいつになったら、現実の世界に戻れるのかしらねぇ」

  周囲がざわざわとしはじめるとバタバタと籠絡された令息達が集まってきてアンナに駆け寄った
  ユリアーナの婚約者アイザックがアンナを抱き起こして腕の中に庇うように支える
  アンナがアイザックの胸にぎゅうっと顔を埋めると潤んだ大きな目で上目遣いに見上げて

「アイザック様……」

  弱々しく名前を呼ぶアンナの頭を優しく撫でて、大丈夫、と囁く
  それを見ている周囲の生徒達がヒソヒソとざわめいている
  ユリアーナは扇の陰で何度も溜め息を吐いていると

  「ユリアーナ、義妹を虐めて楽しいか」

  険しい目でユリアーナを睨むアイザックに

  「ですから、義妹ではない、と初めから申しておりますわ」

  「またか、自分のしている事を棚に上げて、そんなにアンナを認められないのか。可愛がられるアンナに嫉妬するような醜い奴だったとは、見損なったな
  こんなに健気に耐えて、可憐なアンナのような令嬢が淑女と呼ぶに相応しい」

  衆人環視の中で、婚約者以外の異性を抱き締めながら、婚約者を貶め詰るアイザックに、婚約が結ばれてから築いてきたと思っていた信頼も尊敬の念も一瞬にして吹き飛んだユリアーナは、婚約者である男を無表情で眺めていた

  「可憐だなんてっ…アンナ照れちゃいますっ、アイザック様」

  「照れて恥ずかしがるアンナは、もっと可憐だ」

  アンナはアイザックの首に腕を絡めて抱きつき、アイザックは抱きつくアンナの腰に腕を回して引き寄せ

  婚約者と衆人の目の前で繰り広げられ始めた茶番に、アンナに籠絡された者以外は白く蔑んだ視線を送る
  茶番にうんざりしていたユリアーナが、パチンっと音を立てて扇を閉じると

  「左様でございますか。アンナこそが、淑女に相応しい、と、そう申されますのね?」

  「そう言っている。嫉妬で義妹を虐めるような女が淑女であるわけがないだろ」

  「左様でございますか、では」

  くるりと踵を返して歩き始めたユリアーナに、アイザックが更に言葉を飛ばす

  「ユリアーナ、お前はアンナとアンナの母親を使用人扱いして、使用人部屋に追いやっているらしいが、然るべき扱いで、然るべき部屋をすぐに用意しろ。淑女として公爵令嬢として相応しい扱いだ。お前の部屋を譲っても良いかもしれないな。お前よりもアンナの方が余程相応しい部屋だからな」

  「やだぁ、アイザック様、私の為に嬉しい」

  背後から聞こえてくる不快な声に、何も反応することなく、無言で、優雅な足取りを乱す事無く、ユリアーナは去って行った
  

  

  
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢は限界です

まる
恋愛
「グラツィア・レピエトラ侯爵令嬢この場をもって婚約を破棄する!!」 何言ってんだこの馬鹿。 いけない。心の中とはいえ、常に淑女たるに相応しく物事を考え… 「貴女の様な傲慢な女は私に相応しくない!」 はい無理でーす! 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇 サラッと読み流して楽しんで頂けたなら幸いです。 ※物語の背景はふんわりです。 読んで下さった方、しおり、お気に入り登録本当にありがとうございました!

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

初めまして婚約者様

まる
恋愛
「まあ!貴方が私の婚約者でしたのね!」 緊迫する場での明るいのんびりとした声。 その言葉を聞いてある一点に非難の視線が集中する。 ○○○○○○○○○○ ※物語の背景はふんわりしています。スルッと読んでいただければ幸いです。 目を止めて読んで下さった方、お気に入り、しおりの登録ありがとう御座いました!少しでも楽しんで読んでいただけたなら幸いです(^人^)

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

婚約破棄されたので、隠していた聖女の力で聖樹を咲かせてみました

Megumi
恋愛
偽聖女と蔑まれ、婚約破棄されたイザベラ。 「お前は地味で、暗くて、何の取り柄もない」 元婚約者である王子はそう言い放った。 十年間、寡黙な令嬢を演じ続けた彼女。 その沈黙には、理由があった。 その夜、王都を照らす奇跡の光。 枯れた聖樹が満開に咲き誇り、人々は囁いた。 「真の聖女が目覚めた」と——

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

私知らないから!

mery
恋愛
いきなり子爵令嬢に殿下と婚約を解消するように詰め寄られる。 いやいや、私の権限では決められませんし、直接殿下に言って下さい。 あ、殿下のドス黒いオーラが見える…。 私、しーらないっ!!!

処理中です...