4 / 20
第4話 最悪な再会
しおりを挟む
ある日、メリルの姿は騎士団の詰め所にあった。
「悪かったね。メリル」
稽古場に現れたメリルに笑顔を向けるのは、彼女の兄クライスだ。クライスは、騎士の中でも精鋭が集まる近衛に属している。メリルに似て、なかなかの美丈夫だ。しかし纏う雰囲気は柔和で、目の前の妹を見つめる眼差しも柔らかく彼の性格を表している。
「お兄様の為ですから、これくらいお安い御用ですわ!」
彼女は兄の忘れ物を届けに、ここを訪ねていた。父から配達員を頼まれたメリルは「もう、お兄様ったら仕方ないわね」と口にするも、その表情は僅かに嬉しそうだった。
その時、兄弟の会話に他の声が混ざる。
「やっと出てきたな」
突然、会話に割り込むなど失礼な行いに、メリルが声のする方へ不快な色を映した眼差しを向けると、笑みを浮かべた一人の男が立っていた。
「突然、何ですか!礼儀をわきまえなさい!」
しかし、そんなメリルの咎める声にも笑みを崩さない男は、ゆっくりと歩いてくる。するとクライスが一歩下がり、深々と頭を下げた。兄の突然の行動に、メリルは目の前の男がどんな種類の人物か悟る。
(王族か・・でもこんな人いたかしら・・・あっ、確か子供の頃から色んな国に留学させられてた王子がつい最近戻ってきたって、エリーが言ってたわね)
メリルは確信を持てないままカーテシーをすると「大変失礼をいたしました」と謝罪する。しかし、そんなメリルの頭上に男の問いが降ってきた。
「何故、頭を下げる?君は私のことを思い出したのか?」
その質問にメリルの頭は、答えを求めてフル回転する。
(思い出した?前に会ってるってことね・・・誰よ。全く見覚えがないわ)
思い出せないメリルに男は「先日の夜会では、うまく逃げたな」とヒントを出す。するとメリルの頭に答えが浮かんだ。バッと顔を上げると、確かに、あの夜会でメリルにダンスを申し込んできた男だった。
「あの時は気分がすぐれず、重ね重ね大変なご無礼を・・」
「気分か?確か君はこう言ったぞ。“他のダンスなら構わない”と・・その言葉を実行してもらおうと、君の父親に打診すればはぐらかされるし、最終的にはクライスに命じたぞ」
男の言葉にメリルはクライスを見ると、彼は妹を騙したことにバツが悪そうにしている。そんなクライスを横目に楽しげに「私にここまでさせるのは、君が初めてだな」と男は言った。それにメリルは「何故、私に構うのですか?」と、素直な疑問をぶつける。
「まさか本当に忘れてるとはな・・」
男の自虐的なセリフにメリルは、彼の瞳の奥にある真意を探ろうと見つめる。しかし、そんなものは欠片も見えないメリルに、男は挑戦的な言葉を告げた。
「私に君が勝ったら、答えてやろう」
どう考えてもメリルの分が悪い勝負だ。いくら彼女が稽古をしているとはいえ、男のそれに敵うはずもない。しかし、性別を理由に挑まれた勝負から逃げ出すほど、メリルはヤワじゃなかった。余計なところで、負けん気の強さとツンデレのツンが顔を出す。
「仕方がありませんわね。そこまで仰っしゃるのでしたら、お相手するのもやぶさかではないですし、受けてたちますわ!」
妹の向こう見ずな発言に「メリル・・」とクライスは頭を抱え、男は余裕の笑みを浮かべる。そして簡易とはいえドレス姿の彼女のため「着替えを」という男の気遣いに、彼女は「問題ありません」と断った。全く令嬢らしくないそんなメリルに、男は満足そうにしている。そして手を横に出すと、すかさず近くにいた騎士がサーベルを手渡し、当然のようにメリルにもサーベルを差し出した。
お互いに武器を手にし向き合うと、メリルは凛とした声で名乗る。
「我、メリル・アーセンティアは、挑まれた勝負に正々堂々と臨むことをこの剣に誓う!」
そして相手も名乗るのをメリルは待っているが、当の男はその様子を嬉しそうに見つめるだけだ。そんな男の態度になめられていると感じたメリルが「騎士たるもの。勝負の前に名乗るのが、礼儀というもの!名乗りなさい!」と一喝した。クライスは妹の発言に、今にも倒れそうになっている。
しかし男は全く気にする様子もなく「君の口上が見事で、聞き惚れてしまったぞ」と笑う。そして、メリルの指摘に素直に応じた。
「我、オーランド・デュラハンは、メリル・アーセンティアとの勝負に、正々堂々と臨むことをこの剣に誓おう!」
(デュラハン・・・やっぱり王子だったか。ああ、やっちゃったわね、私・・・・でもアーセンティア家として、勝負を挑まれて逃げようなどと腰抜けに育てられた覚えはないわ!お兄様!恨むならお父様に文句を言いなさい!)
「悪かったね。メリル」
稽古場に現れたメリルに笑顔を向けるのは、彼女の兄クライスだ。クライスは、騎士の中でも精鋭が集まる近衛に属している。メリルに似て、なかなかの美丈夫だ。しかし纏う雰囲気は柔和で、目の前の妹を見つめる眼差しも柔らかく彼の性格を表している。
「お兄様の為ですから、これくらいお安い御用ですわ!」
彼女は兄の忘れ物を届けに、ここを訪ねていた。父から配達員を頼まれたメリルは「もう、お兄様ったら仕方ないわね」と口にするも、その表情は僅かに嬉しそうだった。
その時、兄弟の会話に他の声が混ざる。
「やっと出てきたな」
突然、会話に割り込むなど失礼な行いに、メリルが声のする方へ不快な色を映した眼差しを向けると、笑みを浮かべた一人の男が立っていた。
「突然、何ですか!礼儀をわきまえなさい!」
しかし、そんなメリルの咎める声にも笑みを崩さない男は、ゆっくりと歩いてくる。するとクライスが一歩下がり、深々と頭を下げた。兄の突然の行動に、メリルは目の前の男がどんな種類の人物か悟る。
(王族か・・でもこんな人いたかしら・・・あっ、確か子供の頃から色んな国に留学させられてた王子がつい最近戻ってきたって、エリーが言ってたわね)
メリルは確信を持てないままカーテシーをすると「大変失礼をいたしました」と謝罪する。しかし、そんなメリルの頭上に男の問いが降ってきた。
「何故、頭を下げる?君は私のことを思い出したのか?」
その質問にメリルの頭は、答えを求めてフル回転する。
(思い出した?前に会ってるってことね・・・誰よ。全く見覚えがないわ)
思い出せないメリルに男は「先日の夜会では、うまく逃げたな」とヒントを出す。するとメリルの頭に答えが浮かんだ。バッと顔を上げると、確かに、あの夜会でメリルにダンスを申し込んできた男だった。
「あの時は気分がすぐれず、重ね重ね大変なご無礼を・・」
「気分か?確か君はこう言ったぞ。“他のダンスなら構わない”と・・その言葉を実行してもらおうと、君の父親に打診すればはぐらかされるし、最終的にはクライスに命じたぞ」
男の言葉にメリルはクライスを見ると、彼は妹を騙したことにバツが悪そうにしている。そんなクライスを横目に楽しげに「私にここまでさせるのは、君が初めてだな」と男は言った。それにメリルは「何故、私に構うのですか?」と、素直な疑問をぶつける。
「まさか本当に忘れてるとはな・・」
男の自虐的なセリフにメリルは、彼の瞳の奥にある真意を探ろうと見つめる。しかし、そんなものは欠片も見えないメリルに、男は挑戦的な言葉を告げた。
「私に君が勝ったら、答えてやろう」
どう考えてもメリルの分が悪い勝負だ。いくら彼女が稽古をしているとはいえ、男のそれに敵うはずもない。しかし、性別を理由に挑まれた勝負から逃げ出すほど、メリルはヤワじゃなかった。余計なところで、負けん気の強さとツンデレのツンが顔を出す。
「仕方がありませんわね。そこまで仰っしゃるのでしたら、お相手するのもやぶさかではないですし、受けてたちますわ!」
妹の向こう見ずな発言に「メリル・・」とクライスは頭を抱え、男は余裕の笑みを浮かべる。そして簡易とはいえドレス姿の彼女のため「着替えを」という男の気遣いに、彼女は「問題ありません」と断った。全く令嬢らしくないそんなメリルに、男は満足そうにしている。そして手を横に出すと、すかさず近くにいた騎士がサーベルを手渡し、当然のようにメリルにもサーベルを差し出した。
お互いに武器を手にし向き合うと、メリルは凛とした声で名乗る。
「我、メリル・アーセンティアは、挑まれた勝負に正々堂々と臨むことをこの剣に誓う!」
そして相手も名乗るのをメリルは待っているが、当の男はその様子を嬉しそうに見つめるだけだ。そんな男の態度になめられていると感じたメリルが「騎士たるもの。勝負の前に名乗るのが、礼儀というもの!名乗りなさい!」と一喝した。クライスは妹の発言に、今にも倒れそうになっている。
しかし男は全く気にする様子もなく「君の口上が見事で、聞き惚れてしまったぞ」と笑う。そして、メリルの指摘に素直に応じた。
「我、オーランド・デュラハンは、メリル・アーセンティアとの勝負に、正々堂々と臨むことをこの剣に誓おう!」
(デュラハン・・・やっぱり王子だったか。ああ、やっちゃったわね、私・・・・でもアーセンティア家として、勝負を挑まれて逃げようなどと腰抜けに育てられた覚えはないわ!お兄様!恨むならお父様に文句を言いなさい!)
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
263
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる