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第8話 綺麗事を言うのは駄目ですか?
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次々と目の前で繰り広げられる剣技に魅了されているメリルは、競技が終わるたびに「はぁぁ・・やっぱり素敵ね」と幸せなため息をついた。
「君は、本当に好きなんだな」
突然オーランドからかけられた言葉に既視感を覚えるメリル。
『ルー、お前ほんとに剣を振るうのが好きなんだな』
以前、リーベルトから掛けられたセリフだ。あの時、自分の価値観を否定せず、共有してくれる存在に嬉しくなったのを思い出す。そして今また、貴族界では異質といえる価値観を肯定してくれる存在が隣にいることに、メリルの心に穏やかなさざ波が流れた。
メリルの心を溶かし始めたオーランドとの交流だったが、それは次の競技によって振り出しに戻る。
眼下に現れたのは、漆黒の鎧兜を身に着けた騎士と魔獣だった。黒い鎧兜を着用できるのは、魔法騎士だけだ。魔法騎士対魔獣という新たな競技が始まる。
「何よこれ・・」
「知らなかったのか?」
周りの観客たちは、熱狂が増し、上がる歓声は空気を震わせる。そして、その盛り上がりに後押しされ、競技が始まった。
それは最初から一方的なものだった。魔法騎士の剣は、何度も何度も獣の体を切り裂き、大地が赤く染まる。メリルは目の前の光景に耐えられず、目を背けた。
「命を見世物にするなんて、ひどいわ・・」
そう呟きにも似た声を上げると、席を立ち部屋を出て行こうとする。しかしそれは、やんわりと摑まれた手によって阻まれた。「離して」とメリルは言い、手を振りほどくと扉へ向かう。しかし今度は、力強く引き止められると、壁に背中を押し付けられた。メリルの見上げる眼差しは、冷ややかなオーランドの青い瞳に吸い込まれる。
「あのような殺生は、見るのも嫌か?あれは人間に害をもたらす生き物だぞ」
「分かってますわ。殺すなとは、言いません。ただあれを見世物にして、周りはそれを当然だと思い、熱狂するのはおかしいわ。狂ってるし、吐き気がします!」
メリルの主張にオーランドは「綺麗事だな」と返す。しかし、それでメリルが考え方を変えるはずもない。
「綺麗事で結構です。私の考えは、決して周囲と相容れないことを知ってるもの。だから何ですの?私は私。私の言葉も思考も誰のものでもないし、誰かのそれに染まることもないわ」
すると真っ直ぐに見上げるメリルの瞳に映るオーランド姿が、フッと笑いをこぼす。
「その性格じゃ、いろいろ苦労しただろ?」
(また同じセリフ・・何なのよ。同じことばかり言わないでよね)
「君の考え方は、この世界ではまだ先駆的すぎる」
オーランドの言葉に「同情ですか?そんなもの止めてください!」と強気なセリフを返す。するとオーランドは瞳に柔和な色を滲ませると、言葉を続けた。
「まあ聞け。先駆的だが、私も君の考え方には大いに頷ける」
「嘘です」
「なぜ嘘だと言う?」
「だって男の人がそんなこと言うなんて、おかしいもの。何か下心があるなら、白状してください」
「下心なんてあるはずが無かろう。それに何がおかしい?そこだけ何故男だ女だと決めてかかる?矛盾してるぞ。君の父親はどうだ?クライスはどうだ?君を否定してきたか?」
「お父様もお兄様も、そんな事しないし、言わないわ。アーセンティアの家にそんな遺物などいないもの」
そう返しながら、リーベルトの姿が頭に浮かぶ。
「だろう?なら、私の言葉が嘘だという言葉、取り消してもらおう」
「・・・・分かりました。悔しいけど、殿下のさっきの言葉が本当だと認めます。どうせ認めないと、この手を離してくれないんでしょう?」
そう問い掛けたメリルの視線の先には、彼女の腕と肩を力強く、しかし優しく押さえるオーランドの手があった。そしてオーランドはパッと両手を離すと、困ったような笑顔を浮かべる。
「君は、私の理性を隠してしまうようだな」
オーランドの言葉に「ちょっと、人のせいにしないでくださいよね」と軽く非難すると、「全くルトといい、いったい何なのよ」と呟いた。するとオーランドが「ルト?」と、食いつく。メリルが、“ルトは友人で、殿下と似てる”と教えると、オーランドは表情を変えた。
「ほお・・そんな友が居たとはな・・」
そう言葉を漏らしたオーランドは、メリルの手を優しく取ると、甲に口づけを落とした。唐突な彼の行動を呆気にとられ、見守るしかなかったメリル。その瞳にオーランドの口づけは、スローモーションのように映った。
そして我に返ったメリルが、捕らえられた手を離すと、彼女の動揺を表すかのようにその顔は真っ赤になった。
「突然何するんですか!」
「随分と新鮮な反応だな。こっちの方は発展途上か・・」
「なっ!発展途上って!・・・もう約束は果たしたでしょ!帰ります!!」
メリルはそんなセリフを残して、部屋を跡にする。そして、その後姿にオーランドの言葉が届いた。
「クックッ・・やはり手に入れたいものだ」
「君は、本当に好きなんだな」
突然オーランドからかけられた言葉に既視感を覚えるメリル。
『ルー、お前ほんとに剣を振るうのが好きなんだな』
以前、リーベルトから掛けられたセリフだ。あの時、自分の価値観を否定せず、共有してくれる存在に嬉しくなったのを思い出す。そして今また、貴族界では異質といえる価値観を肯定してくれる存在が隣にいることに、メリルの心に穏やかなさざ波が流れた。
メリルの心を溶かし始めたオーランドとの交流だったが、それは次の競技によって振り出しに戻る。
眼下に現れたのは、漆黒の鎧兜を身に着けた騎士と魔獣だった。黒い鎧兜を着用できるのは、魔法騎士だけだ。魔法騎士対魔獣という新たな競技が始まる。
「何よこれ・・」
「知らなかったのか?」
周りの観客たちは、熱狂が増し、上がる歓声は空気を震わせる。そして、その盛り上がりに後押しされ、競技が始まった。
それは最初から一方的なものだった。魔法騎士の剣は、何度も何度も獣の体を切り裂き、大地が赤く染まる。メリルは目の前の光景に耐えられず、目を背けた。
「命を見世物にするなんて、ひどいわ・・」
そう呟きにも似た声を上げると、席を立ち部屋を出て行こうとする。しかしそれは、やんわりと摑まれた手によって阻まれた。「離して」とメリルは言い、手を振りほどくと扉へ向かう。しかし今度は、力強く引き止められると、壁に背中を押し付けられた。メリルの見上げる眼差しは、冷ややかなオーランドの青い瞳に吸い込まれる。
「あのような殺生は、見るのも嫌か?あれは人間に害をもたらす生き物だぞ」
「分かってますわ。殺すなとは、言いません。ただあれを見世物にして、周りはそれを当然だと思い、熱狂するのはおかしいわ。狂ってるし、吐き気がします!」
メリルの主張にオーランドは「綺麗事だな」と返す。しかし、それでメリルが考え方を変えるはずもない。
「綺麗事で結構です。私の考えは、決して周囲と相容れないことを知ってるもの。だから何ですの?私は私。私の言葉も思考も誰のものでもないし、誰かのそれに染まることもないわ」
すると真っ直ぐに見上げるメリルの瞳に映るオーランド姿が、フッと笑いをこぼす。
「その性格じゃ、いろいろ苦労しただろ?」
(また同じセリフ・・何なのよ。同じことばかり言わないでよね)
「君の考え方は、この世界ではまだ先駆的すぎる」
オーランドの言葉に「同情ですか?そんなもの止めてください!」と強気なセリフを返す。するとオーランドは瞳に柔和な色を滲ませると、言葉を続けた。
「まあ聞け。先駆的だが、私も君の考え方には大いに頷ける」
「嘘です」
「なぜ嘘だと言う?」
「だって男の人がそんなこと言うなんて、おかしいもの。何か下心があるなら、白状してください」
「下心なんてあるはずが無かろう。それに何がおかしい?そこだけ何故男だ女だと決めてかかる?矛盾してるぞ。君の父親はどうだ?クライスはどうだ?君を否定してきたか?」
「お父様もお兄様も、そんな事しないし、言わないわ。アーセンティアの家にそんな遺物などいないもの」
そう返しながら、リーベルトの姿が頭に浮かぶ。
「だろう?なら、私の言葉が嘘だという言葉、取り消してもらおう」
「・・・・分かりました。悔しいけど、殿下のさっきの言葉が本当だと認めます。どうせ認めないと、この手を離してくれないんでしょう?」
そう問い掛けたメリルの視線の先には、彼女の腕と肩を力強く、しかし優しく押さえるオーランドの手があった。そしてオーランドはパッと両手を離すと、困ったような笑顔を浮かべる。
「君は、私の理性を隠してしまうようだな」
オーランドの言葉に「ちょっと、人のせいにしないでくださいよね」と軽く非難すると、「全くルトといい、いったい何なのよ」と呟いた。するとオーランドが「ルト?」と、食いつく。メリルが、“ルトは友人で、殿下と似てる”と教えると、オーランドは表情を変えた。
「ほお・・そんな友が居たとはな・・」
そう言葉を漏らしたオーランドは、メリルの手を優しく取ると、甲に口づけを落とした。唐突な彼の行動を呆気にとられ、見守るしかなかったメリル。その瞳にオーランドの口づけは、スローモーションのように映った。
そして我に返ったメリルが、捕らえられた手を離すと、彼女の動揺を表すかのようにその顔は真っ赤になった。
「突然何するんですか!」
「随分と新鮮な反応だな。こっちの方は発展途上か・・」
「なっ!発展途上って!・・・もう約束は果たしたでしょ!帰ります!!」
メリルはそんなセリフを残して、部屋を跡にする。そして、その後姿にオーランドの言葉が届いた。
「クックッ・・やはり手に入れたいものだ」
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