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第14話 崩れる幸せへの道

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「ねえ、あの方よね」

『だな』

「まあ、さすが王子様。見目麗しいお姿です。お嬢様にピッタリですよ」

「ちょっとエリー。貴女の目は節穴なの!?見るところが違うじゃない。隣に女性連れてるのが見えないの!?」

これは、マレフィクの王子を見たメリルたちの会話である。街を探し歩いて王子一行を見つけたが、メリルの言うとおり王子の横には女性の姿があった。しかも、王子はその美しい女性と手を繫ぎ、傍から見ても仲睦まじい様子だ。

すると、動揺するメリルたちの耳に王子一行を見つめる民の声が聞こえる。

「サーシャ様ステキだよなぁ。ご夫婦でこの奇跡の祭りを見に来られるなんて・・俺も早く奥さん見つけたいよ」

!!!!

思わず顔を見合わせるメリルたち。とりあえず、メリルは人のいない一角に移動すると、リーベルトを追求する。

「ちょっとルト!どういうことよ!
“ご夫婦”らしいわよ、あの二人。まさか私に愛妾あいしょうの道を勧めてたの!?」

『違うぞ!ゲームでは確かにリー・・未婚の王子がやって来るんだ。サーシャってのは、兄の婚約者だ』

「婚約者じゃなくて、もう結婚してるじゃない!しかも王子のお兄様!」

メリルが文句をたれるなか『アイツ、俺との約束反故ほごにしやがったな。許せねえ』と呟くリーベルト。

「何ゴチャゴチャ言ってるのよ!反故ほごにしたのは、ルトでしょ!この道がハッピールートだとか言ってたけど、私は愛妾あいしょうなんて死んでも嫌よ!」

『いや、違うんだ。詳しく話せないが、これにはちょっとした手違いが・・』

「話せないって何!大体、ルトはいつも情報が遅いのよ!」

『なっ!男の俺に細かい気遣いとか求めるなよ。俺だっていろいろあって、大変なんだぞ。ルーこそ、少しは公爵令嬢らしく・・・』

ここで言葉を止めたリーベルトにメリルが食らいつく。

「何よ。“公爵令嬢らしく”って何よ。言いたいことがあるなら、言いなさい。私は、この際だから言わせてもらうわ。最初から偉そうに“俺がハッピールートに導いてやる”とか言ってるけど、この国の王子ルートに入っちゃってるじゃないのよ!何が“まだ修正は可能だ”よ!あれだけ最高級チーズ食べておいて、ちゃんと働きなさいよ!私の時間を返しなさいよ!」

『おーおー、上等じゃねえか!剣ばかりやってるから、ダンスのひとつも踊れないんだよ!公爵令嬢とは思えねえな!こうなったら、教えといてやる!チーズばっかり食わすんじゃねえ!ネズミがみんなチーズ好きだと思ったら、大間違いだっての!』

メリルとリーベルトのこれまでにない口喧嘩にエリーは狼狽うろたえている。そして、きびすを返し二人を置いていくメリルを「お嬢様!」と引き止めようとするエリー。しかし「放っといて!そこのちっちゃなネズミと仲良くしてればいいのよ!」とメリルに当たられてしまい、困惑の表情を浮かべる。

『放っておけよ、エリー。あんなわからず屋だったとはな。ガッカリだぜ』

喧嘩別れする二人。そしてスタスタと離れて行くメリルだったが、途中で振り返ると、捨て台詞を投げつける。

「ルトなんていなくても、自分の幸せくらい自分で掴めるんだから、見てなさい!後で吠え面かいたって知らないから!」

しかしリーベルトは『俺はネズミだから、吠えないんだよ』と呟くが、エリーの鞄にひっ込んだまま、無視を決め込んだようだった。リーベルトからの反論すら返ってこないメリルはギュッと唇を噛みしめると、フンッと仏頂面ぶっちょうづらで行ってしまった。

リーベルトと残されたエリーは、不安そうにしている。

「ルト様、やはり心配です。追いかけてもよろしいでしょうか。もし何かあったら・・」

エリーの言葉にリーベルトは鞄から頭の先だけ見せ、返事をする。

『エリー、放っておけ。少しお互いに頭を冷やしたほうがいいだろ。それにルーは強いからな。アイツの剣さばきは、なかなかなもんだぞ。そのうち、帰ってくるさ』

リーベルトの答えにもエリーの胸には、不安という名の霧のようなモヤモヤがかかったまま晴れることはなかった。

そして一人街をズンズンと進むメリルは、いつの間にか街外れまで進んでいた。日暮れまで近いこともあり、祭りの会場の方へ歩く人の流れがあった。

月祭りというのは、湖の湖畔にある岩に開いた丸い穴を通して湖面に満月が映るのを、鑑賞するのだ。風が強ければ、湖面が波立ち映らないというように、満月がピッタリ穴を通して湖面に映るのは、条件が揃う数年に一度なのだ。それ故、“一緒に見た人と幸せになれる”とか言われていた。

メリルはせっかく来たんだから、祭りのメインイベントを見ようと、会場へ向かう人の波に乗った。老若男女、いろんな人々が期待に胸を躍らせ、歩いている。“きっと喧嘩別れしたばかりの人間など、ここにはいないだろう”と寂しさを抱えながら、メリルは歩いていた。そして、そんなメリルの跡をつける影があることに、彼女はまだ気付いていなかった。
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