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第15話 襲いかかる困難は自ら排除します
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「メリル・アーセンティア様でしょうか?」
知らない声で呼びかけられたが、メリルは当然振り返ることはない。
(誰よ。ここで振り向いたら、”そうだ“って言ってるようなもんじゃない。そんな単純じゃなくてよ)
知らぬ顔で歩くが、さらに声をかけられる。
「剣の手合わせを拝見してから、ファンなんです!アーセンティア様でありませんか?」
この言葉を聞いたメリルの足が止まり、後ろを振り返ったその顔には笑みが浮かんでいる。そしてその視線の先には、メリルより少し若いであろう男女が立っていた。
会場に向かう人の流れから抜け出したメリルに、女があっという間に近付く。そしてメリルの腕に自分の腕を絡ませると「お会いしたかったんですよ」と笑みを向けた。いきなり腕を絡ませてきた馴れ馴れしい女に、メリルはあっという間に人気のない裏通りへと連れて行かれる。普通なら何をされるのかと身構えるところだが、腕に覚えのあるメリルは、全くそんな様子がない。
「これでゆっくりとお話できますね」
「突然のご無礼大変申し訳ありませんでした」
男のその言葉を合図に、メリルの周囲にはわらわらと明らかにゴロツキと言われる風貌の男たちが姿を見せた。ベタな展開にメリルは内心ため息をつく。
(私、恨まれるようなことした覚えないけど・・人付き合いなんて皆無だし・・・)
とっとと終らせたいメリルは「私に用があるのは、誰?」と単刀直入に聞く。すると絡ませた腕を離し、男の横に並んだ女が「私たちも命令された身でございます」と悲しげな笑みを浮かべる。
「決してアーセンティア様に私怨があるわけではありませんが、仕方がないのです」
男がそう口にすると、ゴロツキたちが手にした武器で襲いかかる。大柄な男たちは、メリル相手に力だけは強いのだろうが、その分動きが遅い。降りかかる剣や斧をかわしながら一瞬でその強さを判断したメリルは「知ってる?私はいま機嫌が悪いのよ」と告げると、素早い動きで一人の男の足を引っ掛ける。そして、バランスを崩した男からあっという間に剣を奪う。
(あっ、やっぱりちょっと重いわね)
いつも愛用しているサーベルより太く無骨な剣は、女性が振り回すには重かった。しかしメリルには、そんなこと関係ない。
(両手で振ったら、無駄が多いわ。それなら・・)
低い位置で構えたそれを身体の回転を利用して振り回す。狙いは足だ。襲いかかる刃をかわし、次々と斬りつける。しかし足を切るだけでは、敵は何度も立ち上がり襲いかかる。それでも殺すつもりのないメリルは、ひたすら足を狙った。やがて周囲には、痛みに顔を歪めた男たちが転がった。
(弱い・・どうせ女ひとりだと、侮った結果だろうけど、納得いかないわね。もっと手応えのある人はいないの?)
襲われたことより、敵が弱いことへの不満が渦巻くメリルは、こんなくだらない茶番を終わらせることにした。ひとりの公爵令嬢があっという間にこれだけの男たちを片付けてしまった光景に、身体を寄せ身を縮こまる男と女に尋ねる。
「あなた達の後ろには黒幕がいるのでしょう?誰なの?このメリル・アーセンティアにケンカを売ろうっていうのだから、それなりに大物よね?素直に教えれば、あなた達のことは許してやってもいいのよ」
剣を地面に突き、悠然と微笑むメリルの姿は、迫力があった。そしてカタカタと震えだした女が口を開く。
「ケイシー様です!サーヴァリ伯爵家の!」
半ば叫ぶようなそのセリフに、メリルは首を傾げる。
「サーヴァリ伯爵?誰よそれ・・聞いたこともないわよ・・・」
このメリルの素直な言葉は、隠れていた黒幕のプライドを傷つけるのに充分だった。
「偉そうに!この脳筋が!」
失礼極まりないセリフが叫ばれ、声のする方へ視線を向けると、怒りで顔を真っ赤にした女がメリルを睨みつけていた。顔は美しいが、派手なドレスに身を包み、纏う雰囲気は嫉妬、醜悪、驕りがごちゃまぜで、伯爵令嬢などとは名ばかりの貴族の気品など欠片も見られない。
「あら、褒め言葉をありがとう」
「!!!アーハハハハッ!褒め言葉ですって!?やっぱり暇されあれば“剣だ”“手合わせ”だと、馬鹿の一つ覚えみたいに言ってるアンタ、馬鹿ね!」
ケイシーの煽り文句にも微動だにしないメリルは、本音をぶちまける。
「強くなりたいと思って、何が悪いのよ。全く理解できないわ。女は男に守ってもらうのが当たり前だと、誰が決めたのよ。私を守れるほど、強い男もそうそういないのに・・・貴女、私に嫉妬してるの?どう見ても自分の美しさに縋るしか能がなさそうだものね」
「!!そっ!そんなだから社交界から爪弾きにされるのよ!なのに・・なのに何なのよ!殿下と仲良くデートなんかして!殿下は、ちょっと珍味をつまみ食いしたくなっただけなの!アンタなんかすぐに興味なくされるんだから!」
「別に私が望んで連れ出されたと思ってるなら、貴女本当に救いようのない馬鹿ね。私が妃を狙ってるとでも思ったの?全く興味ないんだけど・・そもそも誰とも結婚なんてしなくても構わないと思ってるのよ」
爪弾きとか珍味とか失礼すぎるワードが並ぶが、それがメリルの逆鱗に触れることはなかった。
そこに、この場には相応しくない堂々たる声が聞こえてくる。
『俺のルーをお前なんかと一緒にするな!』
「結婚しないくてもいいなどと、私の前で言うな」
知らない声で呼びかけられたが、メリルは当然振り返ることはない。
(誰よ。ここで振り向いたら、”そうだ“って言ってるようなもんじゃない。そんな単純じゃなくてよ)
知らぬ顔で歩くが、さらに声をかけられる。
「剣の手合わせを拝見してから、ファンなんです!アーセンティア様でありませんか?」
この言葉を聞いたメリルの足が止まり、後ろを振り返ったその顔には笑みが浮かんでいる。そしてその視線の先には、メリルより少し若いであろう男女が立っていた。
会場に向かう人の流れから抜け出したメリルに、女があっという間に近付く。そしてメリルの腕に自分の腕を絡ませると「お会いしたかったんですよ」と笑みを向けた。いきなり腕を絡ませてきた馴れ馴れしい女に、メリルはあっという間に人気のない裏通りへと連れて行かれる。普通なら何をされるのかと身構えるところだが、腕に覚えのあるメリルは、全くそんな様子がない。
「これでゆっくりとお話できますね」
「突然のご無礼大変申し訳ありませんでした」
男のその言葉を合図に、メリルの周囲にはわらわらと明らかにゴロツキと言われる風貌の男たちが姿を見せた。ベタな展開にメリルは内心ため息をつく。
(私、恨まれるようなことした覚えないけど・・人付き合いなんて皆無だし・・・)
とっとと終らせたいメリルは「私に用があるのは、誰?」と単刀直入に聞く。すると絡ませた腕を離し、男の横に並んだ女が「私たちも命令された身でございます」と悲しげな笑みを浮かべる。
「決してアーセンティア様に私怨があるわけではありませんが、仕方がないのです」
男がそう口にすると、ゴロツキたちが手にした武器で襲いかかる。大柄な男たちは、メリル相手に力だけは強いのだろうが、その分動きが遅い。降りかかる剣や斧をかわしながら一瞬でその強さを判断したメリルは「知ってる?私はいま機嫌が悪いのよ」と告げると、素早い動きで一人の男の足を引っ掛ける。そして、バランスを崩した男からあっという間に剣を奪う。
(あっ、やっぱりちょっと重いわね)
いつも愛用しているサーベルより太く無骨な剣は、女性が振り回すには重かった。しかしメリルには、そんなこと関係ない。
(両手で振ったら、無駄が多いわ。それなら・・)
低い位置で構えたそれを身体の回転を利用して振り回す。狙いは足だ。襲いかかる刃をかわし、次々と斬りつける。しかし足を切るだけでは、敵は何度も立ち上がり襲いかかる。それでも殺すつもりのないメリルは、ひたすら足を狙った。やがて周囲には、痛みに顔を歪めた男たちが転がった。
(弱い・・どうせ女ひとりだと、侮った結果だろうけど、納得いかないわね。もっと手応えのある人はいないの?)
襲われたことより、敵が弱いことへの不満が渦巻くメリルは、こんなくだらない茶番を終わらせることにした。ひとりの公爵令嬢があっという間にこれだけの男たちを片付けてしまった光景に、身体を寄せ身を縮こまる男と女に尋ねる。
「あなた達の後ろには黒幕がいるのでしょう?誰なの?このメリル・アーセンティアにケンカを売ろうっていうのだから、それなりに大物よね?素直に教えれば、あなた達のことは許してやってもいいのよ」
剣を地面に突き、悠然と微笑むメリルの姿は、迫力があった。そしてカタカタと震えだした女が口を開く。
「ケイシー様です!サーヴァリ伯爵家の!」
半ば叫ぶようなそのセリフに、メリルは首を傾げる。
「サーヴァリ伯爵?誰よそれ・・聞いたこともないわよ・・・」
このメリルの素直な言葉は、隠れていた黒幕のプライドを傷つけるのに充分だった。
「偉そうに!この脳筋が!」
失礼極まりないセリフが叫ばれ、声のする方へ視線を向けると、怒りで顔を真っ赤にした女がメリルを睨みつけていた。顔は美しいが、派手なドレスに身を包み、纏う雰囲気は嫉妬、醜悪、驕りがごちゃまぜで、伯爵令嬢などとは名ばかりの貴族の気品など欠片も見られない。
「あら、褒め言葉をありがとう」
「!!!アーハハハハッ!褒め言葉ですって!?やっぱり暇されあれば“剣だ”“手合わせ”だと、馬鹿の一つ覚えみたいに言ってるアンタ、馬鹿ね!」
ケイシーの煽り文句にも微動だにしないメリルは、本音をぶちまける。
「強くなりたいと思って、何が悪いのよ。全く理解できないわ。女は男に守ってもらうのが当たり前だと、誰が決めたのよ。私を守れるほど、強い男もそうそういないのに・・・貴女、私に嫉妬してるの?どう見ても自分の美しさに縋るしか能がなさそうだものね」
「!!そっ!そんなだから社交界から爪弾きにされるのよ!なのに・・なのに何なのよ!殿下と仲良くデートなんかして!殿下は、ちょっと珍味をつまみ食いしたくなっただけなの!アンタなんかすぐに興味なくされるんだから!」
「別に私が望んで連れ出されたと思ってるなら、貴女本当に救いようのない馬鹿ね。私が妃を狙ってるとでも思ったの?全く興味ないんだけど・・そもそも誰とも結婚なんてしなくても構わないと思ってるのよ」
爪弾きとか珍味とか失礼すぎるワードが並ぶが、それがメリルの逆鱗に触れることはなかった。
そこに、この場には相応しくない堂々たる声が聞こえてくる。
『俺のルーをお前なんかと一緒にするな!』
「結婚しないくてもいいなどと、私の前で言うな」
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