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第2章

第61話 リリス13歳 魔女の告白

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「そもそもここに店を開いたのに、大した理由はないんだよ。アルバスの言ったとおり、シュトリーマを出たあたしは色んな国を旅したね。あの時はどこかに落ち着こうなんてこれっぽっちも思ってなかったからね。着の身着のままの旅が性に合ってたのさ。
でもこの国に来て、何だかこの街を気に入ってね。この国は落ち着いているし、人々の表情は穏やかでいい。
他の国はやれ権力争いだの戦争だなんだと落ち着かない国ばかりだからね。そんな国に魔女であるあたしが腰を落ち着けてみなっ。巻き込まれるのが関の山だろ?」

アルミーダはここまで一気に話すと、首を左右に折り、ポキポキと鳴らした。

「それから・・店を開いた理由だったね。この国で幸せを振りまいてみるのも面白いと思ったからさ・・・おや、訳のわからない顔をしてるね」

(幸せを振りまく?幸せって、そんな都合よく振りまけるものなの?できる魔女ってのは、考えも高尚なのかなぁ)

リリスたちが不思議そうな顔をしてるのに気付いたアルミーダは"はぁー"と息を吐く。

「言葉通りだよ。察しがついてると思うが、この店のキャンディーにはすべて魔力を込めてある。ぱっと見は分からないが、魔法に才のある者が見れば気付く程度の僅かな魔力がね。その魔力によって、食べた人には小さな幸せが訪れるようにしたんだよ。
あたしが気に入ったこの街の人達をもっと幸せにしてやろうじゃないかと思った・・魔女のただの気まぐれだ」

(なるほどね。だからこの店のあの噂が広まったのね。良いことが起きるとか恋愛が成就するとか。まあ、噂じゃなくて真実だけど)

ここまでの話を理解すると、リリスはアルミーダから貰ったキャンディーについて質問した。

「ここまでは分かりました。それでは私の質問にも答えてください。
アルミーダさんから貰ったこのキャンディーで私だけ悪夢を見ました。それは何故ですか?
それにアルミーダさんはこのキャンディーを何故私にくれたんですか?以前のアルミーダさんの口ぶりから特定の人にだけ渡してるようでした」

「いいだろう。まず何故あんたにキャンディーを渡したか・・それはあんたの魂が面白いと思ったからだ。面白いやつは嫌いじゃないからね」

(魂が面白いって・・また訳の分からない事をシレっと言って・・凡人はすぐに理解できないんだから、もう少しこう詳しく説明をしてくれないと・・)

「えっと、それはどういう意味で・・・」

リリスが口を挟もうとしたのを、アルミーダはしーっと人差し指を自分の唇に当て制止した。

「途中で口を挟むなと言っただろっ。せっかちはいただけないね。えーっと、何だったかね。ほら、余計な口を挟むから忘れちまったじゃないか・・
あー、そうだ、あんたの魂が面白いって話だったね。あんたの魂は二重に見えるんだよ。そう二重だ。そんな魂を見たのは初めてだったからね。だからキャンディーをあげた。ただそれだけ・・そうさね、親愛の証ってところかね。
それから何故夢見のキャンディーで、あんたが悪夢を見たのか・・・それはあたしにも分からんよ」

(魂が二重に見える?そもそも魂って見えるものなの?・・・あっ、霊媒師的なこともできるとかっ?!そう聞くと霊媒師にも見えてき・・いやいや、そんなことよりあんなキャンディー作っておいて、悪夢を見た理由も分からないとか本当にすごい魔女なの?)

リリスの残念そうな表情にアルミーダは肩をすくめて続けた。

「仕方ないじゃないか。魔女なんてのはただ魔法が他より上手いだけ。天眼を持ってるわけでもなけりゃあ、全知全能の神でもないからね。
理想の回答を期待してたところ悪かったね。でもこれが現実だ。
答えはこれからの未来、あんたが知る時が来るかもしれないし、また来ないかもしれない。それはまさに神のみぞ知るだ・・・ただ・・・あたしの推測では、あんたのその変わった魂・・・もしくはあんたに懐いてる・・そこの・・ほれ、そいつの影響かもしれないね」

アルミーダはそう言うと、リリスたちの後ろに向けて指を指した。それにつられて、リリスたちは後ろを振り返る。しかしそこにあるのは、棚に置かれたいろんな道具と太陽の日差しが射し込む窓だけだった。

(ええと、なにも居ないよねぇ。やっぱりこのお婆さん、霊媒師的な能力で霊が見えるとか?いやぁ、もしも霊だったら、懐かれてもありがた迷惑っていうか・・守護霊ならまあいいかもしれないけど)

リリスたちはお互いに顔を見合わせる。そしてお互い目線で何か見えるか確認したが、誰一人それに答える者はいなかった。

「あの・・アルミーダさん。僕たちにはただの道具が置かれた棚しか見えないんですが・・」

ヘンリーが正直に訊ねる。それにアルミーダではなくアルバスが答えた。

「君たちには、まだ姿が見えないからね。仕方ないね」

そう言うとアルバスは変な言葉を突然喋り出した。

「ウニャウニャ・・・フーッ・・ウーニャ・・」

リリスたちはアルバスの豹変に目が点になった。

(せっ、先生・・一体どうしちゃったんですか?)
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