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アフターストーリー
アフターストーリー第5話 皇弟バロン
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「叔父上・・・」
マリオンが眉間に手を当て、悩ましげにしている。そして、そんな彼とは対象的に瞳をキラキラさせたエルメがニコニコと満面の笑みを浮かべていた。
「何故、喜ばんのだ?せっかく祝いに持ってきてやったのだ」
「だからいらないと、申し上げたはずですが・・」
「人の好意を無駄にするでない。触ってみろ。お前も触れば、気が変わる」
マリオンとこんな会話を繰り広げているのは、バロンだ。バロンは皇帝であるダリオンの弟だが、前皇帝の遅くできた子であった為、年齢はダリオンよりマリオンの方が近い。その為、マリオンとの関係は兄弟のようだった。
エルメは結婚式の時に少し話した程度で、彼のことをよく知らなかった。見た目はどちらかと言うと、兄のダリオンより甥のマリオンの方が似ている。マリオンもバロンも前皇帝に似ているのだろう。そして、その口ぶりもそっくりだった。
(好意のごり押し・・ここにも俺様がいた・・この会話に巻き込まれたら、超絶面倒くさそうだわぁ)
そしてエルメは静かに後ずさり、足元の小さな影を抱き上げた。ソファーに腰を落ち着け、その小さな影を優しく撫でる。
(はうぅぅぅ・・ちょ~気持ちいい。最高ぉぉ)
そして、至福の時を堪能しているエルメの耳に「とにかく試してみろ。五日間のお試しだ」とバロンの声が届き、見ると既に彼の姿はなかった。
「全く・・叔父上は、何故こうも強引なのだ」
マリオンが文句を口にしながら、エルメの横に座る。
「強引なのは、お互いさまでしょ?」
「何を言う!?叔父上ほど、私は強引ではない!」
マリオンのセリフに僅かに目を見開き「あっ、一応、強引だって自覚はあるんだ」と茶化すエルメは、膝の上の塊を相変わらず撫でている。
「いい加減、下ろせ」
「えー、気持ちいいよ。マリオンも触ってみなよ」
エルメの誘いをマリオンは「いらん」という一言で断る。その目には、面倒くさそうな感情を隠すことなく見せている。
「大体、聖獣などに全く魅力を感じぬ」
そう!マリオンの言葉の通りいまエルメの膝の上で癒やしを与えているのは、聖獣だ。丸いその茶色い塊は、目を閉じ、耳を倒し、まさにモフモフの毛玉と化している。
「それに癒やし?そんなものは君だけで十分だ。そして気持ちいいのも、君の肌だけで十分だ」
マリオンの甘々な発言に「もう、またそんなこと言って、この子の前だよ」と頬を染める。それにマリオンは「聖獣に言葉など分かるか」と返すと、強引に毛玉を下ろし、慣れた手つきでエルメを膝に乗せた。
「ヤツがいては、こう出来ないではないか」
そう言って、エルメの腰に回す手にグッと力を入れ、赤く染まった頬を愛おしそうに手で包むと、唇を重ねた。それはやがて欲情の赴くまま、深く長くなる。そして、そのままソファーに彼女の身体を横たえようとしたその時、毛玉がエルメの膝の上に軽々とジャンプし、二人の邪魔をした。絶妙なタイミングだ。
「あー、くそっ・・・邪魔だ、どけ」
「ちょっとそんな言い方、ダメだよ」
氷点下の眼差しを聖獣相手に送り「どうせ言葉など分からん」と吐き捨てるマリオンは、エルメの咎めるような視線にハァ~と大げさなため息をつくと、言った。
「だから嫌だと言ったんだ。君との時間を、邪魔されたくないからな・・・よし!明日、返しに行くぞ・・・・あー、いや!今から行くぞ」
マリオンの言葉にエルメは当然抗議の声を上げる。
「えー!嫌だぁ!せっかくバロン様が結婚祝いにって、贈ってくれたのに」
エルメのお願いにも「ダメだ」と一刀両断するマリオン。こうなると何を言っても無駄なことを、エルメは分かっていた。もしこの場で上手く丸め込んでも、結局最後はマリオンの思い通りの結果におさまるのだ。なので、エルメは無駄な抵抗はやめ、ささやかな願いを口にする。
「それじゃあ、今日一日だけ、この子と一緒に居させて?返すのは明日!」
それに何か言おうと口を開いたマリオンだったが、閉じると小さく息を吐き、言った。
「分かった。明日まで待ってやる」
「本当!?ありがとう!!もう・・だからマリオンのこと大好きっ!!」
エルメは太陽のような笑顔を向け感謝の言葉を口にすると、膝の上の毛玉に視線を落とし「良かったね。一日だけど、一緒に居られるね。毛玉ちゃん」と優しく語りかけた。
マリオンが眉間に手を当て、悩ましげにしている。そして、そんな彼とは対象的に瞳をキラキラさせたエルメがニコニコと満面の笑みを浮かべていた。
「何故、喜ばんのだ?せっかく祝いに持ってきてやったのだ」
「だからいらないと、申し上げたはずですが・・」
「人の好意を無駄にするでない。触ってみろ。お前も触れば、気が変わる」
マリオンとこんな会話を繰り広げているのは、バロンだ。バロンは皇帝であるダリオンの弟だが、前皇帝の遅くできた子であった為、年齢はダリオンよりマリオンの方が近い。その為、マリオンとの関係は兄弟のようだった。
エルメは結婚式の時に少し話した程度で、彼のことをよく知らなかった。見た目はどちらかと言うと、兄のダリオンより甥のマリオンの方が似ている。マリオンもバロンも前皇帝に似ているのだろう。そして、その口ぶりもそっくりだった。
(好意のごり押し・・ここにも俺様がいた・・この会話に巻き込まれたら、超絶面倒くさそうだわぁ)
そしてエルメは静かに後ずさり、足元の小さな影を抱き上げた。ソファーに腰を落ち着け、その小さな影を優しく撫でる。
(はうぅぅぅ・・ちょ~気持ちいい。最高ぉぉ)
そして、至福の時を堪能しているエルメの耳に「とにかく試してみろ。五日間のお試しだ」とバロンの声が届き、見ると既に彼の姿はなかった。
「全く・・叔父上は、何故こうも強引なのだ」
マリオンが文句を口にしながら、エルメの横に座る。
「強引なのは、お互いさまでしょ?」
「何を言う!?叔父上ほど、私は強引ではない!」
マリオンのセリフに僅かに目を見開き「あっ、一応、強引だって自覚はあるんだ」と茶化すエルメは、膝の上の塊を相変わらず撫でている。
「いい加減、下ろせ」
「えー、気持ちいいよ。マリオンも触ってみなよ」
エルメの誘いをマリオンは「いらん」という一言で断る。その目には、面倒くさそうな感情を隠すことなく見せている。
「大体、聖獣などに全く魅力を感じぬ」
そう!マリオンの言葉の通りいまエルメの膝の上で癒やしを与えているのは、聖獣だ。丸いその茶色い塊は、目を閉じ、耳を倒し、まさにモフモフの毛玉と化している。
「それに癒やし?そんなものは君だけで十分だ。そして気持ちいいのも、君の肌だけで十分だ」
マリオンの甘々な発言に「もう、またそんなこと言って、この子の前だよ」と頬を染める。それにマリオンは「聖獣に言葉など分かるか」と返すと、強引に毛玉を下ろし、慣れた手つきでエルメを膝に乗せた。
「ヤツがいては、こう出来ないではないか」
そう言って、エルメの腰に回す手にグッと力を入れ、赤く染まった頬を愛おしそうに手で包むと、唇を重ねた。それはやがて欲情の赴くまま、深く長くなる。そして、そのままソファーに彼女の身体を横たえようとしたその時、毛玉がエルメの膝の上に軽々とジャンプし、二人の邪魔をした。絶妙なタイミングだ。
「あー、くそっ・・・邪魔だ、どけ」
「ちょっとそんな言い方、ダメだよ」
氷点下の眼差しを聖獣相手に送り「どうせ言葉など分からん」と吐き捨てるマリオンは、エルメの咎めるような視線にハァ~と大げさなため息をつくと、言った。
「だから嫌だと言ったんだ。君との時間を、邪魔されたくないからな・・・よし!明日、返しに行くぞ・・・・あー、いや!今から行くぞ」
マリオンの言葉にエルメは当然抗議の声を上げる。
「えー!嫌だぁ!せっかくバロン様が結婚祝いにって、贈ってくれたのに」
エルメのお願いにも「ダメだ」と一刀両断するマリオン。こうなると何を言っても無駄なことを、エルメは分かっていた。もしこの場で上手く丸め込んでも、結局最後はマリオンの思い通りの結果におさまるのだ。なので、エルメは無駄な抵抗はやめ、ささやかな願いを口にする。
「それじゃあ、今日一日だけ、この子と一緒に居させて?返すのは明日!」
それに何か言おうと口を開いたマリオンだったが、閉じると小さく息を吐き、言った。
「分かった。明日まで待ってやる」
「本当!?ありがとう!!もう・・だからマリオンのこと大好きっ!!」
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