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魔法省で臨時メイドになりました

顔面にアイアンクローは痛い

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「リリー殿が気になったのは、その部分でしたか」
「ええ……さきほど、少々過去を思い出させるような問いかけをジェイドにしてしまって。大丈夫だと笑うけれど、本当に傷ついていないかはわからないでしょう? いくら魔法使いだと言っても、九歳の子供であることに変わりはない。レオナール様だって、表情を見せてくれるようになったのは最近だと言います、だから」
「大丈夫です」

言い募る私に優しく笑って、ルーカスさんが言いきる。

「確かに心が傷ついていないと言いません。でも、忘れましたか? ジェイドは黒髪で、あの子の心に反応して動くまだ幼い精霊と魂が繋がっていることを。ユトは、普通にしているでしょう?」
「あ……」
「ジェイドだけじゃありません。ジルとリオンも元気にいきいきしていますし、レオナール殿だってシド殿が妙に気を張っていることが少なくなりました。だから、大丈夫です」

大丈夫、なんだ。今は大丈夫。
でも、一度傷つけられてしまった傷は? ちゃんと治ってるの?

「私……ワガママなので。大事な人たちが悲しんだり苦しんだりするのは、嫌なんです」
「そうして心を砕いてくれているのが嬉しいから、前に向かって進めるんですよ。ね、レオナール殿」
「ん」

隣に座っていたレオナール様が私の肩を抱き寄せる。

「ジルも僕も。リリーの気持ちがわかってるから、過去に囚われないでいられる。傷ついていたとしても、それは過去だって言い切れる。ジェイドもそうだと思うし、ロードスたちが可愛がっているからきっとそっちでも癒えていく……大丈夫だよ」
「レオナール様……」
「僕はね、誰に何を言われても気にならない。でも、リリーがいなくなったらって思うと、すごく苦しくて辛い。考えるだけで涙が出てきそうになる。だから、いなくならないで」

金色の瞳に見つめられてそんなことを言われて、頭が真っ白になる。
呆然と見つめ返していたら、額にそっとキスされた。

「僕のリリー、返事は?」
「そ、んなの。決まってます」
「ん、でも、聞きたい」

蕩けるような笑みで、言ってだなんて。こんなの、卑怯だ。
心臓が鷲掴みにされたようで、身体中に甘い痛みが走る。

「傍にいさせてください……傍にいてほしい」
「いる。ずっと、一緒にいるよ」

もう一度やわらかなキスを額にしたレオナール様に私も微笑んだら、重たいため息が聞こえてきた。

「あんたたち、いちゃつくなら家でやりなさい。ルーちゃんもなに笑って見てるのよ」

我に返って恐る恐る視線を向ければ、呆れた顔のヴィオラさんと微笑むルーカスさんがいる。

「いえ……微笑ましいなと。レオナール殿もですが、何よりリリー殿がそんなに弱い部分を見せているのが新鮮ですね。前はそこまで見せてくれなかったでしょう? 少々悔しいような気もしますが、いいことですよね」
「悔しいって、ルーちゃんってもしかして……」

あ、ヴィオラさん顔面掴まれた。

「いやあああ、痛い痛い痛い!」
「下世話な想像しないでいただけますか?」
「だってえええええ痛いいいいいい」
「確かにリリー殿は魅力的な女性ですよ。気配り上手で家事も仕事も出来て、可愛らしいですし一緒にいて気が楽です。ただ、私はリリー殿に対して好意はあっても恋愛感情は持っていません」

ヴィオラさんから手を離さないまま、ルーカスさんは私に微笑みかける。

「私たちは友達ですからね」
「ルーカスさん」
「嬉しかったですよ、リリー殿に友人として紹介していただけて。だからこそ、悔しい部分もあります。友人なんですから、少しは頼って弱音を吐いたりしてください、ね?」

優しい言葉に心が温かくなるけど、状況が状況だからいまいち感動に浸りきれない。
あの、そろそろヴィオラさん離してあげていただけませんか。

「リリーが頼るのは、僕だけでいいのに」

そしてそこで独占欲出さないでレオナール様。ほら、ルーカスさんが大笑いしてる。

「ふ、ふふっ。本当に愛されてますね」
「う、えっと」

照れてうまく言葉を返せないでいたら、くすくすと笑うルーカスさんがヴィオラさんから手を離す。
あ、顔赤くなってる……どれだけ力入れてたんだろう、握力怖い。

「ねえ、ルーカス」
「はい、なんでしょう?」
「愛されているってなに?」

ヴィオラさん大丈夫かな、なんて思っていたら、耳に飛び込んできた言葉に顔を上げる。
そこにはぽかんと口を開けるルーカスさんとヴィオラさんがこっち、というかレオナール様を見つめているのが見えて……うん、わかるよ。今私も耳を疑ったもの。
でもあの、私からは絶対説明出来ないことなので、ルーカスさん頑張ってね!
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