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竜神教会
12.勇者と聖女の未来(1)
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呼ばれる理由が今朝のことしか思い浮かばなかったので、サフィアは珍しく重い足取りで大司教室を訪れた。扉をノックすれば、部屋の主の返事がある。
「入りなさい」
「失礼いたします」
扉を開けて中に入ると、執務机に向かっていた大司教が立ち上がり、ソファを指した。
「そちらにどうぞ」
「ありがとうございます」
サフィアがソファに座ると、大司教が向かいに座った。
「まだ十六時だというのに、もう真っ暗ですね。眠れなくなるといけないので、水にさせていただきます」
「ありがとうございます。いただきます」
大司教が話しながら、水差しの水をグラスに注いでサフィアの前に置いてくれた。一口飲んでから窓の外を見ると、大司教が言ったようにもう真っ暗で、空には星が瞬いている。闇竜の成長とともに、世界の夜が長くなっているのだ。サフィアたちが旅立つ頃には、十五時ほどで夜になってしまうだろう。
このまま闇竜を放置すれば、竜神伝説で世界の夜がなくなったのとは逆で、昼がなくなってしまう。けれど闇竜を無闇に倒せば、この世界から闇竜がいなくなり、それこそ伝説のとおり夜がなくなってしまう。あくまで、闇竜が次の卵を産んだあとに倒さなければならない。それが、勇者と聖女が成人する――十八歳の時なのだ。
大司教も水を何口か飲んで、グラスをテーブルに置いた。そして、口を開く。
「聖女様。わたくしは、勇者様が見つかって良かったと心から思っています。本来、勇者と聖女は共に幼い頃から教会を訪れ、兄弟姉妹のように過ごし、成長するものです。その相手が、あなた様にはずっといなかった。わたくしもそれは気にしていましたから、勇者様が見つかって、紋章の宿命を共に背負う相手ができて、本当に良かったと安堵したものです」
大司教の皺の刻まれた顔は、信者の前で説教をするときのように微笑んだままだ。けれどその声は、大司教としてみなの前に立つときにはない温かさがあって、サフィアは泣きそうになった。
大司教も、教会の人々も、サフィアのことを想ってくれている。それがとても嬉しいし、感謝している。今も、胸が痛むほどに大司教からの愛情を感じている。だからサフィアは、彼を父親のように思っているのだ。けれど自分は彼らの前では聖女でいなくてはいけないし、彼らもサフィアを聖女として扱わなければいけない。
「今朝の訓練場での出来事を聞きました。あなた様も、ご自分と勇者様がこれから先――闇竜を倒したあと、どうなるのかはご存じですね?」
勇者と聖女は、闇竜を討伐したあと、歳の近い王族と結婚することになっている。
闇竜を倒した勇者と聖女は、世界中に英雄として歓迎される。闇竜が巣を構え、実際に勇者と聖女が産まれるレプティル王国では、余計にだ。もしも反乱分子や他国に担がれれば、民たちがそちらについてしまう可能性がある。だからそれを防ぐためにレプティルの王族と結婚し、その籍に入る慣習が続いているのだ。
だが、現在サフィアやアーサーと近い年頃の王族は、現王の娘であるメアリー姫しかいなかった。王弟にも娘はいるがまだ三歳と幼く、男子がいない。もっと上の世代の王族はみな、サフィアとアーサーが産まれる前に結婚している。そのため、アーサーはメアリー姫と結婚することになるが、サフィアの相手はいなかった。だからサフィアは、闇竜を倒したあとはまた教会に戻り、大聖女として、一生未婚で居続けることが決まっているのだ。
竜神教は全世界で信仰されており、世界各地に拠点がありつつも、どこの国も手出しができない組織だ。そしてすでに強大な影響力を持っているため、今の世界の調和を乱そうという考えは基本的に出てこない。そのため勇者や聖女でも、教会に囲われて未婚でさえいれば、国を脅かす存在にならないということだ。
だから、もしアーサーが本当に愛の告白をしてくれても、サフィアがいくらドキドキして惹かれたとしても、二人が結ばれることはないのだ。
「入りなさい」
「失礼いたします」
扉を開けて中に入ると、執務机に向かっていた大司教が立ち上がり、ソファを指した。
「そちらにどうぞ」
「ありがとうございます」
サフィアがソファに座ると、大司教が向かいに座った。
「まだ十六時だというのに、もう真っ暗ですね。眠れなくなるといけないので、水にさせていただきます」
「ありがとうございます。いただきます」
大司教が話しながら、水差しの水をグラスに注いでサフィアの前に置いてくれた。一口飲んでから窓の外を見ると、大司教が言ったようにもう真っ暗で、空には星が瞬いている。闇竜の成長とともに、世界の夜が長くなっているのだ。サフィアたちが旅立つ頃には、十五時ほどで夜になってしまうだろう。
このまま闇竜を放置すれば、竜神伝説で世界の夜がなくなったのとは逆で、昼がなくなってしまう。けれど闇竜を無闇に倒せば、この世界から闇竜がいなくなり、それこそ伝説のとおり夜がなくなってしまう。あくまで、闇竜が次の卵を産んだあとに倒さなければならない。それが、勇者と聖女が成人する――十八歳の時なのだ。
大司教も水を何口か飲んで、グラスをテーブルに置いた。そして、口を開く。
「聖女様。わたくしは、勇者様が見つかって良かったと心から思っています。本来、勇者と聖女は共に幼い頃から教会を訪れ、兄弟姉妹のように過ごし、成長するものです。その相手が、あなた様にはずっといなかった。わたくしもそれは気にしていましたから、勇者様が見つかって、紋章の宿命を共に背負う相手ができて、本当に良かったと安堵したものです」
大司教の皺の刻まれた顔は、信者の前で説教をするときのように微笑んだままだ。けれどその声は、大司教としてみなの前に立つときにはない温かさがあって、サフィアは泣きそうになった。
大司教も、教会の人々も、サフィアのことを想ってくれている。それがとても嬉しいし、感謝している。今も、胸が痛むほどに大司教からの愛情を感じている。だからサフィアは、彼を父親のように思っているのだ。けれど自分は彼らの前では聖女でいなくてはいけないし、彼らもサフィアを聖女として扱わなければいけない。
「今朝の訓練場での出来事を聞きました。あなた様も、ご自分と勇者様がこれから先――闇竜を倒したあと、どうなるのかはご存じですね?」
勇者と聖女は、闇竜を討伐したあと、歳の近い王族と結婚することになっている。
闇竜を倒した勇者と聖女は、世界中に英雄として歓迎される。闇竜が巣を構え、実際に勇者と聖女が産まれるレプティル王国では、余計にだ。もしも反乱分子や他国に担がれれば、民たちがそちらについてしまう可能性がある。だからそれを防ぐためにレプティルの王族と結婚し、その籍に入る慣習が続いているのだ。
だが、現在サフィアやアーサーと近い年頃の王族は、現王の娘であるメアリー姫しかいなかった。王弟にも娘はいるがまだ三歳と幼く、男子がいない。もっと上の世代の王族はみな、サフィアとアーサーが産まれる前に結婚している。そのため、アーサーはメアリー姫と結婚することになるが、サフィアの相手はいなかった。だからサフィアは、闇竜を倒したあとはまた教会に戻り、大聖女として、一生未婚で居続けることが決まっているのだ。
竜神教は全世界で信仰されており、世界各地に拠点がありつつも、どこの国も手出しができない組織だ。そしてすでに強大な影響力を持っているため、今の世界の調和を乱そうという考えは基本的に出てこない。そのため勇者や聖女でも、教会に囲われて未婚でさえいれば、国を脅かす存在にならないということだ。
だから、もしアーサーが本当に愛の告白をしてくれても、サフィアがいくらドキドキして惹かれたとしても、二人が結ばれることはないのだ。
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