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114.つながりあう世界
しおりを挟む「スピカアアアアッ!」
「「「スピカッ!」」」
間に合うはずもなかった。ルベックがしたり顔で投げた短剣は、俺たちの悲鳴すら切り裂くようにしてまっすぐスピカの背中へと向かっていった。ボスに意識が傾いている今の彼女には、いくら余裕があろうと避けるのは難しいだろう。
俺は仲間を守ることができないというのか。このまま死なせてしまうというのか……。
スピカと初めて会ったときのことが思い出される。とてもほんわかとした雰囲気で、それでいて不思議な空気を持った少女だった。俺を幼馴染と重ね合わせているところもあったのだろうが、本当に親しくしてくれた子だった。
ほんの一瞬の間なのに、とても長く感じた。思い出というものは、時間すら超越して心に強く訴えかけてくるものだと改めて痛感させられる。日常における一つ一つの何気ない事柄が、あとからいかに大切なものだったのかこれでもかと気付かされるのが人間だが、俺もそうなってしまうというのか? そんなの嫌だ……。
おのれ、『ウェイカーズ』め……お前たちだけは何がなんでも許しはしない。俺の心が真っ赤に染め上がろうとしているとき、この目に衝撃的な光景が飛び込んできた。
「……ス、スピカ……?」
今まさにスピカの背中を貫こうとしていた短剣が寸前で消えたのだ。
「――なん、だと……? どうなってんだよ、畜生……」
ルベックの顔が見る見る凍り付いていくのがわかる。確かにやつの投げた短剣はスピカの背中に一直線に向かっていったはずだ。
「……あ……」
俺の近くで何か煌めくものが転がっているのが見えた。これは……間違いない。ルベックの投げた短剣だ。何故そんなものがこんなところに? やつが投げた方向とはまったく違うし、ほぼ逆だぞ……。
「――ク、クソがああぁっ!」
しまった。ルベックが外したということをようやく理解できたのか、スピカのほうに猛然と向かっていく。
《ワープ》を彼女のほうに出そうとするが、出ない。二つ出ているからか。時間は置いてるわけだから、それ以上は置けない可能性が高い。いや、そんなんであきらめられるか。俺は近くの《ワープ》を《幻草》に変化させると、スピカの背後に新しく《ワープ》を置いた。
「……は……?」
やはりそうだ。スピカ近くの新しい《ワープ》を踏んだルベックは、最初に置いたワープゾーン――スピカのずっと後方にある古い《ワープ》――から出てきた。
俺はさっきの要領でスピカの背後付近の《ワープ》を《幻花》に変えて、まもなく古い《ワープ》が消えるタイミングでルベックの足元に最新かつ単一の《ワープ》を置いてやると、あっさり引っ掛かってどこかへ消えてくれた。
バニルたちからほっとした声や歓声が上がる中、グレスたちが一様に呆れ顔で立ち去るのがわかる。またしてもルベックの元へ合流に向かうんだろう。実にいい気味だ。
「……」
俺はルベックの短剣を拾う。さっきから、これで何か凄いことをひらめきそうな予感がしていた。《ワープ》と《ワープ》はつながっている。二つのみ出せる。これで何かいいアイデアが生まれそうだったんだ。
「セクト、難しい顔してどうしたの?」
「どうしたのよ、セクト」
バニルとルシアに心配そうに話しかけられる。
「ちょっとね、考え事」
「そっか……」
「どうせエッチなことでも考えてたんでしょ!」
「ルシア、俺はどんだけ気持ちの切り替えが早いんだよ……」
「ふふっ……」
「お、男の子ならそんなものでしょ! ふんっ!」
「……」
ん? 待てよ、切り替えが早い……? そうだな、《ワープ》は二つ以上出せないが、さっき俺がやったみたいに《幻草》とかに変えれば、すぐに別の場所に出せる。これを何かに活かせそうな気がするんだが、もうちょっとのところで出てこない……。ん、ミルウが俺の後ろに隠れた。
「セクトお兄ちゃん……ミルウ、さっきは怖かったあ。急にその短剣が近くに飛んできたから……。あんなのボスでも避けられないよお……」
「そうだな、いきなり出てくればボスでも避けられない……」
俺はミルウの言葉に相槌を打ったとき、はっとなった。
これはボスの討伐に使えるかもしれないぞ。《ワープ》を通してボスに攻撃すれば《反発》の影響を受けない可能性がある。それどころか、これを上手く応用すれば『ウェイカーズ』の攻略にも使えそうだ。一気に色んな問題が解決し始めたな……。
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