幼馴染勇者パーティーに追放された鍛冶師、あらゆるものを精錬強化できる能力で無敵化する

名無し

文字の大きさ
43 / 60

第四三話 暗中模索

しおりを挟む

 教皇ユミルと枢機卿シュラークの二人が長い階段をおもむろに下りていく。その際、シュラークの足元からポタポタと血が滴り落ちていた。

『ウオォォォォンッ……』

 悲しくも恐ろし気な咆哮が響き渡る中、薄暗い通路を歩いていた二人が突き当りにある真っ赤な鉄格子の前で立ち止まる。

「――さあ、あなたの好物ですよ。食べるのです」

『……』

 鉄格子の扉の鍵を開け、信徒の遺体をもっと暗い空間に放り込むシュラーク。すると怯えたように片隅でうずくまっていたがムクリと起き上がり、信徒の遺体に飛び掛かると同時に凄まじい勢いで貪り始めた。

「まあっ、なんて素晴らしい食欲なのかしらっ……」

「……」

 楽し気な表情を浮かべるユミルとは対照的に、眉間にしわを寄せて厳しい顔つきで鉄格子の向こうを見やるシュラーク。

「シュラークさん、何か考え事ですかあ?」

「……あ、失礼を、ユミル様……」

 少し間を置いて反応したシュラークに対し、ユミルがはっとした顔になる。

「ま、まさか……シュラークさん、この子がコアだと考えているのではあ?」

「いや……この子はコアではないでしょう」

「あら、どうしてそう言い切れるのです……?」

「確かに見た目は怖いかもしれませんが、コアは最も暗い心を媒体とするとのことです。この子は敵に対してはともかく、私たちに対してはとても従順でいい子なので……」

「なるほどぉ。それなら大丈夫そうですねっ」

「はい――ゴホッ、ゴホッ……グフッ、グハアァッ……!」

 そのとき、シュラークがこの上なく激しく咳き込み始めた。それは夢中で遺体を貪っていた何かが動きを止めるほどの迫力だったが、ユミルの表情は少し怪訝なものに変わる程度であった。

「あらあら……シュラークさん、大丈夫ですかあ?」

「だ、大丈夫です……。ユミル様、もしものときはこの子を解放し、不届き者に天誅を与えましょう」

「ふふ……久々にこの子を解放するのですね。相手が敵さんならしょうがないですけど、一体何人の方々が犠牲になってしまうのか想像もできません」

「これも全ては教皇様のためですから」

「そうですねえ。どうなるかはわかりませんけど、とりあえず存分に暴れ回ってもらいましょうっ」

 ユミルの無邪気な笑顔に見守られながら、鉄格子の向こうではまたクチャクチャと遺体を貪る音がし始めるのだった……。



 ◆ ◆ ◆



「――ここが神殿で最も聖なる場所です、ハワード様」

「ここが……」

 シェリーに案内され、俺たちはユミルの神殿の奥に位置するという至聖所までやってきていた。大きな金色の箱が中央に置いてあるのが目立つだけで、それ以外は特に何も見当たらない殺風景な部屋だ。

「うが……なんだか窮屈すぎて頭が痛くなるような場所です……」

「ひぐ……無味無臭っていうか、色んな匂いを何かに丸ごと封じられてるような感じがするのお」

「……」

 ハスナとシルルの鋭い感覚までも狂ってしまってるようだ。それほどここが神聖なもの以外を許さないような荘厳な空気に満ち溢れてるってことなんだろう。

 それにしても……ここまで来て妙だと思ったのが、確かに出てくるモンスターは人間の信徒たちに似ていてややこしいとはいえ凄く弱くて、『+256』もあった難易度からは想像できないくらいスムーズにここまで辿り着いたということだ。

 ってことは、今までくみし易かった分、コアが相当手強いってことなんだろうか……? というか、本当に何もないような場所だな。謎の咆哮がした方角といい、神殿の最も聖なる場所といい、ここに教皇や枢機卿がいてもいいはずなんだが。

 まさか、あの箱の中に隠れてるとか? いや、それはいくらなんでも安直な考えすぎる……ん、今なんか物音がしたような――

「「「「「――そこまでだっ!」」」」」

「「「「はっ……」」」」

 大箱が開いたかと思うと、そこから武装した信徒たちが次々と飛び出してきた。全部で十人くらいだ。

「お、おい待て! 俺たちは敵じゃない――」

「――黙れっ、もう騙されんぞ!」

「そうだそうだ! それに俺は知ってるぞ、こいつはハワードといって勇者パーティーの一人だった男じゃねえか!」

「ハワードだと!? 鬼畜外道の勇者パーティーの言う事など誰が聞き入れるものかっ!」

「恥を知れっ! 祟りを恐れぬ外道どもめっ!」

「……」

 ダメだ、取りつく島もない。困ったな……。ダンジョンをいち早く攻略することでコアの本体が死なないようにするために彼らの相手をしてる暇なんてないし、ここで気絶させたらこれだけの数の信徒をモンスターや勇者パーティーから守るために神精錬を施す必要が出てくる。

 その上、戦えば心象をさらに悪くしてしまうというおまけつき。一刻の猶予もないっていうのに、俺たちはこの状況をどうやって乗り越えればいいというのか……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...