幼馴染勇者パーティーに追放された鍛冶師、あらゆるものを精錬強化できる能力で無敵化する

名無し

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第四六話 神の使者

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『――ウオオオオンッ……』

「「「「……」」」」

 終わりがないかのような長い階段をようやく下り切った頃、例の咆哮がすぐ近くから聞こえてきた。いよいよあのなんともいえない声の持ち主が明らかになるってわけだ。

 ここまで来るとさすがに慣れたもので、俺だけじゃなくてハスナたちも神精錬で緊張を折らずとも普通に歩くことができるようになっていた。やはり緊張というものが本当の意味での強さを引き出すってことなんだ。

 それでもみんながずっと黙ってるのは、怖がってるから、緊張してるからというよりも集中しているからなんだと思う。

 自分が今できることを精一杯やろうと各々が真剣に考えてる証拠なんだ。これこそ俺が心の底から望んでいた状態で、ダンジョンのコアを倒すという目的に向かってこの場にいる全員が一つにまとまってるってことなんだ。

 挫けない気持ちと緊張感という冷水で鍛えられた心は、そう簡単に折れはしない。

「――来た……」

「「「っ……!?」」」

 みんなが俺の声に応じて立ち止まるのがわかる。に最初に気付いたのは何故か俺だったらしい。それは本当に、まるで薄闇の中から滲み出るかのようになんの違和感もなく姿を現わした。

『ウウ……』

 こ、これは……。

 そこにいたのは、とても青白い少女の顔と胴体を持っただった。とにかく困惑してしまうくらい神々しい雰囲気をこれでもかと醸し出していて、ダンジョンのコアどころかモンスターという感じすらまったくしなかった。これじゃまるで神の使いかなんかだ。

「「「「……」」」」

 蜘蛛の少女と対峙した俺たちに長い長い沈黙の時間が訪れる。まるで永劫であるかのような――

『――ウオオオオンッ!』

「「「「はっ……」」」」

 魂を揺さぶるかのような咆哮とともに、俺たちに向かって蜘蛛の少女が襲い掛かってきた……。



 ◆ ◆ ◆



「きええええええええぇぇぇぇっ!」

 何度目かの奇声とともに、大臣が怒りの形相で部屋中の花瓶や壺を次々と投げ落としていく。

「「「ひぃいっ……」」」

 その病的なまでに荒れた様子に、使用人の少女たちも部屋の片隅でうずくまるばかりだった。

「あの淫売リヒルめは、王に長らく仕えてきたこの私を愚弄したのだ……。一体誰が何年もの間、病弱で頭も弱い王を影から支えてきたと思っている……? それはな、誰がどう見てもこの私なのだ。ひ弱で引きこもりで七光りでただ飯食らいのリヒル……お前如きではないわああぁっ! きええええええぇぇぇっ――!」

「――だ、大臣様、伝令の者です。大事なお話がございます……」

「……」

 ドアがノックされ、大臣が目を血走らせながら向かう。

「おいお前っ! 私を誰だと思っている!?」

「ひっ……!? も、申し訳ありません……!」

「で、なんの話だっ!? 今私はこの通り酷く機嫌が悪いのだっ! 早急に用件を伝えよっ!」

「そ、それが……なんでも、宮中で王様の姿が目撃されたという奇妙な噂が――」

「――は、はあぁ? バカかお前はっ!? 王はもうくたばったのだっ! たわけたことを抜かすなああぁっ!」

「ひっ……も、申し訳――って、大臣様、後ろに蜘蛛が……」

「何……?」

 兵士に後方を指差されて大臣が振り返ると、大型の蜘蛛が床を這う光景があった。

「なるほど、私が暴れたことで隠れていた蜘蛛が炙り出された格好か。こやつめ……!」

 大臣が逃げる蜘蛛を追いかけてその足を踏みつけると、後ろから兵士が慌てた様子で駆け寄ってきた。

「だ、大臣様っ、蜘蛛は神の使者という言い伝えもありますゆえ、そっとしておいたほうが――」

「――ん? 私の出身地のほうでは、蜘蛛は悪魔の生まれ変わりだと聞いたぞ? それに、神の使者だと……? 気に食わん。女狐が気に入っているあの男を連想してしまうではないか……。何がハワードだ、神の手だ……きえええええぇぇぇぇぇっ!」

 奇声を上げながら蜘蛛を何度も踏んで殺すと、大臣はこれでもかと顔を皺だらけにして満面の笑みを浮かべてみせた。

「どうだっ、ハワードよっ、参ったかあぁっ! 私の計画は誰にも邪魔させんっ! たとえそれが神の手であってもなああぁっ!」



 ◆ ◆ ◆



「なんだよここぉ。ねえねえ、いつ終わるの? このクソみたいな階段さあ……」

 長い階段を下り始めてからしばらくして、勇者パーティーの後方にてランデルがいかにも気怠そうに中腰で溜息をつく。

「いい加減しっかりしなさい、ランデル。私たちはただでさえ遅れてるのよ……?」

 先頭を歩くルシェラの声には棘が増すばかりだった。

「だってさぁ、それだけ疲れてるんだから弱音を吐くくらいしょうがないって。ねえ、グレックもエルレもそう思うだろお?」

「うんっ。人間なんだからしょうがないよぉ」

「だろお……って、グレックはどうしたんだよ?」

「あ……すまねぇ、ランデル。ちょっと考え事をな――」

「――あら、グレック。私の心臓でも狙ってたのかしら?」

「……ははっ、まさか。それに、ルシェラさんには勝てねえよ。誰も……」

 グレックが苦笑いを浮かべるが、宙に浮かんだその眼差しは鋭いままだった。

「グレック、まさにそれっ。僕でもルシェラにまったく勝てる気しないしっ」

「それが賢明よ、グレック。けど……もしやる気なら私も手加減なしであの世に送ってあげるつもりだから、そこだけ覚えておいてね」

「……こええなあ。もしやるなら一発で仕留めねえと……」

「「あ、あわわっ……」」

 蜘蛛の巣のように緊張感を張り巡らせるルシェラとグレックに対し、ランデルとエルレは酷く怯えた表情を見合わせるのであった……。
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