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第四七話 虎視眈々
しおりを挟む「――ひゃっほう! やっとクソ長い階段が終わったああぁっ!」
階段から通路へジャンプして下り立ち、勇者ランデルが嬉々とした表情で小躍りしてみせる。
「ふう……。本当に長かったし、勿体ぶってて意地悪な構造よね。神様ごっこしてるゴミみたいな連中にはお似合いの代物だけど」
「うんうんっ。ルシェラお姉様の言う通りぃ、すごーくいやーんな感じぃ?」
「……それより早く行こうぜ。俺たちは遅れてるんだろう?」
「そうね。グレックの言う通り、早く行きましょう。隠蔽だけじゃなく暗視の魔法もかけてるから、誰にも知られることなくかなり先まで見通すことができるわ」
「「……」」
グレックに促されて先頭を歩き始めたルシェラ。彼らは最早視線を合わせることすらもなく、溝の深さを周りに知らしめる格好となったが、彼らの作り出す緊張感に押し出されるようにしてランデルとエルレも気まずそうに無言で歩き始めた。
「――あ、あれっ、なんかいる……!」
「「「あ……」」」
縛り付けるような緊張感ゆえか、前方に誰かがいることに最初に気付いたのは眠そうな顔をした勇者ランデルであり、彼を含む全員が我に返った様子で壁に背を預けた。
そこでは、蜘蛛と人間を合体させたかのような少女と、ハワードとその連れの者たちが向かい合うところだった。
「うわっ、何あれ気持ちわるっ……! グレック、あんなのコアに決まってるじゃん。早くクソ無能のハワードごと殺しちゃえよ……!」
「待って、ランデル。コアかどうかもまだ確定してないのに迂闊に手を出すのは危険でしょう」
「……ランデル、聡明なルシェラさんの言う通りだ。ダンジョンのコアが誰なのかもわかんねし、ここはじっと機会を窺おうぜ……?」
口をひん曲げて笑いにくそうに笑うグレックに対し、それを隣から見上げたエルレが青ざめる。
「……グ、グレックお兄ちゃん、なんだか怖いよぉ」
「ん、エルレはそう思うのか? 俺からしてみたら、ルシェラさんのほうがよっぽど怖い気がするんだがなあ……」
「チャンスは一度しかないかもしれないんだから、絶対に外さないようにね、グレック……?」
「もちろんだぜ。殺したくて殺したくてたまんねえ獲物がすぐ近くにいるわけだからな。必ず一発で仕留めてやる……」
『――ウオオオオンッ!』
「「あっ……!」」
その間に蜘蛛の少女とハワードたちの戦いが始まり、前方だけでなく後方にも異様な緊張感がこの上なく充満するのであった……。
◆ ◆ ◆
「――かっ……!」
『ウッ……!?』
俺は蜘蛛の少女が迫ってくる直前のギリギリのタイミングで心鎚を使い、あの四人の信徒たちにやったようにスタン状態だけを付与し、みんなと後退してみせる。
「お前は俺たちと戦うつもりなのか? こっちとしては勘弁してもらいたいところだが……」
じっちゃんはこんなことも言ってたっけな。最後は直感を信じるのだって。なので俺は直感から、この子を傷つけてはいけないと感じて戦うのをやめたんだ。それは後ろに控えているハスナたちもどうやら同じ気持ちのようだった。
「うがっ……私たちは敵じゃないです!」
「ひぐぅ、あたしもあなたと戦うのはやーなのぉ!」
「それがしもまったく同じ気持ちだ……。あなたを傷つけたくはない!」
『……ウ、ウウ……!』
蜘蛛の少女はスタン状態が解けたのち、隙あらば襲い掛かろうとする素振りを見せていたが、俺たちの気持ちが伝わったのか動きを止めたままになった。
こんな姿をしているが、彼女はダンジョンのコアでもモンスターでもなく、紛れもなく人間なんだとわかる。誰かを守るために、心を犠牲にして仕方なく戦おうとしているようにしか見えなかったんだ。
「――ゴホッ、ゴホッ……」
「シュラークさん、風邪を引いてるのに無理なんてしたらダメですよお?」
『オ、オオン……』
蜘蛛の少女の後ろから、苦し気に咳き込みながら歩く男とそれを横で心配そうに見上げる女性が現れた。
「きょっ、教皇様っ! それに枢機卿様もっ……!」
シェリーが慌てた様子でひざまずき、俺たちもそれに続く。そうか……あのビレタ帽の男が枢機卿シュラークで、袖に青い十字模様がある白衣の女性が教皇ユミルなのか。
それにしても、妙に引っかかるな。あの男の咳き込み方。風邪と言われているが目つきは虎のように鋭いし、顔色もいいくらいなのに……。
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