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第五十話 擦れ違い
しおりを挟む『――コオオオオォォォ……』
枢機卿シュラークの顔や手の皮膚が見る見る崩れ落ち、あっという間に髑髏と化してしまった。これが神殿ダンジョンのコアの姿なのか……。
だが、その死霊然とした姿とは反比例するかのように彼は生命力で満ち溢れていて、難易度『+256』を誇るダンジョンのコアに相応しい強烈な存在感をこれでもかと放っているのがわかった。
「……」
やつと睨み合うだけで魂が軋み、額から汗がどんどん零れ落ちて足元に水溜まりを作っていく。自身の心と体が、今までのコアとは比べ物にならない、異次元の強さだと訴えかけているかのようだ。神の手が復活して以降、こんなことは初めてだ……。
『『ハワード……』』
「じっちゃん、師匠……」
祖父や師匠ウェイザーの顔が脳裏に浮かんでくる。会いたいけど、俺はまだあの世に逝くわけにはいかない。偉大なこの二人を背負って戦っているんだってことを自覚し、心と体を奮い立たせなければ……。
お前なんぞに背負われるほど落ちぶれてはいないと怒られそうだが、俺はそのつもりでいる。成長した俺の姿を見ていてくれ、じっちゃん、ウェイザーさん……。
『コオオオオオォォッ――』
「――かっ……!」
相手が先に飛び掛かってきた瞬間、俺はすれ違いざま心鎚を発動させる。今までの中で最高の出来と断言できるくらい完璧な一撃だったし、骨が幾つも砕かれる音がはっきり耳に届いた。これで終わったはずだ――
『――コオォォォッ……』
「はっ……?」
声がしたので振り返ると、バラバラになって崩れ落ちたはずのコアが一瞬で元通りとなっていた。
バ、バカな……奥義が完全に無効化されてしまっただと……? しかも弱っている気配を微塵も感じないし、それじゃあ一体どうやって倒せばいいっていうんだ……。
◆ ◆ ◆
「う、うわっ! あいつだっ、やっぱりあいつがコアだった! 僕の予想通りっ。ね、グレック、早くっ……早くやっつけちゃってよ!」
枢機卿の姿が髑髏へと変貌したのち、勇者ランデルが後ずさりしながら震え声で叫ぶ。
「ランデル……少しは大人になって頂戴。双方が弱ってからじゃないと漁夫の利なんて狙えないでしょ……」
「だ、だだ、だって、あいつ、見た目も雰囲気もすげー怖いもん……」
「はあ。勇者がこんなことじゃ困ったわね。ま、今まで相手にしてきたのが雑魚ばかりだったし、急にやたらと強そうなのが出てきちゃったからしょうがないのかもしれないけど……」
「ルシェラお姉様っ? ランデルお兄様が怖がるのもしょうがないよぉ。あたしだってぇ、髑髏を見たら死を連想しちゃうものっ。こわーい……」
「だよねっ。エルレ、僕を庇ってくれて本当にいい子っ、なでなでっ」
「ああんっ……」
「ったく。そうやって甘やかすからいけないのよ……。もういいわ。あなたたちはそこで見てて頂戴」
ルシェラが呆れ顔でエルレとランデルからそっぽを向くと、いかにも仕方がなさそうにグレックのほうに目をやった。
「グレック、わかってるとは思うけど、双方が弱ってきたときがチャンスよ。弓矢には命中したときに内部で傷口を広げるために風魔法を付与してるから、頼んだわね」
「……ルシェラさん、俺の代わりなんていくらでもいるんじゃ……?」
「……グレック、あなたってお子様なの? 今はそういうことを言ってる場合じゃないでしょ。私のことが殺したいくらい憎かったとしても、まずは目先の敵を倒すために手を合わせないと」
「へへっ、それはもちろんわかってるさ。ただ言ってみたかっただけだ。けど、肝心のコアが弱る気配は今のところ微塵もないぜ……?」
薄ら笑いを浮かべながら通路の先を一瞥するグレック。そこでは、今まさにハワードと交戦を始めたコアが崩れ落ちたように見えたものの、すぐに復活するところだった。
「それは、まだ始まったばかりだからでしょ。ハワードならなんとかしてくれるはずよ。素晴らしい才能がありながら、それを最大限に生かそうとしなかったあのバカ男を誉めるのは正直癪だけど……それでも、もし神の手が少しでも復活してるなら、コアを弱らせるくらいのことは絶対にできると思うから……」
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