幼馴染勇者パーティーに追放された鍛冶師、あらゆるものを精錬強化できる能力で無敵化する

名無し

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第五四話 震える者

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「――なっ……!?」

 俺の背中にぶつかってきたのはなんと蜘蛛の少女で、その背中には矢を受けていることがわかった。しかもその矢には風魔法が付与されていたらしく、内臓が酷く損傷しているのが見て取れる。

 俺はハスナたちの声がした瞬間体を捻っていたので直撃を避けることはできたんだが、彼女からしてみたらどうしても俺を助けたいという気持ちがあったんだろう。

『……オ、ォォ……』

 カンカンカンッ……。コアの様子を窺いつつ、神精錬で痛みを折って和らげてやる。もう助かる見込みはないし、それくらいしか俺にしてやれることはない。それに今はまだ戦っている最中だから――

『――コオォォォッ……』

「……」

 な、なんということだ。コアは俺たちに対して襲い掛かろうとする気配さえなかった。こんなことは初めてだ。コアになれば当然正気を失うわけで、どんなに親しい者でさえも餌食にしようとするはずなのに。

 あの立ち姿は、到底コアには見えなかった。まるで全身で泣いているかのようだ……。

「くっ……」

 俺はハンマーを震わせつつ、込み上げてくるものを必死に抑え込んだ。なるべく早くこの戦いを終わらせなければならない。二人のためにも、絶対に……。



 ◆ ◆ ◆



「はぁ、はぁ……急所は外れてるし、二発目は私の魔法を施してない弓矢だったから助かったわ。エルレ……手当てを……」

「は、はあいっ、お姉様っ」

 治癒師エルレの回復術により、大分顔色が良化したルシェラが脇腹を押さえながら立ち上がる。

「ル、ルシェラ、大丈夫!? じっとしてなきゃ――」

「――ランデル……この状況で、あなた一人じゃどうしようもできないでしょ……」

「うっ……」

 魔術師ルシェラの冷たい発言が示す通り、彼女を含む勇者パーティーは鍛冶師ハワードの仲間たちに囲まれるという窮地に陥っていたのである。

「うがっ! 早く降参するです。もっと悪い人間たち!」

「ひぐう! じゃないと痛い目に遭わせちゃうのぉー!」

「それがしたちは名ばかりの勇者パーティーとは違う! 降参するのであれば手出しはしないっ!」

「ふふっ……あなたたち、さっきからやたらと強気だけど、誰に向かって物を言ってるかわかってるの……?」

「「「っ……!?」」」

 腕組みをしたルシェラの氷の微笑に対し、ハワードの連れの三人は揃って怯んだ表情を見せる。

「一瞬で氷漬けにしてあげるわ。そこにいるみたいにね……」

「あ、ルシェラ待って! 豚みたいな女の子はともかく、こいつら可愛くね? ねねっ、殺す前に一発ずつやらせて――」

「――ランデルウゥ……そんな余裕があるわけないでしょ……」

「ご、ご、ごめんっ。じょ、冗談だってばあ!」

「もー、ランデルお兄様ったらぁっ」

「うがっ。氷漬けにできるものなら、やってみろです」

「「「えっ……?」」」

 赤い髪の少女が発した台詞に対し、唖然とした顔になるルシェラたち。

「命乞いでもするかと思えば……ハワードの仲間なだけあって可愛げがないわね。いいわ、そんなに氷漬けになりたいなら望みをかなえてあげる! しかもバラバラにしてやるわ。ランデル、氷を割る準備はいい……!?」

「は、はいはい、わかってるよ、もう……」

 ルシェラに横目で睨まれたランデルがいかにも気怠そうに剣を振り上げる。

「ルシェラお姉様っ、ランデルお兄様っ、やっちゃえーっ、ぶっ殺しちゃえっ! はみ出るはらわたっ、脳みそっ。きゃっきゃ!」

 勝利を確信したかのように満面の笑顔で飛び跳ねるエルレ。

「食らいなさいっ……!」

 エルレの氷魔法が炸裂し、正面に立つ少女たちはあっという間に氷の彫像と化すのだった。

「ランデルッ!」

「はいはいっ! 少女解体っ!」

 赤い髪の少女に向かって豪快に剣を振り下ろすランデル。

「人肉アイス完成っ! チャンチャンッ――」

「――うがっ!」

「「「えっ……?」」」

 それまで余裕の表情だった勇者パーティーの面々が驚愕の色に包まれる。

「……な……な……?」

 すぐに氷が解けた少女がランデルの剣を片手で受け止めたかと思うと、中心からぐにゃりと曲げてしまったのだ。

「こんなの効かないです」

「ひぐっ。でも、ちょっぴり寒かったのー!」

「ふう、確かに少し寒気がしたが平気だ……。魔術師ルシェラよ、残念ながら、それがしたちに魔法は通用しないっ!」

「……わ、私の氷魔法が効かないですって……? そ、そんなことがあるわけ……って、それじゃ、ま、まさか……ハワードのやつが……?」

 ルシェラのはっとした顔が見る見る青ざめていく。

「う、うしょお……。そ、それって、もしかして……か……神の手が復活しちゃったってことなのぉ……?」

 エルレの体が小刻みに震えると、まもなく足元が濡れ始めた。

「こ、こうなったら――!」

「――ひぐっ!?」

 そのときだった。隙を見て素早く動いた勇者ランデルが豚鼻の少女を捕まえると、首にナイフをあてがったのだ。

「こ、こんなこともあるかもって思って用意しててよかったあ……。さあ、この子を殺されたくなかったら、僕たちの言うことを大人しく聞くんだ……」

「ひ、ひぐうぅぅ……」

「シ、シルル……死んじゃうの嫌です。うがあっ……もっと悪い人間め、卑怯です……」

「お、おのれえぇぇ……シルルどのを離せっ! どこまで汚い連中なのか……!」

 悔しがる様子を見せるハワードの仲間たちだったが、対照的に勇者パーティーの面々には安堵や喜びの色が広がりつつあった。

「まさか、ハワードの神精錬が完全に戻っていたなんてね……。逆に騙すつもりでいたなんて、まあ少しはお子様の頃から成長したってところかしら? 最後の最後にこんなミスをしちゃったら意味ないけど……」

「そうそうっ! クソ間抜けなハワードが完全復活してたとしても、この豚を人質にして雲隠れしちゃえばいいだけだしっ。それに僕たち、今まで充分に楽しんだもんねえ……って、おい、そこの女ども、動くなよ。それとも、この豚を解体されてもいいのかな……?」

「「くっ……」」

「やーい、ぬか喜びいっ。残念賞っ。ざまーみろだよぉ! きゃっきゃ――」

 ――ゴゴゴゴゴゴッ!

「「「あっ……!」」」

 ランデルたちが後ずさりしながら逃げようとしていたそのとき、神殿内が大きく揺れることとなった。

「ひぐうっ!」

「うぎゃっ!?」

 その隙に豚鼻の少女がランデルの手に噛みつき、離れることに成功してハスナたちの元に駆け込んでいく。

「ク、クソ豚がっ! 逃すかよっ――!」

「――そこまでだ」

「……あ、あ……」

 透かさず追いかけようとしたランデルの前に一人の大柄な信徒が立ち塞がると、即座に彼を組み伏せるだけでなく、その隙に逃げようとしたルシェラ、エルレをもあっという間に制圧してしまうのだった……。
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