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7話 バフ
しおりを挟む次に俺が取りかかったのは、バフを維持する薬を開発することだ。糊付け、すなわち見えない部分を固定する、ステータス専用コーティング薬である。
当然接着を意識するわけだが、これが見えない部分となるとかなり難しくなってくる。精神の粘着剤なんてできるはずもなく、これに近い成分を抽出するしかなくなるわけだ。
抽出方法としては、まず執念とか根性とかそうした強い思いを抱くことが大事になってくる。次に、この能力を絶対に維持してやるんだという熱い気持ちを冷まさないよう持続させていくことが肝要だ。
さらにもう一つ重要になってくるのが偽薬効果であり、まだ効果が持続していると思い込むことである。
これらの二つの要素を合わせると精神力の摩耗が酷いので、精神向上薬を試験管に多めに投入し、続けて幻覚を生じさせる成分を少々入れて、最後に強い思いを詰め込んだ夢想種を入れて粘り気が出るまで混ぜ、しばらく寝かせておく。
――よし、完成だ。夢想種が溶け、全体的に濃厚な緑色になっているのがわかる。あとはこのコーティング薬を試すだけだ。というわけで俺はアシュリーにバフをかけてもらおうとしたが、まだ眠っていた。
「アシュリー、もうそろそろ起きてもらえないかな?」
「くぅ、くぅ……」
「アシュリー?」
「くー……むにゅうっ」
「……」
ダメだ……肩を揺さぶってみたがまったく起きる気配がないし、夢でも見てるのかニヤニヤと笑うだけだった。おかしいな、もう昼間だってのに……って、そういや、バフの最大の効果を維持しようと思って、熟睡させることで精神力を回復させるべく強めの睡眠剤を飲んでもらったんだった。
「あっ……」
しばらく薬が切れるのを待つしかないかと諦めかけた直後、俺は良い考えをひらめいた。彼女の耳元であの言葉を囁いてやれば今すぐにでも起きるんじゃないか……? 正直、これは自分にも効くのであまり言いたくなかったが、早く例の薬を試したいしこの際仕方ない。
「追放、する……」
「うっ……?」
アシュリーの笑顔が一転して、しかめっ面に変わる。心が痛むが、この様子を見てるともう一押しだな。
「アシュリー、追放する……」
「う、ううぅー!?」
おお、起き上がった……と思ったら、めっちゃ怖い顔して見下ろされてるし……。
「何が追放ですよ。ざけんじゃねーですよ……!」
「ア、アシュリー、バフ、バフを……」
胸ぐらを掴んできたアシュリーは凄い迫力だった。な、殴られる……。
「あぁ? パフパフだぁ!? そんなにパイパイが恋しいならくれてやるです、このスケベ野郎!」
「なっ……!?」
何を思ったのかアシュリーが邪悪な笑みを浮かべて俺の顔を豊かな胸元に押し当てた。や、柔らかいけど呼吸が苦しいし、今の弾みでコーティング薬が大いに零れ、濡れたせいで胸が透けちゃってるんだが……。
「――ただいまー……って、リューイさん、何を……」
「あ……」
タイミング悪く、買い出しに出かけていたサラが戻ってきてしまった。
「い、いや、これは……アシュリーが豹変しちゃって……」
「あ、あのぅ、なんのことですぅ……?」
「え……」
俺を不思議そうに見下ろすアシュリー。もちろん俺の顔はまだ胸元にあった。おいおい、バフと同じく人格が元に戻るの早すぎだし、これじゃまるで俺が望んでアシュリーの胸に突っ込んだ変態みたいじゃないか。
「ま、まあ。リューイさんったら、大胆ですねぇ……」
「い、いや、これは……」
急いで彼女から遠ざかるが、こんなときに限って女性ものの下着が顔に覆い被さってくるという悪循環。もう嫌だ……。
「うぅ、リューイさん、サラがいない間に酷いよ……」
「ち、違うんだ、サラ、これは……」
気付けば俺はサラに迫られていた。なんなんだ、この展開は……。
「サラの小さな胸で我慢してっ!」
「うっ……」
今度はサラの平らな胸に俺の顔は押し当てられていた。一体、俺は何をやってるんだ? バフを貰うんじゃなかったのか……?
「「じー……」」
「どわっ!?」
いつの間にか側にいたシグとワドルに冷たい顔で覗かれてるし……。それから俺は事情を説明したわけだが、みんなの誤解を解くのにしばらく時間がかかった。
ちなみに、パフパフだけじゃなくバフも気付かない間にかかってたらしく、シグが言うには俺の喋るスピードが異様に速いだけじゃなく、全体的な数値も高かったらしい。興奮してたせいか気付かなかった……。
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