幼馴染パーティーを追放された錬金術師、実は敵が強ければ強いほどダメージを与える劇薬を開発した天才だった

名無し

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34話 逆行

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 洞窟シリーズが終わる10階層まで攻略したということもあって、俺たちはそこから一旦1階まで戻ることにした。みんなそわそわしてるのがわかったから、その空気を察して俺のほうから切り出したんだ。

 やっぱりボスルームパネルに俺たちの姿が映ってる可能性は滅茶苦茶高いってことで、今頃1階の冒険者たちからどういう反応が上がってるのか知りたいんだろう。次からは転送ポイントで11階層から始められるわけだし、今までが閉塞感の強い洞窟の中だっただけにいい気分転換になりそうだ。

「いやー、塔を上るのもいいですが、下りるのも風情があっていいですねえ」

「そ、そりゃよかった」

 シグはなんとも呑気な様子で笑ってるが、リーダーとしてはこれくらい余裕があるほうがいいのかもしれない。トップの持つ空気は周りに伝染するものだからな。

 かつてのパーティーリーダーのウォーレンなんて、こっちが少しでもミスしたらいかにも気に入らなそうに舌打ちしてきたし、それに呼応するようにセシアの毒舌で弄られたもんだ。

 そういうときに限ってアリーシャやカイルは我関せずといった様子で喋ってたが、あの頃から俺に対する包囲網はできあがってたんだろう。人は基本的に都合のいいことしか見ないっていうが、俺もまさにその罠に嵌っていたってわけだ。

「ほらほらっ、どんどん下りるよー!」

「あうぅ、怪我しちゃいますよぉ!」

「お、おで怖いぃ!」

「おいおい……」

 サラが及び腰のアシュリーとワドルを引っ張っるようにして階段を駆け下りている。おまけにバフもかかってるから一歩でも足を踏み外そうものなら転落する可能性すらあるわけだが、二人とも消極的だからちょうどいいか。早く下りるためにあの台詞を言っちゃうと勢い余って怪我しちゃいそうだしな。

「リューイ様、あたしたちも負けてられないわ!」

「ちょっ……」

「お、お二人とも、そんなに急いで下りたら怪我しちゃいますよっ!」

 当分ダンジョンには行かないってことで、こうしてルディたちもついてくることになったんだが、急ごうとするルディとは対照的に後ろからクレアが止めてくれるので助かっていた。たまにはみんなとワイワイしながら階段を下りていくっていうのも悪くはないな……。



 ◇◇◇



「――……ウォーレン、ウォーレンったらぁ」

「……う……?」

 ダンジョンタワー100階層、大広間のテント内にて、回復術士のアリーシャに肩を揺さぶられて目を開ける魔術師ウォーレン。まもなくはっとした顔で起き上がった。

「ま、まさか夢、だったのか……? リューイのやつがパネルに映ってたことは……!」

「ひゃうっ」

 今度は逆にウォーレンがアリーシャの肩を揺さぶるも、彼女はいかにも残念そうに首を横に振った。

「う、嘘だ。嘘だと言ってくれ……」

「残念だけど、これは紛れもない現実なの。ウォーレン……」

 アリーシャの言葉に頭を抱えるウォーレン。

「くっ……アリーシャ、悪いけど今は一人に……しばらく一人にしてくれないか――」

「――私ね、いい考えがあるの……」

「……はっ、いい考え? もう僕らは詰んでるはずなのに……?」

「うん……」

 ウォーレンの訝し気な眼差しを、アリーシャがうなずきながら優しく受け止める。

「リューイを呼び戻そう……?」

「……え、え? 冗談、だろ……?」

「冗談じゃないよ。『ボスキラー』の本当の主力が誰なのかわかったんだから、今すぐにでも連れ戻すべきでしょ?」

「い、嫌だ。追放しておきながら今更あんなのを呼び戻すなんて……いくらなんでも屈辱的すぎる。急な流れに逆らうみたいで考えが追い付かない。そんなの無理だ――」

「――もう、いい加減にしてよ!」

「ア、アリーシャ?」

 耳まで真っ赤にして目を吊り上げるアリーシャの姿に、ウォーレンは信じられないといった顔になる。

「私だって屈辱的だよ。ウォーレンがこんなに思い悩んで惨めな姿になって、みんないたたまれなくなってテントにいられない状況になって……それでもこの案に賛成してくれたよ? 自分のプライドをかなぐり捨ててでも、パーティーのためにって! それがどうして、どうしてわからないの……!?」

「……」

 ウォーレンはしばらく無言でうつむいていたが、まもなく意を決した様子でアリーシャの瞳を真っすぐに見つめた。

「わかったよ……。ごめん、みんなの痛みに気付けなくて。何より大事なアリーシャの気持ちに……」

「よかった……。私の気持ちをわかってくれて。ウォーレン大好きっ」

 涙を浮かべながら唇を重ね合う二人。

「ん……でも、その案はいいとしてもさ、リューイのやつが易々と戻ってくるとは思えないんだけど……」

「それについても考えたから、耳を貸してっ」

「……なるほど、そりゃいい……」

「でしょっ」

 アリーシャから耳打ちされたウォーレンの目が怪しく光った。
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