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第十四話 意外性
しおりを挟む「ヌハハハハッ! シルウ、蛆虫の子供を産む気分はどうだ!? ――あ……」
俺はベッドで枕を抱きしめていた。ちっ、夢だったか……。いいところだったのになあ。とはいえ、所詮は夢。この続きは現実で見たいもんだ。さて、もう起きるか。
「……」
洗面所で顔を洗おうとして、鏡に映った自分の顔に驚く。やはりまだ慣れない。このもっさりした髭が特に違和感あるんだ。というわけで剃刀で綺麗に剃ってやった。
おお……随分さっぱりしたな。これでサボテンなんて呼ばれることもなくなるだろう。さて、これからどうするか。あ、そうだ。ミケに俺のことを話さないといけないんだったな。なんだか無性に自分のことを話したくなってるんだから不思議なもんだ。
「おーい、ミケ。起きるぞー」
そっと押入れを開けたが、中には誰もいなかった。あれ? 散歩にでも行ってるんだろうか。ん? 外でなんか声がするような……。偉く威勢のいい声だな……って、これミケの声じゃないか。
「――はあぁっ。せいっ……!」
「……」
何してるんだろうと思って窓から覗いてみると、ミケが輝く汗とお下げ髪を飛ばしながら朝の空気と戦っていた。な、なんだ……この小さな体から次々と繰り出されるキックとパンチの驚くべき俊敏さ、切れの良さは。これ、絶対体術鍛錬5以上はあるだろ……。
「み、ミケ、おはよう」
「……あ、おはようです……って、ケイスさん、お髭剃っちゃったんですか?」
「あ、ああ。どうも慣れなくてね」
「お髭も良かったですけど、今の姿のほうがさっぱりしてていいですよ……って、あああ、見られちゃいましたね……」
ミケのやつ、はっとした顔になったかと思うとしょげ返ってしまった。習得技術を非公開にしていたのと何か関係があるんだろうか。
「見たよ。凄かった。体術鍛錬5はあるでしょ」
「……7です」
「おおお……。そんなに凄いのになんで非公開にしてるんだ?」
「……えっと、女の子はか弱いほうがお誘いも来やすいと聞いたので、それで……」
「……な、なるほど」
だからルザークとかいう変な虫が寄ってきたんだな。虫繋がりで今は俺が入ってるけど……。
「その……がっかりしちゃいましたか?」
ミケが上目遣いで見てきた。シルウのほうが断然破壊力があるが、ミケもなかなか良いな。
「大丈夫。か弱いのはベッドの上だけでいいんだよ」
「良かった! ……そのときは頑張ります……」
「……」
冗談で言ったのに真に受けてそうだ。これじゃあ俺がドスケベロリコン大魔神みたいじゃないか……。
「あのさ、俺のこと話すよ」
「……あ、そうでした。聞きたいです、ケイスさんのこと、もっと……」
「……」
「――と、こういうわけなんだ……」
俺はできるだけ簡潔に今までの経緯を話した。シルウたちに騙されるまでは割としょうもない人生を送ってきたので、そこはなるべく省略して。見栄っ張りかもしれないが、あそこまでミケに期待感溢れる眼差しで見つめられるとな……。
「……ケイスさん」
ミケのやつ、感情的になるかと思ったら驚くほど平然としてた。まあ、騙された俺も非がないとは言えないしな。あまり同情できないと思ったのかもしれない。
「ぶっ潰しましょう」
「……え?」
「『サンクチュアリ』を全滅させるんです……」
「……」
まさか、ミケからこんな物騒な言葉が出るなんて……。さっき俺に鍛錬の様子を見られたから吹っ切れたのかな?
「許せないですね。人間じゃないです。人を玩具にして殺すなんて……」
「あ、ああ……」
この状況でそのマスターに惚れてるなんて言いだせるはずもない。あとのやつらはどうでもいいがシルウだけは生かしてやるんだ。やつには俺と結婚するっていう生き地獄を味わってもらう……。
「ってことは、あの噂は本当だったんですね……」
「あの噂?」
「『ダンジョンに行こう』の冒険者交流掲示板に『サンクチュアリ』の評判が書かれてました。マスターのシルウって人が性格に問題ありそうだとか……」
「……ああ、あそこか」
以前、一度だけ覗いたことがあるが、大手ギルドの身内ネタばかりでさっぱりわけがわからなくてすぐ閉じた覚えがある。
「あ、その手がありました!」
「ん?」
「今回、ケイスさんがされたことをあそこに書き込みましょう!」
「ちょ、ちょっと、それはダメだって!」
ミケがポケットからタブレットを取り出したので慌てて制する。
「え、どうしてですか? 私、悔しくてしょうがないです……」
「……掲示板は所詮掲示板だからな。悪口で『サンクチュアリ』に恥をかかせることはできても、潰すことは難しい。組織力が違いすぎるし、下手に突っ込めばこっちの情報を掴まれる恐れもある。徹底的に壊すためにも、今は泳がせておくんだ」
「……そう、ですね。ごめんなさい、早とちりしちゃいました……」
「いや、なんか嬉しかったよ」
「え?」
「俺のために悔しがってくれたから」
「……だって、ケイスさん凄くいい人だから……。私、羨ましいです。ケイスさんが片思いしてる人が」
「……」
「きっと素敵な人なんでしょうね……」
ミケには絶対言えないな。それが『サンクチュアリ』のマスター、シルウであることは……。
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