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第十五話 別離
しおりを挟む「ごめんなさい……」
「……いいよ、別に」
急に憲兵たちが来て、俺とミケはアパート『紡ぎ歌』から強制的に追い出されてしまった。
ミケが言うには、今月分の家賃が払えなくて一日だけ部屋を借りている状況だったとのこと。そのことを忘れてしまっていたようだ
「どうせダンジョンに行く予定だったからな。そこで稼げばいい」
「はい……。ケイスさんの足手まといにならないように頑張ります!」
「ああ、その意気だ」
「ところで、何階まで行く予定なんですか?」
「できればボス部屋まで行きたいね」
「えええっ!?」
ミケが驚くのも無理ないか。最初のボス部屋でも地下10階にあるわけだし、初心者にはかなり遠く感じるはずだ。それでもボスを倒すことで奥に現れる転送ポイントのある部屋に行けば、次は地下11階からスタートできる。
「なんでそんな深いところまで……」
「そりゃ、ギルドを作るためだよ」
「ぎ、ギルド……?」
「ああ」
ボスを倒すと名声ポイントというものが手に入る。これがあればマスターとしての資格があるとみなされ、冒険者登録所でギルドを立ち上げられる仕組みになっているんだ。
「どうしてギルドを作るんですか……?」
「ギルドが出来れば同士を集めやすくなる。二人で『サンクチュアリ』を倒せるほど甘くないからな」
「た、確かに……」
どう考えてもギルドを作るメリットは大きい。
パーティーも同じように互いを強く攻撃できないうえ、悪影響を及ぼすスキルも適用されない仕組みだが、タブレットを操作すればいつでもメンバーの追放、脱退が可能なため、裏切るのは容易いのだ。
それに比べてギルドを抜けるには当然ギルドマスターの許可が必要だし、勝手に抜ける場合にも登録所で直接ギルド脱退申請書と手数料を提出しないといけない。その際には一応登録所からマスターに報告が入るんだ。
しばらくしてダンジョンへと続く例の階段が見えてきた。そういや、昨日は『サンクチュアリ』のメンバーと一緒だったんだよな。あれからまだ一日しか経ってないことに驚く。あまりにも濃厚な時間を過ごしたからか……。
もしかしたらやつらがいるかもしれない……と思ったが、その気配はない。マガレットの姿を隠すスキルとかあるから実際はどうかわからないが、仮に見られたとしてもなんの問題もない……ん? 誰か近寄ってくる。赤い髪の毛の合間に見える大きな胸を揺らしながら、眉間にしわを寄せて。
「おいサボテン。一体どういうことなんだい」
「え?」
サボテンって……ああ、ルザークのことか。この胸の大きな女の人もルザークのパーティーメンバーだったのかな?
「どういうことって?」
「とぼけるんじゃないよ! 何度連絡入れても拒否しやがってるし……ここで待ってたら案の定……」
……どうやら受信拒否したことを凄く怒ってらっしゃるみたいだ。しかも待ち伏せしてたみたいだし……この人って、もしかしてルザークの恋人かなんかだろうか?
「あんだけ気に入ってた髭もごっそり剃っちゃってさ……。どうせ他に女でもできたんだろ!?」
「……」
参ったな。思わぬ足止めを食らってしまった。しかもしつこそうだ。ルザークには悪いが、ここで関係を切ってしまおう。浮気相手がいると堂々と言ってしまえばいいんじゃないか? ちょうどミケがいるし。変わった性癖だと思われるような気もするがまあいいや。実際食おうとしてたみたいだしな。
「ああ、できたよ」
「……へえ。やるじゃん、サボテン……。盛大に祝ってやるから、早くあたしにその新しい自慢の彼女とやらを紹介しな!」
「……ここにいるよ」
「はあ?」
「……うぅ」
ミケが女に睨まれてさらに小さくなってしまったが、見せつけるように手をつないでやった。
「この子が俺の恋人――ぶはっ!」
言い終わる前に元恋人のビンタを食らってしまった。な……何これ、すんごく痛い。まだ頬がピリピリする……。
「な、なんてことをするんですか!」
お、ミケもさすがに怒ったか。
「サボテン。あんたね、これが恋人……? 冗談にしても悪質じゃないのかい。こんなガキが恋人だなんて!」
「……う、うぅぅ……」
ミケ、かなりのダメージだったのか涙目になってどんどん小さくなってる……。
「……呆れたわ。どこの女が産んだガキなのか知らないけどさ、それをダシにして言い逃れようなんて……まったく、ふざけんじゃねえって話だよ。まあいいわ。今日でお別れってことにしといてあげるよ、こん畜生っ!」
「……」
ふう。思ったよりあっさり引き下がってくれたな。でも、ちょっと目尻に光るものが見えたから、後ろ髪を引かれる思いはあったのかもしれない。
「……酷いですね、あの人。私がケイスさんの浮気相手の子供に見えるなんて……」
ミケが頬を膨らませてる。まあ確かにそう見られてもおかしくはない。
「でも、ケイスさんに恋人だと言ってもらえて本当に嬉しかったです」
「あ、あれは……」
「わかってますよ。嘘でも嬉しいんです……」
「……」
ミケが俺の手を強く握るのがわかった。……さっきまでとは違って、遠くを見る彼女の目が輝いて見える。
「でも、今の俺たちなら本当の恋人に見えるかもしれないな……」
「ええ……?」
「今の表情、大人っぽかったから……」
「ほ、本当ですか?」
「ああ」
「えっと、こうですかね?」
「……ププッ」
ミケが無理矢理きりっとした顔を作ったもんだから笑ってしまった。
「あー、笑いましたねえ? 酷いですよー」
「ごめんごめん。ミケは自然体でいるほうが一番が可愛いよ」
「か、可愛いだなんて……わーい!」
よっぽど嬉しかったのか、ぴょんぴょんと俺の周りを飛び跳ねるミケ。一瞬だけ大人になったが、まだまだ子供のようだ。
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