外れスキル【転送】が最強だった件

名無し

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第十九話 膨張

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「あの……あなたがアザレアさん?」
「そうよ」
「もしかして……一度会ったことあるかな?」
「……あるわよ。忘れちゃった?」
「……あ……」

 そうだ。ルザークの元恋人だ。胸あたりまであったはずの髪が、ごっそりカットされていたせいで気付かなかった。

「ようやく思い出してくれたようねえ……」
「う……?」

 俺はひざまずいた。え、今体が勝手に動いたぞ。しかも立ち上がれない。なんなんだこれ……。

「そんな幼い見た目で、まさか15歳以上だったとはね。本当にサボテンと恋人気分だったのかい、このマセガキ……」

 物凄い怒りを感じる。あのとき以上だ……。もしかしてこれ、殺すつもりじゃないか……?

「ま、それでもあたしのこと思い出してくれたからさ、ご褒美に苦痛を感じないようにさっさとぶち殺してやるよ。クソガキ……」

 やっぱりそうだ……。多分このひざまずいた状態も、アザレアのスキルによるものだろうな。

「さあ、出ておいで」
「……ケケケ……」

 植木を大きくかき分けて太った男が入ってきた。その両手には斧が握られ、右足には包帯を巻いている。

 あああ、あいつか。確かルザークの仲間だったバルテスってやつだ。

「ミケ……俺を覚えてんだろ。もうやっちまったのか? あいつと……」
「あいつ?」
「しらばくっれるんじゃねえ! てめえの幼いアソコにやつのサボテンをぶち込んだかを聞いてんだよおぉっ!」
「……」

 なんてことを言うんだこいつは……。

 しかも目を血走らせて凄い形相になっている。頭から湯気が出てるんじゃないか? というか、サボテンってまさかそういう意味だったのか。そんなの知りたくもなかった……。

「びびらねえ、か。そうか、やっちまったんだな……」
「え……?」

 なんか勝手に解釈されてしまった。そのうえ、気が抜けた表情で両手をだらりと下げて凄く落ち込んでる様子だ。

「バルテス、だから言っただろ。サボテンはそういうやつなんだよ」
「ち、チックショウ……。殺す前によお、処女を思う存分味わいたかったってのに……」

 なるほど……。ルザークにミケを奪われた腹いせに、犯した挙句殺すつもりだったわけか。どこまでもおぞましいやつだ。んで、ミケにルザークを奪われたと思っているアザレアと思惑が一致した、と……。

「ガキとはいえ、中古品には興味がねえ。この得物でぶった切ってやる……」

 バルテスの斧が見る見る膨張していく。

「――くっ!」

 巨大な刃が唸りをあげたとき、魔法陣が輝いて俺の体は座ったまま公園の隅まで【転送】した。

 あ、あぶなっ……少しでも足が使えないという事実を忘れていたら真っ二つだった……。

 というか、周りの高い植木のせいで視界が極端に制限されていて、ただでさえ狭い【転送】の範囲がさらに狭隘なものになってしまった。

「バルテス、このガキ変なスキル使いやがったよ! 役立たずじゃなかったのかい!? 」
「……こ、こんなの聞いてねえ。……あ、そういや習得技術のところが非公開になってたな……」
「じゃあ、今のは魔術だっていうのかい? そうか……それでサボテンをたぶらかしやがったんだね!」
「……」

 なんでそうなる……。

 というか、魔術鍛錬というのは確かにあるが、どれだけ鍛えようが【転送】のようなことも、たぶらかすこともできないはず。剣術や体術にも言えることだが、よほど強化しない限りスキルを活かすための脇役に過ぎない。

「そうか。そういうことかよ……。最初からッ、最初からルザークとミケはできてやがったんだ……。チキショウ……チッキショオオォォッ!」

 バルテスがさらに怒り狂った様子で斧を振り回しながら突進してきた。当然だが、俺はやつが自分勝手なことを言い始めたときからもう既に【転送】の準備をしている。

「じにぇえええええええぇッッ!」

 顔真っ赤のバルテスが俺の代わりに切り落としたのは周りの植木だ。視野が広くなってこちらとしては助かる。

「どこ狙ってるんだい、このすっとこどっこい!」
「うるせええぇ! 引っ込んでろこのババアッ!」
「な、な……まだ24歳になったばかりのあたしに向かって、言ってくれたねえぇ、こんの薄汚い脂肪の塊が!」
「……んだと……?」
「……何さ……?」

 ……今度は口論が始まった。よし、これを利用しない手はないぞ。【転送】を発動させ、アザレアの背後に移動する。

「――ちきしょおおおおおっ!」
「ひっ……」

 バルテスがアザレアごと真っ二つにする勢いで俺の目前に迫った頃にはもう【転送】が完了していた。

「……ば、バルテス……」
「フン……何ビビッてんだ、アザレア。俺らパーティーだろうが……」

 アザレア、今ので相当肝を冷やしたのか、真っ青になってバルテスを睨みつけている。

 いくらパーティーの制限でメンバーにはほぼノーダメージになる仕組みとはいえ、重圧は感じるからな。しかもパーティーなんて目を離した隙にすぐ抜けられるわけだし。

「わ、わかったからそいつをやっちまいな!」
「……やるとも。言われなくてもなあ……」

 やはりそうだ。疑心暗鬼に陥ったのか、アザレアがタブレットを操作し始めた。バルテスが俺のほうを向いた直後のことだ。離間の計が成功したに違いない。

 もちろん、この絶好のチャンスを逃すわけにもいかない。腹を揺らして向かってくるバルテスをあざ笑うように【転送】が発動し、手元が忙しいアザレアの背後まで飛んだ。

「――うごっ!?」

【転送】した直後は若干硬直するが、それでも余所見してるアザレアの下っ腹を拳で突き上げるには充分な時間があった。この体が小さいうえに座ったままなので、距離に関しては結構ぎりぎりだったが……。

「……て、てんめええぇぇッ!」

 アザレアがやられたことにようやく気付いたバルテスが猛然と迫ってきたが、簡単にかわした。厄介な座り状態が解除されたので、もう【転送】を使う必要すらない。

「うがっ ぎひっ! げほおぉっ」

 それからはもう一方的に俺のターンだった。やつが単調に振り回すだけの斧に当たるはずもなく、一方的に肉壁を殴る、蹴るの繰り返し。

「……はぁ、はぁ……」

 だが、何か様子がおかしい。こいつ、タフすぎだろ。いつ倒れるんだ……? しかも、なんかこっちがフラフラしてきたんだが……。

 そういや、ミケってほとんど食べてなかったような気がする。それでパワーが出ないのか。というか体格も違いすぎる。効いてたのなんて最初くらいで、徐々にバルテスの俺を見る目つきが変わっていったからな。

 今では俺が弱ってることがわかるらしく、にんまりとした顔で舌なめずりまでしてきやがった。猛烈に嫌な予感がする……。
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