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第二五話 辱
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「……ぐー、がーー……」
気持ちよさげに大の字になったエリンのイビキが大聖堂にこだまする。さすがにもう深夜という時間帯もあって、長椅子の半分を占拠しても許されていた。
ここに来て2時間ほど経ったが、永眠したファルナスへの面会は未だ果たせていない。
身内からの許可は得たものの、立ち会うことが条件ということで、遠方から馬車ではるばる王都までやってくるのをじっと待つしかなかったのだ。転送ポイントが使えればいいんだが、あるのは王都くらいだからな。あれを設置するには相当な費用と年月が必要らしい。
「ミケちゃんも寝とくか? 来たら起こしてやるぜ」
「いやいや、我慢しとく」
「へっへっへ。まあ頑張りな……」
正直俺も眠いが、こんなところで寝たら目をギラつかせたルザークに悪戯されるのは目に見えてるからな。
「――お、来たみたいだぜ」
「ようやくか……」
まっすぐこっちに向かってくる少女に目をやる。黒いドレスの裾まで銀色の髪が届いた少女だ。あれがファルナスの身内っぽいな。こっちがウトウトしてるのが申し訳なくなるくらい凛とした顔立ちをしている。
「お待たせしました。ファルナス様に祈りを捧げたいと言うのはあなた方ですね」
「あ、ああ」
「私はカトリーヌと申します。よろしく」
「よろしく。俺はケイ……じゃなくて、私はミケと申します。そこで寝ちゃってるのはエリンという者です」
「んで、俺はルザークだ。よろしく頼むぜ……あ……」
ルザークが俺に続いてカトリーヌと握手しようとしたが、スルーされてしまった。男が苦手なんだろうか?
「……振られたな、ルザーク」
「へっ。照れてるだけだろ」
小声での応酬。ルザークのドスケベな本性を見抜かれたんだろうか。
「さあ、礼拝堂へ参りましょうか。こちらへ」
「あ、ちょっと待って……。ルザーク、エリンを頼む」
「へいへい」
◇◇◇
「さあ、祈りを捧げましょう……」
礼拝堂の祭壇奥に並べられた幾つもの棺。その中にファルナスが眠る棺があるというが、顔を拝むことはおろか、近づくことさえ他人にはできないそうだ。だから俺たちは祭壇の前で二の足を踏む羽目になっていた。冗談じゃない。これじゃ一体なんのためにここまで来たのか……。
「あ、あの、カトリーヌさん……」
「どうしました? ミケさん。もうお祈りは終えられたのですか」
「いや、その……一瞬だけでもファルナス様のお顔を見ることはできないんでしょうか……?」
「なにゆえ顔を見る必要があるのです?」
「それは……」
丁寧な口調だが、刃のような切れ味があった。納得いく言葉で弾き返せなかった場合、もうチャンスすらなくなりそうだ。
「おい、もうやっちまうか?」
「いや、まだ待て」
「おうよ」
耳打ちしてきたルザークの気持ちはわかるが、それは最終手段だ。それに、ずっと感じていることだが……多分、このカトリーヌとかいうやつ、凄く強い。それがわかるからなるべく強硬突破は避けたかった。
「私は、顔が見たいというより、表情が見たいんです」
「……表情?」
それまで表情がまったく変わらなかったカトリーヌが目を丸くした。よほど予想外だったのか。
「強大な敵と戦ったファルナス様は、きっと最後まで勇敢な表情をしていたと思うのです」
「……当然です」
「ところが、ここにいるルザークとかいう私の愚かな相方はそれが信じがたいというのです……」
「……なんですって?」
うわ、カトリーヌが明らかに怒ってる。てっきり無表情タイプとばかり思っていたが、割と表情に出やすいタイプなのかもしれない……。
「だ、だってそうだろうがよ? いくら強いやつだからって、やられるときは半べそかいてたんじゃねえかって――」
「お黙りなさい!」
う、うわ……。思わず尻餅をついてしまうほどの怒鳴り声だった。
「……な、ななな、なんなのだ?」
熟睡していたエリンまで目を覚ましてしまった。
「……これ以上、ファルナス様を侮辱するのは絶対に許しません……」
「あ、あのっ。私もそう思います。だから、ファルナス様の顔を一瞬だけでも見せてやることで、このバカ男に思い知らせてやりたいんです……」
「……いいでしょう。そこのバカ男に思い知らせてやりますとも……徹底的にっ……」
カトリーヌが真っ赤な顔で袖を捲り上げて棺のほうに向かってる。よし、俺の作戦は上手くいったようだな……って、ルザークから不満そうに脇腹を肘で突かれた。
「いったあ……。何すんだよバカ男……」
「……乗ってやってんのに酷い言われようだな、オイ……。しまいにゃ帰るぞ……」
「い、いや待てルザーク。俺のケツを特別に触らせてやるから我慢しろ」
「おいおい、それお前のじゃねえだろ」
「そうだが……ひっ!? や、やっぱり触るんだな……」
「そりゃなあ……相方だもんな? ヘヘッ……」
「……う、うぅ……」
こいつの尻の撫で方、途轍もなく気持ち悪いが今だけの我慢、我慢だ……。
気持ちよさげに大の字になったエリンのイビキが大聖堂にこだまする。さすがにもう深夜という時間帯もあって、長椅子の半分を占拠しても許されていた。
ここに来て2時間ほど経ったが、永眠したファルナスへの面会は未だ果たせていない。
身内からの許可は得たものの、立ち会うことが条件ということで、遠方から馬車ではるばる王都までやってくるのをじっと待つしかなかったのだ。転送ポイントが使えればいいんだが、あるのは王都くらいだからな。あれを設置するには相当な費用と年月が必要らしい。
「ミケちゃんも寝とくか? 来たら起こしてやるぜ」
「いやいや、我慢しとく」
「へっへっへ。まあ頑張りな……」
正直俺も眠いが、こんなところで寝たら目をギラつかせたルザークに悪戯されるのは目に見えてるからな。
「――お、来たみたいだぜ」
「ようやくか……」
まっすぐこっちに向かってくる少女に目をやる。黒いドレスの裾まで銀色の髪が届いた少女だ。あれがファルナスの身内っぽいな。こっちがウトウトしてるのが申し訳なくなるくらい凛とした顔立ちをしている。
「お待たせしました。ファルナス様に祈りを捧げたいと言うのはあなた方ですね」
「あ、ああ」
「私はカトリーヌと申します。よろしく」
「よろしく。俺はケイ……じゃなくて、私はミケと申します。そこで寝ちゃってるのはエリンという者です」
「んで、俺はルザークだ。よろしく頼むぜ……あ……」
ルザークが俺に続いてカトリーヌと握手しようとしたが、スルーされてしまった。男が苦手なんだろうか?
「……振られたな、ルザーク」
「へっ。照れてるだけだろ」
小声での応酬。ルザークのドスケベな本性を見抜かれたんだろうか。
「さあ、礼拝堂へ参りましょうか。こちらへ」
「あ、ちょっと待って……。ルザーク、エリンを頼む」
「へいへい」
◇◇◇
「さあ、祈りを捧げましょう……」
礼拝堂の祭壇奥に並べられた幾つもの棺。その中にファルナスが眠る棺があるというが、顔を拝むことはおろか、近づくことさえ他人にはできないそうだ。だから俺たちは祭壇の前で二の足を踏む羽目になっていた。冗談じゃない。これじゃ一体なんのためにここまで来たのか……。
「あ、あの、カトリーヌさん……」
「どうしました? ミケさん。もうお祈りは終えられたのですか」
「いや、その……一瞬だけでもファルナス様のお顔を見ることはできないんでしょうか……?」
「なにゆえ顔を見る必要があるのです?」
「それは……」
丁寧な口調だが、刃のような切れ味があった。納得いく言葉で弾き返せなかった場合、もうチャンスすらなくなりそうだ。
「おい、もうやっちまうか?」
「いや、まだ待て」
「おうよ」
耳打ちしてきたルザークの気持ちはわかるが、それは最終手段だ。それに、ずっと感じていることだが……多分、このカトリーヌとかいうやつ、凄く強い。それがわかるからなるべく強硬突破は避けたかった。
「私は、顔が見たいというより、表情が見たいんです」
「……表情?」
それまで表情がまったく変わらなかったカトリーヌが目を丸くした。よほど予想外だったのか。
「強大な敵と戦ったファルナス様は、きっと最後まで勇敢な表情をしていたと思うのです」
「……当然です」
「ところが、ここにいるルザークとかいう私の愚かな相方はそれが信じがたいというのです……」
「……なんですって?」
うわ、カトリーヌが明らかに怒ってる。てっきり無表情タイプとばかり思っていたが、割と表情に出やすいタイプなのかもしれない……。
「だ、だってそうだろうがよ? いくら強いやつだからって、やられるときは半べそかいてたんじゃねえかって――」
「お黙りなさい!」
う、うわ……。思わず尻餅をついてしまうほどの怒鳴り声だった。
「……な、ななな、なんなのだ?」
熟睡していたエリンまで目を覚ましてしまった。
「……これ以上、ファルナス様を侮辱するのは絶対に許しません……」
「あ、あのっ。私もそう思います。だから、ファルナス様の顔を一瞬だけでも見せてやることで、このバカ男に思い知らせてやりたいんです……」
「……いいでしょう。そこのバカ男に思い知らせてやりますとも……徹底的にっ……」
カトリーヌが真っ赤な顔で袖を捲り上げて棺のほうに向かってる。よし、俺の作戦は上手くいったようだな……って、ルザークから不満そうに脇腹を肘で突かれた。
「いったあ……。何すんだよバカ男……」
「……乗ってやってんのに酷い言われようだな、オイ……。しまいにゃ帰るぞ……」
「い、いや待てルザーク。俺のケツを特別に触らせてやるから我慢しろ」
「おいおい、それお前のじゃねえだろ」
「そうだが……ひっ!? や、やっぱり触るんだな……」
「そりゃなあ……相方だもんな? ヘヘッ……」
「……う、うぅ……」
こいつの尻の撫で方、途轍もなく気持ち悪いが今だけの我慢、我慢だ……。
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