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第二六話 間隙
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「……はぁ、はぁ……」
荒い息が礼拝堂を支配する。凄い。凄すぎる……。
「や、やべえ……!」
ルザークが淫らな手の動きを止めて硬直するのがわかる。それもそのはず。カトリーヌが自身の倍ほどはある棺を持ち上げて、祭壇の上まで一気に運んでしまったのだ。あんな華奢な体のどこにそんなパワーが潜んでいたのか……。
「す、凄いのだっ……」
「これは見世物じゃありません!」
「あひぃ!」
エリンが拍手するも、カトリーヌにギロリと睨まれてしゃがみこんでしまった。
「では、どうぞご覧なさい。ファルナス様がいかに聡明で勇敢な方だったかを、その目に焼き付けてさしあげます……」
叫び声のような高音を立てて棺がゆっくりと開かれていく。
こっちが一瞬だけでもとお願いした以上、カトリーヌはすぐに棺を閉じてしまう可能性が高いように思う。それならチャンスは今しかない。頼む、どうかバレないでくれ……。
俺は意を決して【転送】を起動させると、足元に魔法陣が浮かび上がった。あとは意識の移動先だ。失敗は許されない。開かれた棺の隙間に目を凝らすと、仰向けの状態で青年が眠っていた。とても安らかな表情をしてるし、いつ起き出してもおかしくないくらい顔色もよかった。
「……もう閉めます。本当はこういうことはしたくなかったのですが、あらぬ汚名を着せられた以上、晴らすのが私の役目ですから」
顔を見たと思ったらもう棺が閉ざされてしまった。……視界は真っ暗だ。危なかった。カトリーヌが棺を開けていたのは、やはり一瞬に近いくらいの短さだった。
「あら? ミケさん?」
抜け殻のミケが倒れたっぽいな。あとはルザークに上手くやってもらうしかない。
「あぁ、眠っただけだから問題ねえ。こいつ、めっちゃ疲れてたからよ……」
「……そうでしたか。ゆっくり休ませてあげてください。それで、ちゃんとファルナス様のお姿は拝見されましたか?」
「ん? あ、ああ。カトリーヌちゃんの言う通りで感動したぜ……」
「それはそうでしょう……って、ちゃん付けはやめてください!」
「そ、そう怒るなって……わかったからよ……」
……さすがのルザークもカトリーヌの前じゃたじたじらしい。でも、決行の前に示し合わせた通りちゃんと気を引いてくれないと困る。じゃないとここから出られないからな。
「あ、あのよ……」
「なんです? もうお祈りも確認作業も済ませたはずです」
「カトリーヌのことがよお、好きになっちゃったみたいでよ……」
「……え、えええ……?」
「だ、大胆告白なのだっ。これが噂の一目惚れというやつか……」
エリンも話題に乗ってるな。いいぞ……。棺をそっと開こうとしたが、例の高音が鳴ってしまった。まずい……。
「え、えっと、その……わ、私、その……」
……よかった。それどころじゃないっぽい。
カトリーヌのやつ、ルザークの告白に対して偉く動揺しちゃってるみたいだ。シャイとかいうレベルじゃないなこれは……っと、こっちはこっちで今のうちに作業を進めないと。さらにゆっくり慎重に開ける必要がある。【転送】でここから脱出するために、ほんの少し視界を確保するだけでいいわけだし、1ミリずつ開けていく感覚でいい……。
「だ、男性との、お、お付き合いは、し、したことなくて……」
「……」
微かな隙間からカトリーヌの震える肩が見える。既に【転送】を展開していたため、あとは場所を指定するだけでよかった。お、ルザークがこっちをちらっと見て目配せしたあと、カトリーヌに抱き付いた。よし、今だ。棺の真横に出て、視界が一気に明るくなる。
「おやめください!」
「どわ!」
ルザークが弾き飛ばされている間に祭壇の後ろに回り込んだ。いいぞ……今のところ順調だ。
「……いてて。力強すぎだろカトリーヌよお……」
「いきなり抱き付くようなことをするからです! ……というか、ルザークさん、あなたの行動、明らかに変ですよね」
ん? なんか様子がおかしいな。カトリーヌの喋り方も落ち着いてきてる。まさか……。
「……な、なんのことだよ?」
「まるで何かから私の目を逸らそうとしているようにも見えました。違いますか?」
「んなわけ……」
「……う……」
「そこの方の怯えようがいい証拠のように思えますが……」
「な、何を言うのだ。何も隠してはいないぞ!」
「隠す?」
「……あわわ……」
……エリンのやつ、墓穴掘っちゃってるし……絶対嘘つくの苦手なタイプだな……。
「どうやらほかに仲間がいらっしゃるみたいですね。その目的は……死体泥棒ですか?」
ダメだ。バレてしまった……。
「バレちまったらしょうがねえ!」
鋭い音がしたかと思うと、ルザークの短剣が俺の足元まで転がってきて消えた。どうやらカトリーヌに弾き飛ばされたみたいだ。
「ちょっと痛みますよ」
「……ぐお……」
「そこの方も歯向かいますか?」
「こ、降参なのだ……」
ルザーク、一瞬でやられちまったのか。エリンも降参するの速すぎだろ……。それだけカトリーヌのやつが強すぎるってことか。
「さあ、もう一人の方、いるんでしょう? 出てきなさい。抵抗するなら、ルザークさんのようにお仕置きしてさしあげます」
「……」
死体泥棒は重罪だし、大人しく投降なんかしたら憲兵に突き出されてしまう。そうなれば【転送】のことも広く知られることになるだろう。評判はとことん地に落ち、長い牢獄生活の中で何度も拷問されるだろう。今までの苦労が水の泡というか、人生自体が詰みそうだ。
「こちらから迎えに行きましょうか?」
……折角ここまで来たわけだし戦うしかないな。色々錆び付いてそうだし、武器もないうえにスキルの扱い方も知らないわけだが、ボスを一撃で倒せるファルナスの体ならカトリーヌに勝てるかもしれない……。
荒い息が礼拝堂を支配する。凄い。凄すぎる……。
「や、やべえ……!」
ルザークが淫らな手の動きを止めて硬直するのがわかる。それもそのはず。カトリーヌが自身の倍ほどはある棺を持ち上げて、祭壇の上まで一気に運んでしまったのだ。あんな華奢な体のどこにそんなパワーが潜んでいたのか……。
「す、凄いのだっ……」
「これは見世物じゃありません!」
「あひぃ!」
エリンが拍手するも、カトリーヌにギロリと睨まれてしゃがみこんでしまった。
「では、どうぞご覧なさい。ファルナス様がいかに聡明で勇敢な方だったかを、その目に焼き付けてさしあげます……」
叫び声のような高音を立てて棺がゆっくりと開かれていく。
こっちが一瞬だけでもとお願いした以上、カトリーヌはすぐに棺を閉じてしまう可能性が高いように思う。それならチャンスは今しかない。頼む、どうかバレないでくれ……。
俺は意を決して【転送】を起動させると、足元に魔法陣が浮かび上がった。あとは意識の移動先だ。失敗は許されない。開かれた棺の隙間に目を凝らすと、仰向けの状態で青年が眠っていた。とても安らかな表情をしてるし、いつ起き出してもおかしくないくらい顔色もよかった。
「……もう閉めます。本当はこういうことはしたくなかったのですが、あらぬ汚名を着せられた以上、晴らすのが私の役目ですから」
顔を見たと思ったらもう棺が閉ざされてしまった。……視界は真っ暗だ。危なかった。カトリーヌが棺を開けていたのは、やはり一瞬に近いくらいの短さだった。
「あら? ミケさん?」
抜け殻のミケが倒れたっぽいな。あとはルザークに上手くやってもらうしかない。
「あぁ、眠っただけだから問題ねえ。こいつ、めっちゃ疲れてたからよ……」
「……そうでしたか。ゆっくり休ませてあげてください。それで、ちゃんとファルナス様のお姿は拝見されましたか?」
「ん? あ、ああ。カトリーヌちゃんの言う通りで感動したぜ……」
「それはそうでしょう……って、ちゃん付けはやめてください!」
「そ、そう怒るなって……わかったからよ……」
……さすがのルザークもカトリーヌの前じゃたじたじらしい。でも、決行の前に示し合わせた通りちゃんと気を引いてくれないと困る。じゃないとここから出られないからな。
「あ、あのよ……」
「なんです? もうお祈りも確認作業も済ませたはずです」
「カトリーヌのことがよお、好きになっちゃったみたいでよ……」
「……え、えええ……?」
「だ、大胆告白なのだっ。これが噂の一目惚れというやつか……」
エリンも話題に乗ってるな。いいぞ……。棺をそっと開こうとしたが、例の高音が鳴ってしまった。まずい……。
「え、えっと、その……わ、私、その……」
……よかった。それどころじゃないっぽい。
カトリーヌのやつ、ルザークの告白に対して偉く動揺しちゃってるみたいだ。シャイとかいうレベルじゃないなこれは……っと、こっちはこっちで今のうちに作業を進めないと。さらにゆっくり慎重に開ける必要がある。【転送】でここから脱出するために、ほんの少し視界を確保するだけでいいわけだし、1ミリずつ開けていく感覚でいい……。
「だ、男性との、お、お付き合いは、し、したことなくて……」
「……」
微かな隙間からカトリーヌの震える肩が見える。既に【転送】を展開していたため、あとは場所を指定するだけでよかった。お、ルザークがこっちをちらっと見て目配せしたあと、カトリーヌに抱き付いた。よし、今だ。棺の真横に出て、視界が一気に明るくなる。
「おやめください!」
「どわ!」
ルザークが弾き飛ばされている間に祭壇の後ろに回り込んだ。いいぞ……今のところ順調だ。
「……いてて。力強すぎだろカトリーヌよお……」
「いきなり抱き付くようなことをするからです! ……というか、ルザークさん、あなたの行動、明らかに変ですよね」
ん? なんか様子がおかしいな。カトリーヌの喋り方も落ち着いてきてる。まさか……。
「……な、なんのことだよ?」
「まるで何かから私の目を逸らそうとしているようにも見えました。違いますか?」
「んなわけ……」
「……う……」
「そこの方の怯えようがいい証拠のように思えますが……」
「な、何を言うのだ。何も隠してはいないぞ!」
「隠す?」
「……あわわ……」
……エリンのやつ、墓穴掘っちゃってるし……絶対嘘つくの苦手なタイプだな……。
「どうやらほかに仲間がいらっしゃるみたいですね。その目的は……死体泥棒ですか?」
ダメだ。バレてしまった……。
「バレちまったらしょうがねえ!」
鋭い音がしたかと思うと、ルザークの短剣が俺の足元まで転がってきて消えた。どうやらカトリーヌに弾き飛ばされたみたいだ。
「ちょっと痛みますよ」
「……ぐお……」
「そこの方も歯向かいますか?」
「こ、降参なのだ……」
ルザーク、一瞬でやられちまったのか。エリンも降参するの速すぎだろ……。それだけカトリーヌのやつが強すぎるってことか。
「さあ、もう一人の方、いるんでしょう? 出てきなさい。抵抗するなら、ルザークさんのようにお仕置きしてさしあげます」
「……」
死体泥棒は重罪だし、大人しく投降なんかしたら憲兵に突き出されてしまう。そうなれば【転送】のことも広く知られることになるだろう。評判はとことん地に落ち、長い牢獄生活の中で何度も拷問されるだろう。今までの苦労が水の泡というか、人生自体が詰みそうだ。
「こちらから迎えに行きましょうか?」
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