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第二七話 勝負
しおりを挟む俺は覚悟を決めて、祭壇の影から【転送】によってカトリーヌの後方に回った。
「――何やつ!」
一気に間合いを詰めて殴りかかるも、思ったより彼女の反応が速くてかわされた。というか、その際に足が縺れて転んでしまった。長い間眠っていただけあって、かなり筋力が低下しているようだ。当たり前のことなのに計算に入れてなかった。しくじった……。
「う、嘘……」
なのに、カトリーヌが攻撃してこない。それどころか真っ青になって戦意喪失気味の様子。
一体何故……って、そうか。俺が永眠していたはずのファルナスだからだ。ただ、身内であればすぐにそれが別人だと気付くだろう。そうなったら本当に終わってしまう。
俺は【転送】を展開させ、呆然と突っ立っている彼女の真横に移動する。硬直時間もすぐに終わり、顎目がけて肘を斜めに振り下ろす。頼む頼む頼む、当たってくれ……。
「――っ!」
ダメだ。普通にかわされてしまった……。
「ファルナス様が私を攻撃するはずがありません。何者か……。悪霊ならば出ていきなさい!」
カトリーヌの目に敵意が宿るのがわかる。まずいな。この悪い流れを早急に変えなくては……。
「――はっ……」
カトリーヌの足元に小さな火が現れたと思ったら、その背後にいたエリンの姿が忽然と消えた。これは、もしかして彼女の魔術とスキルによるものか……?
「くっ、どこに……」
火もすぐ消えたが、このラストチャンスを生かさないはずがない。既に俺はカトリーヌの背後に【転送】し、硬直時間も消化していた。
「うっ……」
振り返った彼女の顎先に俺の拳が掠り、目から光が消えるのがわかる。これだけ有利な状況でもぎりぎりだった。本当に恐ろしくなるほど反応が速いやつだ……。
「……ふう」
「あ……」
消えた場所からエリンがほっとした顔で出てきた。姿を消すことはできても、そこから移動はできないっぽいな。
「エリン、おかげで助かったよ。まさか魔術が使えるなんてな」
「て、照れるのだ……。でも、魔術鍛錬1だから大したことはないぞ?」
「1か……」
だからすぐ消えちゃったんだな。でも体術や剣術に比べると敷居が高いんだよな。最も才能が必要とされる分野だと言われている。
「あと、消えてたけどどんなスキルを使ったんだ?」
「あれは【空気】っていうスキルだっ」
「【空気】か……」
「見たいか、見たいかあ? ふふっ」
「……み、見たい」
「ならば特別に見せてやるのだ!」
エリンが意気揚々とタブレットを取り出す。聞いたことないが、いかにも外れっぽいスキルだな。まあこの際だから、どんな効果なのか見せてもらうことにしよう。
スキルの名称【空気】
種類:特殊系
精神力の消費:小
効果:自身のみ、姿を消すことができる。その間は一切動けなくなる。また、解除するまであらゆる干渉を受け付けない。
評価:Fランク
……なるほどなあ。確かにどう見ても外れスキルだが、精神力が持つ間は無敵状態になれるわけだ。今思えば、エリンがリンチされてもあの程度の怪我で済んだのって、もしかしたらこれのおかげでもあるのかもな。
「ふぅ。安心したら、なんだか眠くなってきたのだ……ふわあ」
……エリンの大きな欠伸を見てるとこっちまで眠くなってくる。そういやもう深夜どころの時間帯じゃないな。宿に戻るか……って、エリンのやつまで寝ちゃったわけだが……。これって、もしかして今起きてるの俺だけ……?
◇◇◇
「なあ、ケイス。本当にいいのか? こんなの連れてきちゃってよ」
【転送】を駆使して宿に戻る頃には、今もベッドでお休み中のエリンとカトリーヌを除いてみんな起きていた。
「ファルナスの中身が別人だって思われてる以上、放置すると色々まずいだろ」
「そりゃそうだがよ……」
「ルザーク……女好きのお前にとっちゃ歓迎だろ? どう見ても美少女だし」
「いや、俺はこういう重そうな女、どうも苦手だ。こんなのと付き合って、もし浮気でもしたらそれこそ殺されちまうぜ……」
……なるほど。確かに言われてみればそんな感じもする。ルザークは重いのが苦手なんだな。さすがに遊んでるだけある。
「なあ、ミケちゃんもそう思うよな?」
「……そ、そうですね」
「……」
ルザークに話を振られたミケだったが、いつもみたいに元気がなくて、笑顔もどこかぎこちなかった。
どうしちゃったんだろうな。一応これまでの事情は話したんだが、勝手に俺が体を乗っ取ったからいじけてる可能性もありそうだ。よし、ここは誠実に謝罪しとくか……。
「ちょっくら煙草吸ってくる」
「お、おいルザーク」
ルザークがあっという間に部屋から出て行ってしまった。さてはあいつ、気を遣いやがったな。
どうやら俺とミケが相思相愛だと勘違いしてるらしい。道理で俺の前じゃ尻を触らなかったわけだ。てか普通に謝ろうとしてたのに、これじゃ余計に緊張しちゃうだろ……。
「……み、ミケ」
「はい」
「……その、なんだ。許可なくお前の体を乗っ取ったのは、少しは悪かったと思ってる。すまん!」
「……え?」
「……ん?」
しばらく二人で固まってしまった。なんだ? ミケのやつ、きょとんとしてるんだが……。
「私……その分楽をしてしまったので、それでケイスさんやルザークさんに申し訳なく思っていたんです……」
「そ、それでか……」
「はい……。ごめんなさいをするタイミングを狙っていたら、逆に謝られちゃいました……私の負けです」
「……どんな勝負だ」
「へへ……」
すっかりいつもの明るいミケに戻っていた。この性格の良さ、本当にシルウとは真逆だな……。
「――う……」
おっ、カトリーヌが目覚めそうだ。この子を説得して仲間にできれば大きいし、これからが本当の勝負になる。
「よーし。ミケ、ルザークを呼んできてくれ。俺はエリンを叩き起こす」
「あ、はーい!」
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