外れスキル【転送】が最強だった件

名無し

文字の大きさ
28 / 50

第二八話 風

しおりを挟む

「――と、こういうわけなんだ」
「……」

 俺がこれまでの経緯を話している間、カトリーヌは首を垂れて押し黙っていた。何か思うことがあったのか、時折小さく首を横に振るくらいだった。

「あなた方のことはよくわかりました」

 真顔で俺たちのほうを見やるカトリーヌ。

 それでもまだ警戒心を携えている様子なのはありありと窺えた。まあそこはしょうがない。大事な人の体を勝手に乗っ取られたわけだし良い気分はしないだろう。

「正直、まだ凄く頭に来てます。できれば最初にそれを話してほしかったです」
「……今すぐ許してもらおうなんて思ってない。ただ、身内をトラブルに巻き込みたくないっていう気持ちもあったんだ」
「……なるほど。でも私がここにいるということは、その考え方は変わったみたいですね」
「ああ。よかったら力を貸してほしい」
「私からもお願いします、カトリーヌさん」
「ふわあ……エリンもお願いするのだ……むにゃむにゃ……」
「おいこら、寝るな! ……あ、俺からもお願いするぜ、カトリーヌ」
「……」

 俺、ミケ、エリン、ルザークのみんなでお願いした結果、カトリーヌが無言で立ち上がって俺たちの間を割るように歩き、窓を開け放った。

 お、おいおい、ちょっと心臓に悪かったぞ今の……。俺がファルナスの体を完璧に使いこなせるならともかく、彼女が本気になればこの面子じゃまず勝てまい。

「さ、寒いぞ! 早く閉めるのだっ!」
「「「エリン……」」」
「うぅ……みんなで一斉に睨まないでほしいのだ……」
「……すぐ閉めます。ちょっと頭を冷やそうと思って」

 窓を閉めて振り返ってきたカトリーヌ。それまでとは考えられないくらい穏やかな表情になっていた。

「私のほうからお願いしたいくらいです。あと一週間で15歳になるので、それから仇討ちをするために同士を集めようと思っていましたから」
「じゃ、じゃあ……」
「もちろん、オーケーです。でも、一つだけ譲れないものがあります」
「なんだ?」
「シルウを殺す権利です。彼女だけは絶対に許せません。どんなことがあっても私がこの手で殺します……」
「……」

 カトリーヌの目には涙が滲んでいた。

 ファルナスの永眠の原因がシルウにあるとはっきりした瞬間だった。俺としてはシルウを殺すなんて絶対に受け入れられないが、カトリーヌの協力を得るためにもここで否定するわけにもいかない。冷たい風がいずれ暖かくなるように、人の考えも時間が経てば変わるものだと思いたい。なんとか妥協点を見出していくしかないんだ……。



「あれは3年ほど前の話です。『アニュス・デイ』――それはファルナス様を中心とした、家族のようなギルドでした。あの女が来るまでは……」

 俺たちに囲まれる形で、ベッド上に座ったカトリーヌがおもむろに語り始めた。

「孤児院育ちなうえに捻くれ者だった私でも、自然にそう思えるような空間だったんです。ファルナス様も妹のユリス様も、みんなとても優しくて……そしてときには厳しく、私を諌めてくださいました。そんな安らぎの空間に、あの女が入ってきたんです。シルウが……」
「……」
「あの女はファルナス様に色目を使い、特にあの方と仲の良かったユリス様を目の敵にして、嫌がらせを繰り返しました。当時の私は、それが怖くて傍観することしかできない卑怯者でした」

 なるほど、ここまではルザークの言う通りだな。

「でもある日、勇気を出してファルナス様に何もかも告白したんです。そしたら、お前は何も心配しなくていいからというお言葉とともに頭を撫でてもらいました。シルウが追放されたのはその翌日のことです。これでまた、以前のような穏やかな生活に戻れると思ったのもつかの間、妹のユリス様が行方不明になりました」
「ま、まさか……誘拐?」
「はい。ユリス様の命が惜しければすぐにギルドを解散するようにと。それを言ったときのシルウの笑顔が今でも忘れられません……」

 これだけゾクゾクする女も珍しい。必ず俺のものにしてやるぞ、シルウ……。

「ギルドを解散したファルナス様に対し、シルウは地下100階のボス部屋に来るように命じて立ち去りました。そこでユリス様を引き渡すと……」
「明らかな罠だな、それ……」
「はい。ギルドの方々もみんな口を揃えてそう仰ってましたが、もし断ればどうなるかもわかっていたので行くしかなかったのです。当時、まだ12歳だった私は見守ることしかできませんでした……」

 カトリーヌの手が一層ベッドのシーツを乱していく。トラウマを引き出すようなもんだからな。大丈夫か?

「その日の夜、ギルドメンバーの一人、最年長のグラース様が瀕死の状態になりながらも戻ってきました。永眠したファルナス様を抱えて……。ボス部屋で何が起こったのか、私に伝えたあと静かに息を引き取りました……」

 そろそろ取り乱す頃合いかと思いきや、話が核心に迫るにつれてカトリーヌの眼差しからはむしろ冷徹ささえ感じるようになった。シルウに対する強い復讐心が彼女を奮い立たせているのかもしれない。

「ボス部屋の中央には、縛られて動けなくなったユリス様はいましたがボスはいなかったそうです。何故だかわかりますか?」
「何故って……まさか……これから……?」
「そうです。待ち合わせの時間は、ちょうどボスが出現するほんの少し前だったんです……」
「ってことは……」
「助けようとしたファルナス様の目の前で、ユリス様の体はボスによってバラバラに引き裂かれました」
「……」
「怒り狂ったファルナス様は、ひたすらボスを攻撃したそうです。100階のボスは、集団でも討伐に1時間はかかるほどタフなことで有名なボスでしたが、即座に瀕死の状態になり、防御態勢に入りました」
「防御態勢……?」
「はい。瀕死状態になると、身を屈めていかなる攻撃も受け付けない鉄壁状態になるそうです。そこから足元に巨大な魔法陣を出し、己の命と引き換えに永眠状態を付与するスキルを使用するのです。この状態になれば決して近付かないことが鉄則だと言われていましたが、ファルナス様は我を失い、攻撃し続けたんです」
「……それで、削り切れずにスキルを食らったのか……」
「それが、信じられないことにボスは鉄壁状態でもファルナス様の攻撃を耐えきれず、スキルを使う前にやられかけていたそうです。そこで慌てたシルウたちによる妨害に遭い、結局は……」
「……そうか。辛かっただろうけど、よく話し……」

 カトリーヌは上体を起こしたまま寝てしまっていた。俺も経験があるが、人は命の危険を感じるような衝撃に見舞われると急激な眠気に襲われるんだ。それほどのストレスを感じながら話してくれていたのかもしれない……。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位 転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

処理中です...