道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し

文字の大きさ
17 / 66

十七話 道具屋のおっさん、ワクワクする。

しおりを挟む

「ただいまー」

「おかえりー」

「……って、モルネト君!? それに、え、エレネエェッ!」

 黄昏とともにやってきたオルグが仰天するのも無理はあるまい。店内には、全裸のエレネの首にナイフを突きつける歯茎剥き出しの俺がいたわけだからな。

「ど、どういうことなんだい、これは……」

「どういうことって……おめえ、ココおかしいんじゃねえか? これからお前の妹にアレしようって思ってるに決まってんだろ? ヒヒヒッ……」

「や、やめてくれ……。エレネはまだ処女なんだ……。大事な妹なんだよ……」

「はあ? なんで処女って知ってんだよ、兄のおめえがよ」

 まあエレネには神様が見えてたんだし処女には違いないわけだが、なんで兄貴がそれを知ってるのかというのは興味深い。

「エレネは、男が苦手なんだ……。人見知りするタイプだから……」

「男が苦手っていうけどよぉ、まだ小便くせぇガキだし機会がねえってだけだろ。こいつペェペンだけどビッチの素質はあるぜぇ?」

「ひっく……えぐっ……。お兄さん、助けて……」

 エレネ、なかなかの演技力だな。オラ気に入ったぞ。

「エレネ……辛いだろうけど、耐えてくれ。モルネト君……どうしてそんな風になってしまったんだ。僕は悲しいよ……」

「うっせえ! オメーよお、マジでココイカれてんじゃねえのか? つべこべ抜かしてっと、オラの熱いかき混ぜ棒でよぉ、おめぇのでぇじな妹の穴、ズコズコすっぞ!」

「くっ……頼む……それだけはやめてくれ……。なんでもする……この通りだ……」

 オルグが弱った様子で土下座しやがった。

 へえ。こいつ、妹の命よりも貞操を奪われることのほうが遥かにダメージ高そうだな。自慢するためとはいえ妹を妻ってことにしてたわけだし、ほかの男に奪われるくらいなら殺したほうがマシくらいに考えてそうだ。

「だったら迅雷剣持ってこい。そしたら返してやっからよ」

「……え……」

「え……じゃねえよ。もう勃起がおさまらねえんだよ。早くしねえとよぉ、こいつに赤ちゃんができちまうぞ……」

「……うぐぐ……。わかったよ……わかったよ、もおぉぉぉおお!」

 オルグが泣きながら店の奥に駆け込んでいった。迅雷剣もあいつにしてみたらエレネの貞操に次ぐくらいのものなんだろうな。まもなくやつが鍵を手に戻ってきて、ケースを開け放った。わくわく……。

「どうぞ……ひっく……」

「おぉ……」

 遂に俺の迅雷剣が戻ってきた。会いたかった……。

「さ、さあ……約束通りエレネを返してくれ!」

「よし、んじゃ返す……わけねえだろ。こいつを食らいやがれ……」

「え……やめてとめてやめてとめて」

 すかさずオルグに電撃を食らわせてやった。

「とめったああぁぁぁっ!」

 ……反応は前よりよかったが気絶する程度だ。やはり威力はまだまだだな。

「エレネ、チューの時間だ」
「ちゅー……」

 エレネ、兄が目の前でやられたのにすんなり仇の唇を受け入れてる。しかもうっとりしちゃって……。すっかり俺色に染まってきたな。



「さて、そろそろ神様のところに行くぞ」

「はいっ……」

 エレネと手をつないで武器屋をあとにする。次はどんなカードが引けるのか、オラわくわくしてきたぞ。

 えーっと、武器屋前の大通り、それも真ん中を左に向かって歩いてたんだっけか。雪が降る中、馬車に轢かれてもいいくらいの気持ちで。そしたらどんどん視界が霧で悪くなっていって、気付いたら……。

 ――お、例のぼんやりとした灯りが見えてきた。ん、向こうから近付いてくるんだが……。

「神様あー!」

「モルネト、それにエレネ。よく来たの」

 ランプを手にした神様の姿が見えてくる。なんていうか、神様から凄く熱い視線を感じるのは気のせいか……?

「早速カードを……」

「おいおい、わしはカード屋じゃないぞいっ」

「えっ……違った?」

「うぬっ……神様をバカにするでない!」

「……」

 もう正直俺には神様の顔がカードに見えていたくらい、ほぼカードにしか興味がなかった。

「うぅ……。何か言うことあるじゃろ。カードの前に……」

「……言うこと?」

 しばしの間、神様と俺たちの間に妙な沈黙が生まれた。なんなんだよ、一体……。

「わ、わしに会いたかった、とか……」

「あ、そりゃ会いたかったよ。カードくれるし」

「……最後の台詞が胸に響くのぅ。やっぱりわしはただの便利なカード屋か……。もう今日は閉店といこうかの……」

「え、ちょ……。ま、まさか神様……俺に惚れちゃってるの?」

「あ、アホを抜かすでない! か、神様のわしが人間如き、それも底辺道具屋のおっさんなんぞに惚れてしまうなど……あ、あるわけがなかろう!」

「……」

 この慌て具合。どうやら図星のようだ。俺は神様にさえ惚れられてしまうほどやべーやつになったということだな……。

「でも、そんな爺さんみたいな汚い姿じゃ愛せないよ、神様……」

「調子に乗るな!」

 かなりのツンデレっぽいな、神様……。

「よしよし、愛してやるから、今度は俺好みの美少女になってくれよ」

「……う、うぬぅ。神様に向かってなんと無礼な……」

「でも、そこがいいんだろ?」

「ぐぬぬ……。か、考えとくわいっ! さ、さっさとカードを引け! 引くのじゃ!」

 神様、顔を真っ赤にして座り込むとカードを並べ始めた。何気に女の子座りだ。爺さんの姿でやられるとさすがにキツいな……。

「エレネ、どのカードにしようか」

「んー、モルネトさん、これにしましょうかぁ」

「うんうん。じゃあ、これにする?」

「はいっ」

「……やっぱり今日は止めじゃ」

「ちょ……」

 カード群が消えてしまった。これくらいで嫉妬かよ……。

「神様ぁ。いじけるなよ。大事にしてやるからさ……」

「……いいんじゃ、いいんじゃ。わしなんか……」

「神様キモいよ……」

「うむ。自分でも少し思ったわい」

「……」

 色々あったがようやくカードを引けた。なんだこれ。インフィニティ記号とともに見開いた人間の眼球が描かれてる。

「神様、これは?」

「それはな、所持している限り眠れなくなるカードなんじゃ。当然眠気も一切なくなる」

「「おおっ……」」

 エレネと声を合わせると、神様が露骨に顔をしかめた。相手が相手だけに嫉妬が怖いからちょっと手を打っておくか……。

「神様、今度来るときはちゃんと美少女になっててくれよ」

「も、もちろんじゃ。任せとけ!」

 よし、機嫌が直った。単純な神様だなあ。

「聞こえとるぞ」

「はっ……」

 そうだった。まあいいや。そういうの含めて俺のこと好きなんだろ。

「まあの。圧倒的にキモいところがまたよい……」

「おま……キモいのがいいって、どういう趣味なんだ……」

「おっと、そろそろ時間じゃ。お前好みの美少女になってやるから、必ず来るんじゃぞっ」

 神様のにんまりとした顔が歪んでいく。一体どうなることやら……。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

処理中です...