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十八話 道具屋のおっさん、ビビる。

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「……ふー、すっきりしたなエレネ……」

「ですね、モルネトさん。もうびしょびしょです……」

 俺たちはループの輪のスタート地点、すなわち深夜零時の道具屋のベッドに戻ってきたわけだが、覚醒カードのおかげで眠気がまったくないということもあり、エレネとあんなことやこんなことをして濃厚な時間を楽しんだ。

 とはいえ、さすがに疲れた……。もう正直途中で何度もドゥーテーを捨ててしまおうかと思ったが我慢した。

 今度から神様が美少女になるみたいだし、カードももっと欲しいからな。迅雷剣を取り返したとはいえ、今のままだと勇者パーティーを倒せるかどうかは怪しい。まだまだやつらに比べて俺のレベルも低いだろうしな。その前にあのハーフエルフの少女と迅雷剣でやりあってみるつもりだ。でも、それまで時間があるな……。

「そうだ、エレネ。今から外でレベル上げするのはどうだ?」

「え……でも、夜のフィールドは危険だから止めたほうが……」

 そういえば、夜は外のモンスターの強さが桁違いに上がるんだったか。町の中は結界が張られてるから安全だが、一歩外に出れば闇の中で魔力が強化されたモンスターがうようよしてるってわけだ。だから勇者パーティーでもなければ夜は外を出歩かないのが俺たちの間じゃ一般常識だった。

「でも迅雷剣あるし、死んでも無限のカードがあるしな。スリルもあって面白いだろ」

「そ、そうですね……じゃあ行きましょうか」

「って、エレネ全裸で行く気か? 服を着れ!」

「あ……」

「深夜だしそのままでもいいんだぞ?」

「いえ、寒いのではきますっ」

「俺によく見えるように着替えろ! パンツは最後にはけよ!」

「はーい」

『父さーん!』

「……」

 エレネのおかげでまた息子が元気になってきた……っと、いかんいかん。戦闘モードに切り替えなくては。今は弱くても、ゾンビアタックをかましてればいずれレベルも上がるだろう。せっかく眠らなくていいカードがあるんだから夜の時間を有効活用せねば……。



「おい待て。お前たち、どこへ行く!」

 しまった……。もうすぐ外に出ようってところで見回りしてた兵士に見付かり、呼び止められてしまった。

 プレートアーマー、シールド、ランスで武装した大男だ。しかも眉が太くてキリッとしてていかにも正義マンっぽい。まーた面倒そうなのに絡まれちゃったなあ……。

「まさか、こんな時間に町の外にでも行くつもりだったのか!?」

「……えっと、そうじゃなくて深夜デートで外を眺める予定でね。なあ、エレネ」

「はいっ」

「はあ!? デートにしてはいくらなんでも年齢差がありすぎだろう! しかもこんな夜更けに……どう考えても怪しいやつだ! ちょっと詰所まで来てもらうぞ!」

 うわ。こりゃまずいな。デートって言った以上付き合ってるわけで、エレネが13歳だとわかると罰金ものだし、金がないから担保として迅雷剣を没収される可能性が高い。だがこれだけは渡せん……。

「おい、お前今何を背中に隠した!?」

 クソッ。こうなったら……。人によっては魔法耐性ってのがあるから、通用しなかったらアウトだが、一か八か、迅雷剣をやつに向かって振ってみた。

「見せてみ――ぎゃああああっ!」

 お、電撃であっけなく気絶してくれた。体格じゃ完全に負けてただけに若干びびったがこんなもんか。雑魚だな。

「エレネ、俺に逆らったらこうなるんだからよく見ておけ」

「は、はぃ……」

 倒れてる間に兵士の喉を一突きすると、赤い噴水が出てきてとても綺麗だった。エレネは見た瞬間、思いっきり顔を背けてたが。うーむ、やっぱ迅雷剣はいいなあ。これなら夜のモンスターもなんとかなりそうだ。

 ――というわけで町を出たんだが、周囲の様子が明らかにおかしい。こう、なんていうか闇そのものが生きていて肌を徐々に蝕んでいくような嫌すぎる感覚……。

 それも町の灯りを掻き消すくらいの闇で、自分のすぐ近くはともかくちょっと先のほうでもほとんど見えないんだ。見えるのは自分の体とすぐ側にいるエレネくらいで、不安なのか俺にずっとくっついていた。

「エレネ、怖いか?」

「怖いです。……うっ……」

「ど、どうした?」

 振り返るとエレネが口を押さえていた。

「……い、今、何かが口の中に入ったような……」

「どれどれ?」

 エレネの口の中を見てみたが、特に変わった様子はない。

「液体みたいなのが、ずるっと入って……」

「あれだ、葉っぱについた水滴かなんかが飛び散って口に入ったんじゃ?」

「なるほど」

「ついでに俺のポーションも飲むか? 直で」

「いえ、あとでいいです」

 しっかし暗いなあ。町の灯りや月明かりに助けられてるとはいっても、これじゃ戦う以前にモンスターの姿がよく見えないじゃないか……。

 あ……そういえば、特殊な灯の魔法でなければこの魔力に満ちた闇を明るく照らすことはできないんだっけか……。今更こんな大事なことを思い出してしまった……。早く思い出せよ俺……。

「え、エレネ、やっぱり戻ろうか……」

 振り返ったとき、エレネの首はなくて、代わりに青いスライムが傷口からにゅっと出てくるところだった。

「な……な……!?」

 スライムがエレネに寄生してやがったんだ……。てか、なんか冷たい感触がすると思ったら……スライムたちがびっしりと俺の体に張り付いていた。

 う、うげえ……。夜のフィールド恐るべし……。まあいつでもやり直せるしなあ。というわけで、俺は早速迅雷剣をやけくそに振り回したあと、自分の喉を突いた。ぐはっ……。
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