道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し

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二十六話 道具屋のおっさん、集中する。

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「んじゃ、爺さん、ここでちゃんと待っててくれよな?」

「は、はいですじゃ……」

 山の麓で、俺は御者の爺さんに優しく呟いた。震える首元に血が滲むほど迅雷剣を当てながら。

 俺たちにしてみたらこの爺さんは顔馴染みでむしろ愛着さえ湧いてるんだが、向こうからしてみたらそうじゃないからな。やたらと馴れ馴れしい狂人にしか見えないはずだし、すっかり怯えちゃてるから大丈夫だろう。

 最悪、逃げたら死に戻りすりゃいいだけだ。近くの山とはいえ、さすがにここから町へ戻るにも徒歩じゃ遠いからな。

「あの、モルネトさん……」

 なんだ、エレネが耳打ちしてきた。

「一応占ったほうが……」

「……そうだな」

 早回しで見ればいいだけか。占いのカードは念じる力が強ければ強いほど、30分後の未来まで早く到達するわけだし。

 というわけでカードをおでこに当てる。1があっという間に30になったが、御者の爺さんは頭を抱えたままずっと震えていて、馬車もそのままだった。

「どうでしたか?」

「逃げてなかったよ」

「そうなんですねぇ……あ、そうだ。この人、レベル132もあるんですよ」

「ええっ!?」

 ……そうか。それでエレネが一応占うように言ってきたわけだな。極端に気が弱いだけで、実はこう見えて結構強いのかもしれない。

 とにかく30分は大丈夫ってことだが、この怯えようだといくらレベルが高くても年齢的にいつ心臓発作を起こされてもおかしくない。だから狩りも30分くらいで終わらせたほうがいいかもな。



 フウウゥゥッ、キモティー……順調、とにかく順調だった。

 山の麓に出てくるモンスターを倒し始めたわけだが、僅か数分ほどで11レベルの50%まで溜まっていた。フィールドとは大違いだ。

 ここに出てくる敵は今のところ三種類で、エレネの説明によると、低空飛行で旋回を繰り返す切り株はブーメランスタンプ、甲に口がある赤い手のような植物はアースハンド、鋭い棘を全身に生やしてジグザグに飛行する鳥はソーンバードというらしい。

 こんな物騒なのがうじゃうじゃいたから最初はどうなるかと思ったが、木や岩等、障害物の後ろに隠れて迅雷剣を振り、雷を当てるだけで全種一発で落ちてくれるから笑いが止まらなかった。しかも射的の要領でやれて経験値もよく、すぐ湧いてくるから飽きが来ない。稀に横湧きするときがあるからそこに注意するくらいだな。

 ……お、力がムクムクッと湧いてきた。レベルが上がったかな。

「モルネトさん、レベル12ですよっ。おめでとうです。ちゅー……」

「おう、ありがとよエレネ。しょうがねぇなあ。ブチュー」

 エレネに唇のプレゼントだ。うっとりしやがって。すっかり俺の虜だなあ、このウサビッチは……。

「……ん?」

 なんだ、モンスターたちが一斉に隠れた。俺の迅雷剣にびびったのか? いや、俺は今雪が積もった大樹の後ろに隠れてるわけで――はっ……。

「「ひっ……!?」」

 まだ昼前だというのに周囲が一気に暗くなり、また明るくなったかと思うと腹の底から揺さぶられるような強い衝撃がした。

 ……こ、これはまさか……。枝から頭に落ちてきた雪を払ったあと、恐る恐るエレネと一緒に木陰から顔を出した。

「「……スノードラゴン……」」

 俺たちは震えた声を合わせていた。

 全身真っ白の美しいドラゴン……。それまであった視界が全部埋め尽くされるほどの巨体で、首だけで5、6メートルはありそうだ。獲物を探しているのか、長い首を上に伸ばして周囲を見回している。ガキの頃に空を飛んでるのを一度見たことがあるが、ここまで近くから見たのは初めてだ……。

 俺たちには気付いてないのか、あるいは気付いているが興味がないのか。どっちにせよ、逃げようと思えば逃げられそうだ。ただ、もし倒せるなら相当経験値稼げそうだよな……。

「エレネ、ステータスカードであいつの経験値を調べてくれ」

「は、はい……えっと……わぁ、23459だそうです……」

「……」

 言葉が出なかった。この辺で戦ったモンスターの中で一番経験値のあるアースハンドが115だからな。桁が違う……。

「やっちまおうか、エレネ」

「で、でも、もしも倒せなかったら……」

 あえてやつのレベルまでは聞かなかった。それを聞くとためらってしまいそうだからな。

「そのときは食われるだけだ」

「そ、そんなぁ……」

「……」

 エレネ、あんまり怖がってなさそうだな。まあ俺に股間から脳天にかけての串刺しを二度もされたくらいだし当然っちゃ当然か。しかも二回目はこいつに望まれてやったことだからな……。

 というわけで、やるか。俺はもうやる気満々だ。

「あ、ちょっと待ってください」

「ん?」

「私が未来を占ってみますねっ。カードお願いです」

「お、おう……」

「……」

 エレネのやつ、占いのカードをおでこにつけてまもなく、はっとした顔になった。

「ど、どうした? エレネ……」

「……見えました。迅雷剣、凄く効いてます……」

「お、じゃあ倒せるのか?」

「でも、一発目で動かなくなったから、倒せたと思って二人で喜んだところでスノードラゴンが起き上がって……気が付いたときには食べられちゃいました……」

「……死んだ振りされたんだな」

「みたいですね……」

「死んだ振りするくらい効いてるってことならいけるかもしれない。まったく効いてないならそれすらやる必要がないわけだしな」

 よく考えたら、スノードラゴンは水属性。電撃を出せる迅雷剣からすれば格好の獲物だ。

「な、なるほど……」

「なぁに。死んでも道具屋のベッドに戻るだけだ。行くぞ!」

「はい……!」

 俺は木陰から迅雷剣をスノードラゴンに向かって何度も何度も振り下ろした。やつが咆哮を上げながら迫ってきても、一心不乱に電撃を出し続けた。

「――た、倒せた……?」

 気が付いたときには、スノードラゴンは俺たちのすぐ目の前で息絶えていた。とはいえ、結構危なかった。大樹を根本から折られたときはもう、さすがにダメかと……。

「……す、凄いですモルネトさんっ、レベル……滅茶苦茶上がってます……!」

「ど、どれくらいだ?」

「12から、175です!」

「お、おおっ……」

 たった一匹で163も上がったのか……。正直まだ足が震えてるが、さすが俺……!

 んっ……ジイィィィク……モルネトオォオッ!
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