上 下
40 / 66

四十話 道具屋のおっさん、思案する。

しおりを挟む

「ただい――まっ!?」

 帰ってきたオルグが驚愕した表情のまま氷漬けになった。愛する妹の手によって……。

「よくやった。エレネ」

「はい……」

「「ちゅー……」」

 オルグの氷像前でキスをするのもまた一興だ。兄に見られて興奮しているのかエレネの鼻息がまた荒くなってる。

「こいつどうする?」

「んー……店内に飾っちゃいましょうかっ」

「……」

 エレネって割と小悪魔かもしれない。というわけで迅雷剣のあった場所に凍ったオルグを展示しておいた。全裸ならまだよかったのになあ。

 ……っと、こんなやつにいつまでも貴重な時間を使ってられない。明日までにハーフエルフのリュリアを倒す方法を考えなくては。あいつは単に強いだけじゃなくて戦闘経験が豊富なんだ。だからレベルが近付いたくらいじゃ勝つのは難しいだろう。

 何より身体能力がずば抜けてて俊敏なのが厄介だ。かといってやつを氷漬けにしてしまうと迅雷剣が効かなくなるし……って、待てよ。そうか。わかったぞ、やつに100%勝つ方法が。

「エレネ、次はゴニョゴニョしてくれ……」

「あ、はい。わかりましたっ」

「「ちゅうぅ……」」

 耳打ちついでに、吸い込まれるようにキスをしてしまう。もう病気だ。



 さあ、今日は神様からどんなカードを貰えるのか。

「エレネ、今日はお前に引かせるよ」

「ええっ……。嬉しいです……」

「「ちゅっちゅ……」」

 だ、ダメだ。キスが止まらない。こんなところ、神様に見られたら……。

「……見とるぞ……」

「「ええっ!?」」

 気が付くと神様がすぐ近くにいた。また向こうから来てたなんて。それも早すぎ……。

「モルネト、エレネ、相変わらずラブラブじゃのー」

 恨めしそうに俺たちを見上げてる。顎付近に灯りを当てて不気味さが増してるな。まるで死神だ……。

「誰が死神じゃ! もう知らん! カードもやらん! ふんっ!」

「……」

 既にいじけモードだ。まずいな……って、よく見ると神様、マントを着てるんだが、あまりにも短くてアソコが見えそうになってる……。

「……ふふふ。よく気付いたの」

 神様、まさか……。

「そうじゃ、これが恥じらいの極致、チラリズムというやつじゃ。ホレホレッ……」

「……」

 ドヤ顔でマントの裾をたくしあげる神様。それじゃチラじゃなくてモロなんだが。

「おっと、ちとはしゃぎすぎたのっ。チラチラッ……」

 確かにエロいが、神様が全然恥ずかしそうじゃないからなんか違うんだよなあ。

「うぬうう……。いやぁん、じゃっ!」

「……」

 恥ずかしそうにしつつも俺の目の前でチラチラ、チラチラ。もうこれただの痴女だな。

「……む、難しすぎるのじゃ……ひっく……。もう知らないのじゃ。バカァー!」

「……」

 神様、自分が神様だってことをもう忘れてそうだな。俺の心を読むのも忘れて地面を指でいじくりまわしてるし。そういう風にさせてしまった俺は罪な男だ……。

「神様……チラリズム、エロかった。勃起しちゃったよ……」

「ええっ!?」

 気が付くと目を輝かせた神様が股間の前にいた。俺、どんだけ罰当たりなんだ。

「なんじゃ……全然勃起しとらんじゃないかっ」

「ちょ、ちょうど収まったんだよ」

「……ぬう。見たかったのー……」

「そ、それよりカードを……」

「そういえばもう時間かー。あ、カードはあと5枚しかないぞい」

「えっ……」

 神様が足元に並べたカードはいつの間にか5枚のみになっていた。そんだけ俺が引いたからか。

 無限カード、占いカード、覚醒カード、ステータスカード、パーティーカード……の計5枚だ。

「……この中にな、決して引いてはならんカードが一つだけある」

「え……」

 俺は右端のカードを引こうとしたが、寸前で手を止めてしまった。悩むなこりゃ。どれにしよう……。

「だから、引かないという選択肢もありじゃ」

「……その引いてはならないカードって、死んじゃうとか?」

「いや、それはない。じゃが……おっと、ネタバレになるからこれ以上は禁止じゃ!」

「……」

 な、なんか怖いなあ……って、今回は俺が引くんじゃなくてエレネだった。

「エレネ、頼む……」

「は、はい……」

 左端のカードを取ったエレネの手が震えていたので、そっと俺の手を重ねてやった。

「大丈夫だって……」

「はい……」

「「……」」

 エレネと見つめ合う中、はっとして神様のほうを見やると、かなり遠くで座り込んでいた。あー、完全にいじけちゃってるな。……っと、視界が歪んでいく。次に会うときはしっかり慰めてやらないと。カードを貰うために。
しおりを挟む

処理中です...