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21.過疎
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「「――はあ……」」
翌日の早朝、僕とアリシアが発した溜め息が重なる。
カフェが営業を始めてから結構経ってるっていうのに、客がまったく入らないんだ。おっかしいなあ。昨日あれだけ客が来てくれた上、『美味しい』、『長閑』、『景色がいい』、『お店が綺麗』なんて声があっちこっちから飛んでたし、今日も来てくれるとばかり思ってたのに……。
窓の外を見ても晴れ渡ってるしなあ。時々スモークが邪魔するくらいで……。
「あっ……!」
突然扉が開かれたから、ついに客が来てくれたと思ったら、司祭様だった。
「ふわぁぁ……うふふっ、寝坊しちゃいましたぁ……」
「珍しい……ね、アリシア」
「そ、そうね……」
司祭様が寝坊するくらいだし、今日はたまたま客が来ない日だったのかな? かなり前向きな考え方で、問題点から逃げてるだけかもしれないけど。
「それにしても……お客さんがいませんねえ……」
「そうなんですよ、司祭様。何か原因とかあるんでしょうかね……?」
「うーん……わたくし、ここのコーヒーはとっても美味しいと思うんですがぁ……何かが足りないように思えるのです……」
「何か……?」
「そのぉ……まろやかさ、みたいなものが欠けているような気がします……」
「……」
まろやかさ、か。やっぱりコーヒーの味のことかな。苦みが強すぎるとか……?
「わたくしなら……どんなに美味しくても、足に優しい身近な店に行ってしまいますねぇ……」
「な、なるほど……」
なんだ、そういう意味のまろやかさなのかあ……。確かに司祭様の言ってることはごもっともだ。僕でもわざわざ遠出なんてせずに近くのカフェに行っちゃうと思う。
「それではぁ、遅れを取り返してきますねぇ。ふわぁ……」
「「はい」」
司祭様が欠伸をしながらその場をあとにする。
「アリシア、どうしようか? もういっそカフェの場所を変えちゃう……? 都に近いところにするとか……」
「んー……あたしとしては、確かに辺鄙な場所だって思うけど、静かな場所が好きだしここでいいんじゃない……?」
「そっかあ……。アリシアもここがいいよね。僕も、あんまり賑やかすぎるところは好きじゃないし、こっちのほうがいいかも……?」
「じゃあここでいいでしょ! いちいち聞かないでよ!」
「うん、そだねっ」
相変わらず一人も客が来ないけど、今日みたいな日もあるかもだし、しばらく待つことにした。
「――アハハハハッ!」
「「っ!?」」
突然響き渡った豪快な笑い声で心臓が止まるかと思う。この途轍もない声量はもう、オーガ子しかいない。窓のほうを見たら案の定、彼女が呆れたような顔でこっちの様子を覗き込んでいた。
「話は聞いてたよ。あんたらって、本当にお人よしだねえ……」
「オーガ子さん、お人よしってどういうこと?」
「どういうことなのよ、オーガ子……?」
「だってそうだろ。客が来ないのが、都から遠いだけだって本気で思ってんなら、相当なお花畑だってあたいは言いたいんだよ」
「じゃ、じゃあほかに何が――?」
「――フーッ……!」
「「ゴホッ、ゴホッ……!?」」
不意打ちで煙を食らってしまった……。
「まあ落ち着いて聞きな。いくら遠いからって、それでも開店したばかりで評判もよかったならさ、一人くらいは来てもおかしくないだろ」
「た、確かに……」
「それが一人も来ない時点で、普通は不自然だって気付く。違うかい……?」
「と、いうと……?」
「まあ大方、変な噂でも立てられちまったんじゃないのかい?」
「あっ……!」
ま、まさか、あいつらが……ビスケスたちが、オーガ子にやられたことを恨みに思って、根も葉もない噂を流してる可能性があるってわけか……。
「それなら、都まで今すぐ様子を見に行かないと――」
「――セイン、それならあたしが行くわ」
「ア、アリシアが……? でも……」
「ま、それくらいしかやることなんてないし……」
「アハハッ! よくわかってんじゃないか、そこの小娘。なんならあたいが行ってやってもいいんだよ……?」
「い、いや、オーガ子さんは目立ちすぎるし……」
「嫌だけどあたしもセインに同意するわ。それに、そのままオーガ子に逃げられちゃうかもだし……」
「フンッ、バレちまったか……」
そのとき、オーガ子の目が怪しく光るのがわかった。用心棒の彼女に逃げられるわけにはいかないし、ここはアリシアにお願いするとしよう。
「それじゃ、アリシア、絶対に無理だけはしないようにね」
「はいはい」
そういうわけで、僕は看板娘のアリシアを都に派遣して、事の真相を探ることにしたのだった……。
翌日の早朝、僕とアリシアが発した溜め息が重なる。
カフェが営業を始めてから結構経ってるっていうのに、客がまったく入らないんだ。おっかしいなあ。昨日あれだけ客が来てくれた上、『美味しい』、『長閑』、『景色がいい』、『お店が綺麗』なんて声があっちこっちから飛んでたし、今日も来てくれるとばかり思ってたのに……。
窓の外を見ても晴れ渡ってるしなあ。時々スモークが邪魔するくらいで……。
「あっ……!」
突然扉が開かれたから、ついに客が来てくれたと思ったら、司祭様だった。
「ふわぁぁ……うふふっ、寝坊しちゃいましたぁ……」
「珍しい……ね、アリシア」
「そ、そうね……」
司祭様が寝坊するくらいだし、今日はたまたま客が来ない日だったのかな? かなり前向きな考え方で、問題点から逃げてるだけかもしれないけど。
「それにしても……お客さんがいませんねえ……」
「そうなんですよ、司祭様。何か原因とかあるんでしょうかね……?」
「うーん……わたくし、ここのコーヒーはとっても美味しいと思うんですがぁ……何かが足りないように思えるのです……」
「何か……?」
「そのぉ……まろやかさ、みたいなものが欠けているような気がします……」
「……」
まろやかさ、か。やっぱりコーヒーの味のことかな。苦みが強すぎるとか……?
「わたくしなら……どんなに美味しくても、足に優しい身近な店に行ってしまいますねぇ……」
「な、なるほど……」
なんだ、そういう意味のまろやかさなのかあ……。確かに司祭様の言ってることはごもっともだ。僕でもわざわざ遠出なんてせずに近くのカフェに行っちゃうと思う。
「それではぁ、遅れを取り返してきますねぇ。ふわぁ……」
「「はい」」
司祭様が欠伸をしながらその場をあとにする。
「アリシア、どうしようか? もういっそカフェの場所を変えちゃう……? 都に近いところにするとか……」
「んー……あたしとしては、確かに辺鄙な場所だって思うけど、静かな場所が好きだしここでいいんじゃない……?」
「そっかあ……。アリシアもここがいいよね。僕も、あんまり賑やかすぎるところは好きじゃないし、こっちのほうがいいかも……?」
「じゃあここでいいでしょ! いちいち聞かないでよ!」
「うん、そだねっ」
相変わらず一人も客が来ないけど、今日みたいな日もあるかもだし、しばらく待つことにした。
「――アハハハハッ!」
「「っ!?」」
突然響き渡った豪快な笑い声で心臓が止まるかと思う。この途轍もない声量はもう、オーガ子しかいない。窓のほうを見たら案の定、彼女が呆れたような顔でこっちの様子を覗き込んでいた。
「話は聞いてたよ。あんたらって、本当にお人よしだねえ……」
「オーガ子さん、お人よしってどういうこと?」
「どういうことなのよ、オーガ子……?」
「だってそうだろ。客が来ないのが、都から遠いだけだって本気で思ってんなら、相当なお花畑だってあたいは言いたいんだよ」
「じゃ、じゃあほかに何が――?」
「――フーッ……!」
「「ゴホッ、ゴホッ……!?」」
不意打ちで煙を食らってしまった……。
「まあ落ち着いて聞きな。いくら遠いからって、それでも開店したばかりで評判もよかったならさ、一人くらいは来てもおかしくないだろ」
「た、確かに……」
「それが一人も来ない時点で、普通は不自然だって気付く。違うかい……?」
「と、いうと……?」
「まあ大方、変な噂でも立てられちまったんじゃないのかい?」
「あっ……!」
ま、まさか、あいつらが……ビスケスたちが、オーガ子にやられたことを恨みに思って、根も葉もない噂を流してる可能性があるってわけか……。
「それなら、都まで今すぐ様子を見に行かないと――」
「――セイン、それならあたしが行くわ」
「ア、アリシアが……? でも……」
「ま、それくらいしかやることなんてないし……」
「アハハッ! よくわかってんじゃないか、そこの小娘。なんならあたいが行ってやってもいいんだよ……?」
「い、いや、オーガ子さんは目立ちすぎるし……」
「嫌だけどあたしもセインに同意するわ。それに、そのままオーガ子に逃げられちゃうかもだし……」
「フンッ、バレちまったか……」
そのとき、オーガ子の目が怪しく光るのがわかった。用心棒の彼女に逃げられるわけにはいかないし、ここはアリシアにお願いするとしよう。
「それじゃ、アリシア、絶対に無理だけはしないようにね」
「はいはい」
そういうわけで、僕は看板娘のアリシアを都に派遣して、事の真相を探ることにしたのだった……。
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