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1.祝賀会

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「「「「乾杯っ!」」」」

 俺は【聖なる息吹】ギルドの仲間たちとグラスを合わせ、なみなみと注がれた酒をぐっと飲み干す。いやー、旨い。これだけのためにやってるんじゃないかと思えるほど至福の瞬間だ。

 みんな体がだるいっていうもんだから、ここ数日は俺が一人でB級の依頼を10個達成して遂にA級までギルドランクが上がり、それで自分を含むメンバー四人が王都パルメイラスの城のホールに招待され、めでたく祝賀会の運びとなったんだ。

 俺は昔から回復術しか取り柄がなくて、そればかりに力を入れてきた。だからよく昔から回復オタクのラフェルなんて呼ばれてからかわれてきたが、これでようやく少しは報われた感じなのかな。

 周囲には名のある冒険者たちがちらほら散見でき、これでもかと豪華な食事で彩られたテーブルを囲んでいる。ふと、俺はまだ自分がここにいることが信じられなくてギルドカードを確認することにした。

 名前:ラフェル
 年齢:20
 性別:男
 ジョブ:回復術師
 冒険者ランク:S
 所属ギルド:【聖なる息吹】
 ギルドランク:A

 やっぱり現実だったのでホッとする。冒険者ランクがSなのはギルドランクよりは上がりやすいってのもあるが、それだけ頑張ってきた証拠だ。ただ、俺としてはまだ有名人たちと肩を並べたなんてまったく思ってなくて、回復術師としてはまだまだ未熟だと感じてるしこれからも精進するつもりではある。

「――さて、俺たちが今後やるべきこと、おめーら、わかってるよな!?」

 がさつだがスタミナ充分なギルドマスターの聖騎士クラークが声を張り上げる。

 今後やるべきこと、か……。それはもちろん、ギルドのランクをさらに上げていくことだろう。城に招待されるくらいだからA級でも充分強いが、全体としてのランクはまだ中間よりちょっと上でしかないんだ。

 S級だと一つの町を作ることができるようになり、その町限定でギルドマスターが独自の法律を決めることが許される。SS級だと自分だけの国を作れるくらいの権力を持つことができ、SSS級ならこの国だけでなくほかの国々を侵略でき、さらにレジェンド級なら世界中の覇権を軽々と手中に収めることができるとまでいわれる。想像するだけでワクワクしてくるレベルだ。

「わかってるよ、クラーク、あれよね?」

 魔術師の少女エアルが声を弾ませる。あれってなんだ? 何故はっきり言わずにぼやかすんだろう? 普段からあんまり深く考えないタイプに見えるし、実はわかってないんじゃないか。

「あれですね、僕もわかります」

 真面目な剣士ケインまでもが便乗していた。あれってなんだよ。

「「「回復術師の仲間を作ることー!」」」

「え……」

 予定調和のように同時に飛び出した三人の言葉に俺は耳を疑う。

「回復術師の仲間って、俺がいる――」

「――んじゃラフェル、そういうわけだからおめーは追放だ」

「……じょ、冗談だろ、クラーク」

「はあ? 冗談じゃねーよ、アホ。そもそもこの祝賀会はよ、おめーみたいなゴミからさよならできることを祝う会でもあるんだからよ」

 俺はクラークの台詞に対し、頭が真っ白になっていた。

 なんでここまで来て追放されなきゃいけないんだ。何か重大なミスをしたような覚えもないのに。ただ、自分だけそう思っていただけで、周りには痛恨のミスをしているように感じたのかもしれない。

「頼む、教えてくれ。どうして追放されなきゃいけないんだ……?」

「わかんねえならそのちっちゃい脳みそ振り絞ってよく聞け、カス。いいか? おめーみたいな回復術師の代わりなんていくらでもいるってこった。だって回復するだけだろうが。なあ、エアルもそう思うだろ?」

「そーそー。回復しかできないって、最低。いかにも無能のお荷物って感じ?」

「まったくです。回復術師なら誰でもあなたの代わりは務まりますよ。それならべっぴんさんのほうが百倍いいですねえ」

「お、ケイン、俺と気が合うなあ。さらに巨乳ちゃんがいいぜえ!」

「むほほ、それもいいですが僕はお尻がおっきい子が好みですねえ」

「二人ともドスケベ! あたしならイケメン様のほうがいいなー。まあ誰でもこの無能さんよりマシなんだけどっ」

「「「アハハッ!」」」

「……」

 色んな感情が絡み合って縺れた思考を、得意の回復術によって元に戻す。

 どうやら俺が何か目立つ失敗を犯したわけでもないらしい。つまり回復術自体、回復術師であれば誰であっても同じようなものだと甘く見られてるってことか。

 確かに聖騎士クラークは攻撃と防御の役割をバランスよくこなせるし、魔術師エアルは攻撃魔法に加えて補助魔法も兼ね備えてて、剣士ケインは巧みな剣捌きだけでなく気配を察する能力にも優れ、攻撃と索敵の役割をほぼ同時にこなす。回復術師ができることは回復することだけだと軽んじられても仕方ない。

 舐められやすい職業なんじゃないかと危惧はしてたが、まさかここまで温度差があるなんてな。それでも、自分なりに色んな面で神経を使い、全力で貢献してきたつもりだった。

 なのに総スカンを食らうわけだから、もうここに居場所なんてないんだろう。これから先、このギルドでどれだけ頑張っても絶対に認められないということになる。

「わかった。そういうことなら消えるよ。今までありがとう」

 俺はギルドカードを懐から取り出すと破り捨ててやった。

「お、おう。わかったならとっとと消えろ、ゴミ!」

「無能のお荷物、消えてっ」

「とっとと消えてくださいよ、役立たずさん」

「「「バイバーイッ!」」」

「くっ……」

 目眩がしそうになったが、回復術でカバーしつつ俺はその場をあとにした。
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